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限界社畜、異世界で【コンビニ】を開店する〜女神に貰ったスキルで辺境村を救ったら、ワケありヒロインたちに囲われてます〜  作者: 月神世一


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EP 5

忍び寄る魔の手! 負運の壺とトイチの罠

「……よく考えたら、私のお財布の中身は一円も増えていませんの」

 ポポロ村の中央公園。

 ポカポカと暖かい陽射しが降り注ぐベンチの上で、リーザ・シーラン・リヴァイアサンは深い、深い溜め息を吐いた。

 昨晩のキュララとの『やらせカツ丼十杯大食い配信』により、リーザの胃袋はかつてないほどの飽食を迎え、今もまだほんのりと幸せな満腹感が続いている。

 しかし、冷静になって現実キャッシュフローを計算し直してみると、極めて残酷な真実が浮き彫りになった。

 キュララは昨晩の配信で金貨三百枚(約三百万円)という莫大なスーパーチャットを稼ぎ出した。だが、リーザが得た報酬は『現物支給のカツ丼十杯』のみである。

 もちろん、餓死寸前だった彼女にとってそれは命を繋ぐ貴重なカロリーだった。だが、現金収入はゼロだ。

 おまけに、彼女の一番の太客であった『名無しの石油王』からの赤スパ(高額投げ銭)は、依然として途絶えたままである。

「このままでは、明日のタローソンでの半額もやし争奪戦に参加する資金すらありませんわ……。ミツオ様にお小遣いをおねだりしようにも、あんなキャットファイトを見せた後では『自業自得だ』って丸めた新聞紙で叩かれるのがオチですの……」

 リーザはエンジ色の芋ジャージのポケットを探るが、出てきたのはピカピカに磨き上げられた真鍮の五円玉が一枚だけだった。

 アイドルとしての強欲な野望『Love & Money』を掲げたはいいものの、圧倒的な資本力不足。このままでは、宇宙一のアイドルどころか、その日の宿無しに逆戻りだ。

「ああ、神様、仏様……どうして私の石油王さんは離れていってしまったのでしょうか。私に何か至らない点があったんですの……?」

 リーザが両手を組み、天を仰いで悲痛な声を漏らした、その時だった。

「……見えます。見えますぞぉ。お嬢さん、あんたの背後に、どす黒く渦巻く恐ろしい『業』がなぁ!」

「えっ!?」

 不意に背後からかけられた大声に、リーザはビクッと肩を震わせた。

 振り返ると、そこには異様な風体の男が立っていた。

 タローマンで売っているようなニッカポッカと作業着の上に、無駄にキラキラした白銀の法衣を羽織り、首には数珠のような太いネックレスを何重にも巻いている。日焼けした浅黒い肌に無精髭、角刈りという、どう見ても『昭和の土木作業員』と『胡散臭い教祖』を悪魔合体させたようなビジュアルの男。

「誰、ですか……?」

「わしか? わしは『天声開運会』の教祖、火原ひはら げんっちゅうもんや。迷える子羊を導くため、こうして各地を行脚しとるんやで」

 火原と名乗った男は、胡散臭い笑顔を浮かべながらリーザの隣にどっかりと腰を下ろした。

 彼は元・日本の土木作業員であり、この世界に転生してユニークスキル【劣化コピー】を得た転生者である。かつて粗悪なコピー武器を大量に売り捌いて大事故を引き起こし、多額の賠償金を背負って奴隷落ちした札付きの詐欺師だ。現在は犯罪結社ナンバーズの手引きで脱走し、こうして情弱を狙った『霊感壺売り商法』を展開している。

「お嬢さん、今『太客が離れていった』と嘆いとったな? それも、いきなり、何の理由もなしに」

「えっ!? な、なんでそれを……っ!?」

「わかるとも。わしには全てお見通しや。お嬢さん、あんたのその美しいオーラの背後に、巨大な『神蟲魔大戦の怨霊』がへばりついとるんや!」

 バァァン!と大袈裟に両手を広げる火原。

 詐欺の基本、恐怖マーケティングの始まりである。

「お、怨霊……!? 虫の、怨霊ですの!?」

「せや! この前、このポポロ村に死蟷螂とかいう古代の化け物が襲ってきたやろ? あいつがぶっ壊された時に、散らばった怨念の欠片が、あんたのその純粋な魂に憑りついてしもうたんや。そのせいで、あんたの金運や恋愛運、そして『アイドルとしての魅力』がドブに捨てたように吸い取られとるんやで!」

 火原の言葉は、見事なまでにリーザの急所を突いた。

 彼女には心当たりがあったのだ。自分は【貧乏神】というユニークスキルを持っている。悪運を引き寄せる体質であることは自覚していたし、何より『石油王がいなくなったタイミング』が、あの死蟷螂騒動の直後と見事に一致していた。

「そ、そんな……! じゃあ、石油王さんが私から離れていったのも、私が最近タローソンの廃棄弁当のじゃんけんに負け続けているのも、全部その怨霊のせいですの!?」

「当たり前や! むしろ、それだけで済んどるのが奇跡やで。このまま放っておいたら、あんたの運気はもっともっと下がり続けて、最後には野垂れ死にや。……かわいそうになぁ、こんなに才能のあるアイドルやっちゅうのに」

 大袈裟に同情してみせる火原の言葉に、リーザの目は完全に泳ぎ始めた。

 アイドルとしての承認欲求と、金への極度の執着。その二つを人質に取られ、彼女の判断力は急激に低下していく。

「ど、どうすればいいんですの!? お願いです、火原様! 私からその怨霊を取り除いてくださいませ! 私は……私はもっとスパチャを稼いで、宇宙一のアイドルにならなきゃいけないんですのぉっ!」

 リーザが必死にすがりついてくると、火原は内心で(ひゃはははっ! チョロい、チョロすぎるでこの小娘!)とゲスな笑いを噛み殺しながら、重々しく頷いた。

「しゃあないなぁ。あんたのその熱意に免じて、特別にこれをお譲りしよう」

 火原が背中のずた袋から取り出したのは、鈍い光を放つ奇妙な『壺』だった。

 古代遺跡から発掘された国宝級の聖遺物……を、火原の【劣化コピー】で複製した、原価0円のただの泥壺である。中身は空洞で、軽くぶつけただけで粉々に割れる究極のチャイナボカン仕様だ。

「これこそが、女神ルチアナの加護が宿る『大宇宙浄化・開運万象壺』や! これを部屋に置いて毎日祈りを捧げれば、怨霊は浄化され、あんたのオーラは元の輝きを取り戻す。石油王かて、すぐに赤スパを連打して戻ってくること間違いなしやで!」

「大宇宙浄化・開運万象壺……! 女神様の加護が……っ!」

 リーザの瞳が、希望の光に輝き始めた。

 彼女は天界の女神ルチアナのポンコツ具合を知らない。だからこそ、『神のアイテム』という権威付けにコロリと騙されてしまった。

「お、おいくらなんですの、これ!?」

「ホンマは金貨百枚(約百万円)と言いたいところやが……あんたの熱意に負けたわ。特別価格、金貨五十枚(約五十万円)でええで!」

 金貨五十枚。

 ポポロ村の庶民にとっては年収の数分の一に相当する大金だ。

「き、金貨五十枚……っ!」

 リーザはハッとして、自分のポケットを弄った。出てくるのは、やはり五円玉一枚だけ。

「だ、ダメですの……私、今はお財布に五円玉しか……。こんなに素晴らしいアイテムなのに、私には買う資格がありませんわ……」

 絶望して俯くリーザ。

 しかし、火原にとってそんなことは想定の範囲内である。情弱から金を絞り取るスキームは、すでに完成しているのだ。

「諦めんのはまだ早いで、お嬢さん。金がないなら、借りればええだけの話や」

「か、借りる……? でも、村のゴルドスマイル銀行(ニャングルの店)は、私みたいな無職の地下アイドルにはお金を貸してくれませんのよ?」

「あんなボッタクリの銀行なんか使う必要ないわ! わしが特別に提携しとる、良心的な『救済機関』を紹介したる。審査なし、即日融資や!」

 火原がニヤリと笑う。

 彼が紹介する金融機関――それは、犯罪結社ナンバーズが裏で糸を引く『違法な闇金』である。

 金利はトイチ(十日で一割)。複利で雪だるま式に借金が膨れ上がり、最終的にはマグローザ漁船(タコ部屋)か、怪しい人体実験のモルモットとして売り飛ばされる、地獄の片道切符だ。

「ほら、ここにサインと血判を押すだけでええ。そうすれば、この開運万象壺はあんたのモンや。怨霊を祓って、石油王を取り戻すんやろ?」

「石油王さんを……取り戻す……!」

 その言葉が、最後の引き金となった。

 リーザは、震える手で火原から差し出された契約書(魔導羊皮紙)を受け取り、一切の躊躇なくサインを書き殴った。さらに、親指を噛んで血を滲ませ、ベタンッ!と血判を押す。

「よしっ、契約成立や! これで今日から、あんたの運気は爆上がり間違いなしやで!」

「ありがとうございますの! 火原様、一生の恩に着ますわぁぁっ!」

 火原から『大宇宙浄化・開運万象壺』を大事そうに受け取り、リーザはボロ泣きしながら何度も頭を下げた。

 壺を胸に抱きしめ、「これで、これで石油王さんが戻ってきますの!」と歓喜のステップを踏みながら、ポポロ・コーポの方へと走っていく芋ジャージの少女。

 その背中を見送りながら、火原はニチャァッ……と下劣な笑みを浮かべた。

「ひゃははははっ! 傑作やな! あんな原価ゼロのただの泥壺を、金貨五十枚の借金背負ってまで買うとはなぁ! ホンマ、情弱から絞り取る金は最高に甘いでぇ!」

 火原は契約書をパンパンと叩き、自身の首元に手をやった。

 そこには、服の襟に隠れるようにして、ドワーフ製の黒い『爆破首輪』が嵌められている。

 ナンバーズのNo.0、リアク・アルバードに起爆スイッチを握られているという、絶対的な服従の証。

(クソッ……わしもいつまでも、あいつらの飼い犬でいるつもりはないで。こういうチョロいカモからガンガン絞り取って、裏金を貯めて、いつか必ずこの首輪を外して自由になったるんや……!)

 火原は唾を吐き捨て、次の獲物を求めて村の裏路地へと消えていった。

 一方その頃。

 ポポロ村の異世界コンビニでは、丸川光雄が発注リストのタブレットを片手に、嫌な予感を感じて大きくくしゃみをしていた。

「……なんだ? この悪寒は。どこかの誰かが、またロジスティクスを根底から狂わせるような『不良債権』を抱え込んだような気がするぞ……」

 商社マンとしての危機管理能力が発した警告。

 極貧人魚が抱え込んだ『トイチの借金』と『原価ゼロの詐欺壺』という最強の負債コンボが、平穏なシェアハウスに再び地獄の修羅場をもたらすことになるまで、あとわずか数時間のことであった。

読んでいただきありがとうございます。

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