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限界社畜、異世界で【コンビニ】を開店する〜女神に貰ったスキルで辺境村を救ったら、ワケありヒロインたちに囲われてます〜  作者: 月神世一


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EP 6

丸めた新聞紙の鉄槌と、バズる説教配信

 異世界コンビニの店長業務――もとい、ポポロ村のロジスティクス統括を終えた丸川光雄は、深夜のアパート『ポポロ・コーポ』A301号室の扉を開けた。

 キャルルという極めて優秀な右腕(ヤンデレ村長)の働きもあり、店舗の売上は今日も右肩上がりだ。肉体的な疲労は闘気でカバーできても、商社マン特有の『脳の疲労』は甘いコーヒーと睡眠でしか癒やせない。

「……ただいま、と」

 ネクタイを緩めながらリビングへと足を踏み入れたミツオだったが、瞬時にその足が止まった。

 部屋の照明は薄暗く落とされている。

 そして部屋の中央には、何やら怪しげな祭壇のようなものが築かれており、その前でエンジ色の芋ジャージを着た少女――リーザが、正座をして一心不乱に祈りを捧げていたのだ。

「おお、偉大なる女神ルチアナ様……。どうか、どうかこの壺の力で私の背後にへばりつく怨霊を祓い、太客の石油王さんを私のチャット欄へとお返しくださいませ……。ラブ&マネー、ラブ&マネー……」

 ブツブツと呪文のように呟きながら、リーザは目の前に置かれた『鈍く光る奇妙な壺』を後生大事に撫で回している。

「……おい。何やってんだお前」

「ひゃんっ!? み、ミツオ様!? おかえりなさいませですの!」

 ミツオが呆れ声で呼びかけると、リーザはビクッと肩を跳ねさせ、慌てて壺を背中に隠そうとした。だが、その挙動不審さは逆にミツオの商社マンとしての『不祥事探知レーダー』を激しく刺激した。

「隠すな。その薄気味悪い壺はなんだ」

「こ、これはですね! 私の運気を爆上げしてくれる『大宇宙浄化・開運万象壺』ですの! これさえあれば、私から離れていった石油王さんも必ず戻ってきて、赤スパの嵐が……」

「……いくらした」

 ミツオの声が、絶対零度のそれに変わった。

 リーザは目を泳がせながら、モジモジと指を絡ませる。

「え、ええと……特別価格で、金貨五十枚、ですの」

 金貨五十枚。日本円にして約五十万円。

 ミツオはこめかみを押さえた。

「お前の全財産は、俺が昨日払った給料の銀貨数枚と、真鍮の五円玉一枚だけだったはずだ。どうやってその金を作った?」

「そ、それは……壺を売ってくれた心優しい火原様が、審査なしで即日融資してくれる良心的な機関を紹介してくれまして! トイチ?っていう、とってもお得なプランで……」

「トイチ(十日で一割)の闇金じゃねえか!!」

 ミツオの怒鳴り声が、夜のアパートに響き渡った。

 審査なし、即日融資、そして情弱を狙った高額な霊感商法。前世の日本でも散々使い古された、マルチ商法と悪徳ローンの最悪なコンボである。

「アホかお前は! どこからどう見ても典型的な詐欺だろうが!」

「さ、詐欺じゃありませんの! この壺からは、凄まじい古代の魔力が……ほ、ほら、ミツオ様も触ってみれば分かりますわ!」

 リーザが反論しようと、胸に抱いていた『大宇宙浄化・開運万象壺』をミツオに向かって突き出した、その瞬間だった。

 彼女のユニークスキル【貧乏神】――悪運に対する極限の耐性と、周囲の運気を底辺へと引きずり込むパッシブスキルが、無意識のうちに発動した。

 その壺は、火原元の【劣化コピー】によって作られた、中身が空洞のただの粗悪な泥壺である。

 引張強度ゼロ、魔力伝導率ゼロの究極の『チャイナボカン仕様』。

 それが、リーザの【貧乏神】のオーラに触れた結果。

 ――パァンッ!!

「……え?」

 リーザの手の中で、壺がまるで風船が弾けるように、唐突に粉々に爆縮した。

 何の衝撃も与えていない。ただ差し出しただけで、自らの耐久度の無さに耐えきれず、サラサラの泥の粉へと還ってしまったのだ。

「あ……ああ……? わた、私の、金貨五十枚の開運壺がぁぁぁっ!?」

「……見ろ。これが『原価ゼロの産業廃棄物』の末路だ。ただの泥を固めただけのパチモンだろうが」

 膝から崩れ落ち、泥の粉をかき集めようとするリーザ。

 ミツオは深く息を吐くと、虚空に【コンビニ】のウィンドウを展開した。

 彼が呼び出したのは、武器でも食料でもない。コンビニの雑誌コーナーに置かれている、極めて分厚い『日曜版のスポーツ新聞』だった。

 ミツオはその分厚い新聞紙を、キュッ、キュッと音を立てて硬く丸め、完璧な『ハリセン』を構築した。

「リーザ。ちょっと歯を食いしばれ」

「え? ミツオ様、何を――」

 ――スポコォォォンッ!!

「ふぎゃあっ!?」

 硬く丸められたスポーツ新聞の角が、リーザの青い後頭部にクリティカルヒットした。

 中身が紙であるため怪我はしないが、丸め方がプロ(元社畜)のそれであるため、脳天にスパンッと小気味良い衝撃と痛みが走る。

「い、痛いですのぉっ! 何をするんですかミツオ様!」

「いいか、よく聞けこのアホ人魚!」

 ――スポコォォンッ!!

「あうっ!」

「もし本当に金貨五十枚で運気が上がって大金持ちになれる壺があるならな、売ってる奴が自分で買い占めて市場を独占してるんだよ! わざわざ見ず知らずの貧乏人に『お得な話』として持ってくる時点で、その商品には価値がねえって証拠だ!」

 ――スポポォォンッ!!

「ひゃうっ!」

「だいたいトイチの恐ろしさを分かってんのか! 複利の計算をしてみろ! 十日で一割の利息が雪だるま式に膨れ上がれば、数ヶ月後には金貨五十枚が五百枚、五千枚に膨れ上がるんだぞ! お前のアイドルのスパチャでどうやって返す気だ! マグローザ漁船で一生マグロを釣るハメになるぞ!」

 ――スポコォォォンッ!!

「ふえぇぇぇんっ! ごめんなさいですのぉぉっ! 私がバカでしたわぁぁっ!」

 ミツオの丸めた新聞紙による、愛の鉄槌と冷徹な経済学のレクチャー。

 リーザは頭を抱えてカーペットの上で蹲り、ぽろぽろと涙をこぼしながら反省の言葉を口にしていた。

「まったく……。少し目を離した隙に、とんでもない不良債権(負債)を抱え込みやがって……」

 ミツオが新聞紙を下ろし、説教を終えようとした、その時だった。

『wwwwwwww』

『オカンの説教で草』

『新聞紙の音が良すぎるwwASMRかよww』

『正論すぎてぐうの音も出ない』

『トイチの恐ろしさを語るオカンに赤スパ!』

 部屋の隅から、大量の電子音と、チャリンチャリンというスーパーチャットの通知音が鳴り響いた。

 ミツオが視線を向けると、ソファの陰に隠れるようにして、トップゴッドチューバーのキュララがエンジェルすまーとふぉんを構えていた。

 彼女は口元を抑えて必死に笑いを堪えながら、この『ミツオの説教タイム』を全宇宙に向けてゲリラ生配信していたのだ。

「お前……何勝手に撮ってんだ」

「あははははっ! ご、ごめんなさいミツオさん! あんまりにもこの貧乏魚がマヌケに騙されてるのと、ミツオさんの丸めた新聞紙のツッコミがキレッキレだったから、ついカメラ回しちゃって!」

 キュララがスマホの画面をミツオに見せると、そこにはかつてないほどの勢いで流れるコメントと、爆上がりしているPV(視聴者数)が表示されていた。

「見てよこれ! 『極貧地下アイドル、詐欺に引っかかって保護者に新聞紙でシバかれるの巻』ってタイトルにしたら、同接がいつもの三倍になったわ! みんな、ミツオさんの正論ツッコミと、リーザの情けなさに大爆笑してる!」

「なっ……!? わ、私の恥ずかしい姿を、全宇宙に晒しましたのね!? この手羽先女ぁぁっ!」

「いいじゃない、これで少しは借金の足しになるスパチャが稼げたんじゃない? もちろん、私のチャンネルの収益だけどね〜っ☆」

「キーッ! 許しませんの! そのスパチャをよこしなさい!」

 再びキャットファイトを始めようとする二人の頭に、ミツオは無言で新聞紙の鉄槌ダブルを振り下ろした。

「「あいたっ!!」」

「静かにしろ。……キュララ、その配信のアーカイブは残しておけ。もしかしたら、後で証拠として使えるかもしれない」

「え? 証拠?」

 ミツオはリーザのジャージのポケットから、彼女がサインしたという『魔導羊皮紙の契約書』を抜き取り、その文面に鋭い視線を落とした。

 そこには、債権者として架空の金融業者の名が記されており、小さく『天声開運会・火原元』という仲介人のサインがあった。

(なるほど。霊感商法と闇金のコンボ。おまけに商品の壺は、見た目だけを模倣した粗悪な魔法的コピー品か)

 ミツオは首の骨をポキポキと鳴らし、商社マンとしての冷徹な――そして底知れない『マリーシア(狡猾な反撃の意思)』を宿した瞳で契約書を睨みつけた。

「クーリングオフなんて甘い制度は、この世界にはないだろうな。だが……PL法(製造物責任法)違反、産地偽装、そして不当な高金利契約。叩けばいくらでも埃が出る三流のビジネスモデルだ」

「ミ、ミツオ様……? なんだか、ミツオ様の背中から恐ろしいオーラが……」

 リーザが震え上がる中、ミツオは懐の魔導通信石を取り出し、深夜にもかかわらず一つの発信先へとコールを繋いだ。

『……もしもし? ミツオはんか? こんな夜更けにどないしたんや?』

「悪いな、ニャングル。少し『不良債権の回収』を手伝ってほしい。ゴルド銀行のネットワークを使って、村に潜り込んでいる悪徳金融の資金ルートと、詐欺師のアジトを特定してくれ」

『ほう……。誰ぞ、ワテらの身内に手ぇ出したアホがおるんか?』

 通信石の向こうから聞こえるニャングルの声も、商人としての冷酷なそれに切り替わっていた。

「ああ。俺のロジスティクスを乱し、身内を騙した外道だ。……暴力じゃなく、絶対的な『経済と法律の暴力』で、完膚なきまでにすり潰す」

 異世界の深夜。

 丸めたスポーツ新聞を片手に、激務の社畜上がりの大男が反撃の狼煙を上げた。

 情弱を騙して肥え太る詐欺師・火原が、彼らの『狂った算盤』によって地獄の底へと追い詰められるまで、あとわずかの猶予しか残されていなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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