樹の下の笑い声
ラファエルさんを見送ると、再び腰を下ろした。
「はぁ。もう本読める気分じゃない」
ラファエルから言われたことは、今はまだ実感がわかない。
突然言われたことに面食らったし、怒るべきだか悲しむべきかもわからない。
魔王に会ったことがあるわけではないし、今の世の中魔王のせいで被害を被ることはない。
英雄譚では悪者として描かれるが、個人的な感情があるわけではない。
よく考えれば僕自身、人間社会にも疎遠、魔術にも疎遠、魔物という存在にも疎遠。
かなり世捨て人のような生活をしている気がする。
それも父上の配慮あってこそなのだろう。
ある意味ではそれは、人間や魔術に深く関われば危険であるという父上の見方を表していることなのかもしれない。
「・・・・」
つまり、この村に住んでいたら、この村で死ぬ。
それが現状一番無難な生き方かもしれない。
それって結構いい生き方なんじゃないか?
「はぁ・・・。こんな生活が続けばな」
「なーに昼間っから黄昏れてるのよ」
気がつくとニナがそばに立っていた。
「うわ!びっくりした!」
「そこまで驚かれるのはちょっと心外なんだけど」
「じゃあ驚くような登場しないでよ・・・」
「いや勝手に驚いてるんでしょ?」
「驚かす気はないと?」
「もちろん」
「昼食前のときも?」
「あれは別。物事には例外があるものよ」
なんだか都合が良い気もする。
「まぁそういうことにしておくよ。買い物か何か?」
「ええ。ちょっと仕立て屋まで旦那様の服を取りに」
「それはそれは・・・お疲れさまです」
「うむ。くるしゅうない」
ニナは満足げに返事をした。
「そういえばさっき、あの人とすれ違ったけど・・・。あの・・・客人の・・」
「ラファエルさん」
「そう。そのラなんとかさん。なんか話でもしてたの?」
「まぁ身の上話みたいなものをちょっとね」
「ふーん。あなたにとっては初対面でしょ?根暗なあなたが身の上話をねぇ」
「トゲがあるなぁ発言に」
「そう?普通でしょ、このくらい」
「まぁ良いんだけど。お客様に失礼なこと言わないでね」
「お客様のときは猫ぐらいかぶるわよ」
「僕のときもたまにはかぶってほしいんだけど」
「無茶言わないでよ。そんな吐き気をも催すこと言わないで」
「そんなにか・・・。まぁ信用されているんだと思っておく」
「思うだけなら勝手よね」
「うう。厳しい」
「何いってんの?こんなに優しい人いないでしょ?」
「どのへんが?」
「友達のいないあなたに話しかけてる」
「僕だって友達ならいるさ」
「誰?私の知ってる人?」
「君」
「・・・・・」
「いたっ!蹴らないでよ」
「まぁ冗談はさておき、ラなんとかさんってどんな人なの?」
「ラファエルさん。勇者っていうぐらいだからもっとお高く止まっているかと思ったけど、話しやすくていい人だったよ」
「いい人ね・・・。なんでこんな村に立ち寄ったのかしら」
「父上に会いに来たんじゃない?」
「それはあるだろうけど、今まで十数年も顔を見せてなかったんでしょ?」
「確かに気にはなるけど、そんなもんじゃない?」
ニナは呆れた顔をした。
「・・・あなたって家を出て一人暮らししたら、めったに手紙もよこさないタイプね」
「そんなことない・・・とは言い切れない」
「やっぱりそうね」
「まぁ当面出る予定もないんだしそんなこと関係ないよ」
「そうね・・・」
「屋敷の方は忙しい?」
「そんなにはないわ。客人のもてなしはジュリエットさんがほとんど一人でやってるし。洗濯物がちょっと増えるけど一人分だしね」
「いつもとあんまり変わらないってことか」
「作業的には。あーでもちょっと浮ついた雰囲気がある気がする」
「まぁ勇者が来るならそうだよね」
「40そこらって話だけど、まぁまぁいい顔してる」
「へぇ。ニナが特定の誰かにそういう感想を持つの珍しいね。ニナもああいう男が好きなの?」
「まさか。他のメイドがそう言ってただけ」
「ニナってあんまりその手の話は得意じゃないよね。気になる男とかいないの?」
「興味ない。自分ひとりで生きるのが精一杯って感じ。他の誰かに目を向けてる余裕はないわ」
「まぁ僕もその手の話は得意じゃないけど、友達としてニナのことは心配してるんだよ」
「関係ないでしょ」
「まぁそうだけどニナって僕の見てないところで結構他のメイドとかには気配りしてるでしょ?でも自分のことはないがしろにしているところがあるから気がする」
「気配りってほどでもないわ。好きでやってることだしお互い様だから。それより私はあなたが少し心配よ」
「へ?どこが?」
「魔術の家系なのに魔術が使えない、剣術は筋が悪い、勉強は多少できるけど何事にも熱意を感じない。いわばダメ人間ね」
「やめて。結構ヘコむ」
「人と距離を置こうとしてるでしょ?」
「そんなことないよ」
「それで隠せているつもりなの?」
「・・・・やっぱそう見える?」
「明らかにね。それがどういった理由なのかは知らないし聞かない。言いたくないだろうしね」
「ありがとう」
「でも一つ言わせてもらえば、私はあなたの友達じゃないけど気にはなるのよ」
「・・・・・」
「なによその目。じっとこっちを見ないで」
「今すごく感動した。ニナってめちゃくちゃいい人だったんだね」
「これを言うと新人が尊敬してくれるの」
「台無しだ」
「ふふっ。じゃあそろそろ屋敷に戻るわ。一緒に来る?」
「いやもうちょっとここにいるよ」
「そう?わかったわ」
ニナが立ち去ろうとする時に遠くの方から声がした。
「おい!フェリックス!今日こそ年貢の納め時だ!」
声をする方を見ると村の子供が駆け寄ってくる。
「イヴァン君。領主様の息子に呼び捨てはまずいと思うの」
年はだいたい12才前後の男の子が2人と8才くらいの女の子が1人の3人組だ。。
「大丈夫だよリナ。あいつだってそれでいいって言ってたんだから」
「そうそう。大丈夫大丈夫」
「ヤン君まで・・・」
3人が走って近づいてくるのを見たニナが口を開く。
「これからあの子達と遊ぶのね。結構なめられてない?」
「このぐらいが丁度いいんだよ。正直貴族の子供って肩がこる」
「ふーん」
「あ、ニナさんだ!こんにちは!」」
3人のうちのリナという女の子がニナに声をかける。
「げっ!ニナさんだ!」
「やばい!ニナさんだ!」
残りの2人はニナを見るなり足を止めて後ずさる。
ニナは女の子に話しかけていた。
「今日もいい子ねリナ。今日もこのポンコツといっぱい遊んでやってね」
「うん。遊んでもらう!」
リナは嬉しそうにそう答えた。
「やばいぞヤン!撤退するか!?」
「大丈夫だ!今回の目的なフェリクスだけだ!ここはニナさんがいなくなるのを待とう」
「ねぇニナ。結構怖がられてるね」
「悪ガキはたまに叱ってるからね」
「また意外な一面を知ってしまった」
ニナは少年達に近づいた。
「な、なんだ!?やるか!?」
手に持っていた木製の剣を構える。
「2人とも怪我しないように遊びなさいね」
「・・・・」
「返事は?」
「・・・・」
「聞こえなっかった?返事は?」
「「はい!」」
少年たちの返事を聞いたあとニナは振り返った。
「じゃあ私は行くわね」
「うん。じゃあ後でね」
ニナは屋敷に向かってあるき出した。
「さてなにして遊ぶか」
「ちゃんばら!」
「ちゃんばら!」
「お本を読みたい」
「なるほど。じゃあちゃんばらをすぐ終わらせてその後4人で本読むか」
「おう!すぐ終わらせてやる!今日こそフェリスクを倒す!」
「倒すぞ!」
その後少しチャンバラで遊び2人を倒して読書に戻った。




