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限界社畜、異世界で【コンビニ】を開店する〜女神に貰ったスキルで辺境村を救ったら、ワケありヒロインたちに囲われてます〜  作者: 月神世一


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EP 3

シェアハウスの修羅場! 奪われた石油王と極貧魚の逆襲

 ポポロ山でのトライバード狩りは、思わぬ『害鳥』の捕獲によって幕を閉じた。

 罠にかかっていたトップゴッドチューバーの天使・キュララをパラコードから解放したミツオは、そのまま彼女をポポロ村の拠点――独身アパート『ポポロ・コーポ』のA301号室へと連れ帰ってきていた。

「わぁぁっ! 意外と小綺麗で広ーい! 電波状況もバッチリだし、防音もしっかりしてそう!」

 部屋に入るなり、キュララは真っ白な翼をバサッと広げてはしゃぎ回った。

 彼女は懐から、天界支給品のエンジェルすまーとふぉん(ゴツい耐衝撃ケース付き)を取り出すと、勝手に部屋の隅々まで動画を撮り始める。

「見て見てリスナーのみんなー! 遭難(罠にかかっただけ)して連れ込まれたお部屋だよ! なかなか味があるでしょ? キュララああ♡ 凄〜い、ここ、新しい配信部屋にピッタリね! 決めた、私今日からここに住む事にするわ!」

「……おい。誰が住んでいいって言った」

 勝手にルームシェアを宣言するキュララに対し、ミツオは深くため息をついた。

 商社マンにとって、見知らぬ居候を招き入れるのはセキュリティとコスト(食費と光熱費)の観点から完全に非合理である。

「いいじゃないですかぁ、ミツオさん! 私、月給2億円稼ぐトップゴッドチューバーですよ? 部屋代くらい、配信の広告収入でポンッと払ってあげますって! それに、私がいればこの部屋の知名度も爆上がり間違いなし!」

「そんな知名度はいらん。まあ、家賃と光熱費を銀貨で前払いするなら、隅っこを貸してやらなくもないが」

 ミツオが呆れ半分で許可(という名の放置)を口にすると、背後で特注の安全靴が床をガンッ!と強く踏み鳴らした。

 キャルルである。

 彼女は兎耳を逆立て、ダブルトンファーを握りしめたまま、般若のような形相でキュララを睨みつけていた。

「ミ、ミツオさん!? なんでこんな羽の生えた不法投棄物を家に住まわせるんですか!? ただでさえ、ダンボールの中にあの強欲な貧乏魚リーザが居座っているというのに、これ以上メスを引き入れるなんて……っ! 許しません、私が今すぐこの害鳥を月影流で三枚おろしにして——」

「キャルル、落ち着け。こいつは天界の公務員ゴッドチューバーだ。ここで血を見ると、俺のコンビニが天界の監査対象になりかねない。適当に放置しておけば、そのうち飽きて出て行くさ」

 ミツオの「天界の監査」という言葉(ロジスティクス上のリスク)に、キャルルは渋々トンファーを下げた。だが、その瞳孔はキュララの一挙手一投足を暗殺者のように付け狙っている。

「もう勝手にしろ。ただし、俺のビジネスの邪魔だけはするなよ」

「やったぁ! ミツオさん、太っ腹〜! よーし、さっそくゲリラ配信やっちゃおっと!」

 キュララはキャルルの殺気に全く気づく様子もなく、部屋のテーブルにスマホをセットし、満面のアイドルスマイルを作った。

「みんなー! 待たせちゃってごめんねっ☆ キュララだよ! 今日はポポロ山で恐ろしい罠にかかっちゃったんだけど、親切な大男さんに助けられて、このお部屋に保護されましたぁ!」

 キュララが配信を開始した瞬間、スマホの画面には凄まじい勢いでコメントが滝のように流れ始めた。全宇宙のリスナーを抱えるトップゴッドチューバーの影響力は伊達ではない。

『キュララちゃん無事でよかった!』

『罠ってなんだよ草』

『後ろのウサ耳の子、めっちゃ怖い顔してない?』

『助けてくれたお礼にスパチャ投げとくわ!』

 チャリン、チャリンという電子音と共に、色とりどりのスーパーチャット(投げ銭)が画面を埋め尽くしていく。

「ああっ、みんな優しい! スパチャありがとう! あっ、ちょっとお腹空いてきちゃったかも……罠にかかってる間、つまみ食いしたチキンの衣しか食べてないからなぁ」

 キュララがカメラに向かって少し首を傾げ、上目遣いで「お腹ペコペコのアピール」をした、その時だった。

 ――ピロリンッ!!

 画面いっぱいに、ひときわ大きく、輝くような赤いエフェクトのスーパーチャットが表示された。

 最高額の赤スパチャである。

「わぁっ!?」

 キュララは目を輝かせ、スマホの画面に顔を近づけた。

「あ〜っ! 名無しの『石油王』さんっ! いつも高額の赤スパチャありがとうございまぁすっ♡ ええっ!? 『お疲れ様、美味しいものでも食べてね。お寿司の出前をルナイーツで手配しておいたよ』だって!? きゃあああっ、石油王さんイケメンすぎぃっ! お寿司、大好きっ♡」

 石油王。

 それは、配信業界において、推しに対して惜しみなく莫大な財を投げ打つ大富豪リスナーを指す敬称である。

 キュララがカメラに向かって投げキッスをし、大喜びでリスナーと交流を深めていた、その時だった。

 ――ビリリリリリリッ!!!

 部屋の隅に置かれていた、ルナミスデパートの廃品回収から拾ってきた巨大なダンボール箱。

 先ほどからずっと静まり返っていたそのダンボール箱が、突如として内側から激しく引き裂かれた。

「……え?」

「な、何事ですか!?」

 ミツオとキャルルが振り返る。

 ダンボールの残骸の中から、ゆらりと立ち上がった影があった。

 エンジ色の芋ジャージは土で汚れ、青い髪はボサボサに乱れている。

 極貧地下アイドル人魚姫――リーザ・シーラン・リヴァイアサンである。

 彼女は、焦点の定まらない虚ろな瞳で、ゆっくりとキュララの方へと首を向けた。

 その口から、地獄の底から響くような、低く、怨念に満ちた声が漏れ出す。

「……せ……」

「へ?」

「せ、石油王……!? 今、石油王さんって言いましたの……!?」

 リーザの目が見開かれ、その瞳孔に血走った狂気が宿る。

「私の……私の一番の太客だった……毎週必ず、私のみかん箱ステージの配信に、真鍮の五円玉を箱いっぱいに投げ入れてくれていた、あの名無しの石油王さんが……!?」

「えっ、な、なにこの子。貧乏くさっ」

 状況が飲み込めず、引き気味にスマホを抱えるキュララ。

 だが、リーザにとってその一言は、飢えた獣の逆鱗に触れるには十分すぎた。

「私の太客を取ったのはお前かああああああああああああッッッ!!!」

 ドゴォォォォンッ!!

 リーザが床を蹴り飛ばし、砲弾のような速度でキュララへと突進した。

 ユニークスキル【貧乏神】の悪運オーラが、この瞬間だけは『太客を奪われたアイドルの殺意』として物理的なプレッシャーを伴って爆発している。

「ひゃあああっ!? なによいきなり!」

「返せ! 私の石油王さんを返せぇぇっ! 石油王さんからのスパチャがないと、私はタローソンで半額もやしすら買えない! 毎日公園の雑草を塩で揉んで食べる『雑草サラダ生活』に逆戻りなんですのよぉぉっ! お前が! お前がしゃしゃり出てきたせいでぇぇっ!」

 リーザはキュララの純白の翼に飛びつき、ギリギリと締め上げながら泣き叫んだ。

「痛い痛い痛いっ! 羽根が抜けるぅ! ちょっ、やめてよこの貧乏魚ああ! 石油王さんが誰にスパチャを投げるかはリスナーの自由でしょ!? 私の魅力が勝っただけじゃないのぉ!」

「うるさいうるさいうるさいっ! お寿司!? 私なんて昨日からパンの耳しか食べてないのに、初見で赤スパとお寿司!? 許せない、絶対に許せませんの! 貴様のお賽銭(電子マネー)、私のお賽銭箱型掃除機で根こそぎ吸引して神界に没収させてやりますわっ!」

 部屋のど真ん中で、極貧人魚とトップゴッドチューバーによる、醜くも壮絶なキャットファイトが幕を開けた。

 羽根が舞い散り、芋ジャージが翻り、罵詈雑言が飛び交う。

「ミツオさん! 止めなくていいんですか!? 部屋がめちゃくちゃになりますよ!」

「……放置でいい。首を突っ込むと俺まで巻き込まれる」

 慌てるキャルルを横目に、ミツオは冷静にコーヒーを啜った。

 商社マン時代、社内の派閥争いや営業同士の顧客の奪い合いは日常茶飯事だった。太客(大口顧客)を巡る争いは、当事者同士でケリをつけさせるのが一番だ。

(それにしても……石油王が同一人物かどうかは定かじゃないが、地下アイドルの悲哀とトップ配信者の余裕がぶつかり合うと、ここまで狂った生態系になるんだな)

 ミツオが呆れ半分で静観していると、部屋のインターホンが鳴った。

『ルナイーツでーす。キュララ様、極上握り寿司特上セット(金貨二枚分)のお届けに上がりましたー』

「あっ! お寿司来たぁっ! ちょっと貧乏魚、離しなさいよ!」

「離しませんわ! そのお寿司は、本来私が食べるはずだった石油王さんの愛ですの! 私が全部平らげてやりますわぁぁっ!」

「キーッ! 近寄らないでよ泥棒!」

 床を転げ回りながら、寿司の受け取りを巡ってさらにヒートアップする二人。

 特上寿司の匂いが部屋に漂い始めると、リーザのヨダレがキュララの神聖な鎧にぽたぽたと落ち始めた。

「よし、キャルル。俺たちはコンビニのシフトに行くぞ。こいつらは放っておけ」

「はいっ! あんな害虫と野良魚の争いなんて放っておいて、二人きりで在庫管理のロジスティクスを深めましょうねっ♡」

 ミツオはワイシャツの襟を正し、ウサ耳をパタパタさせるキャルルを引き連れて部屋を後にした。

 扉が閉まる直前、部屋の中から「ギャアアアッ! 大トロを口に入れるなぁ!」「モグモグ……ッ! 醤油すら甘いですのぉぉっ!」という阿鼻叫喚の叫びが響き渡ったが、ミツオはあえて聞かなかったことにした。

 平穏だったポポロ・コーポA301号室は、かくして、承認欲求と食い意地が渦巻く地獄のシェアハウスへと変貌を遂げた。

 異世界コンビニ店長・丸川光雄の日常に、また一つ、面倒な『不良在庫トラブルメーカー』が追加された瞬間であった。

読んでいただきありがとうございます。

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