樹の下の会話
これはどういうことだろうか?
別世界の姿そのままの状態で召喚される召喚魔術。
だが、僕の姿は著しく異なっている。
正直こっちの世界の僕は、前の僕よりイケメンだった。
死後なので例外として赤子になったか、生前の記憶を持ったまま輪廻転生(それがあると仮定した場合だが)し、その状態で召喚されたか、あるいは僕自身が赤子の体をのっとってしまったか。
後半の2つだととても後味が悪い想像ができてしまう。
だが、これは考えて答えが出ないことだろう。
もし、転生、乗っ取りだった場合は僕なんかが大変申し訳ない。
一度心のなかで謝罪をして口を開いた。
「この件に関して、僕がどう思うべきか、自分の中で整理できていません。ただ、もしそのことであなた達がご自身を責めておられるならば、やめていただきたい」
「・・・しかし・・・」
「ならばせめて一旦保留にしてください。僕が気持ちの整理ができるまでは・・・」
「・・・俺にできることはそれだけか?」
「それだけです」
「・・・・」
「ご不満ですか?」
「不満は不満だ。正直何を要求されるのかという恐怖すらあった。拍子抜け・・・というやつだ」
「10才そこらの子供にそんなこと要求しないでください」
「・・・・」
父上は驚いた顔をしていた。
「なんだが、俺のほうが子供みたいだな。お前本当に10才か?」
それは俺が聞きたい。
計算上は、合計30才ちょっとだが正直記憶のない時期が長いのでなんとも言えない。
だが年はこの場合関係ない。
関係あるのは僕の中にある前の世界の記憶だ。
前の世界を知っているおかげで、自分の置かれた状況を前の世界と対比しながら考えることができる。
今思えば・・・本当にいまさらだが前の世界は本当に必死で生きていたように思える。
自分がどうなるべきか、自分はどう振る舞うべきか、孤立しないようにするにはどうするべきか。
人と仲良くすること、人と対立すること、人を愛すること。
その全てが僕にとってはとても大切なことだったと今ならわかる。
それが自分を作るのだと。
そしてそれを自ら捨ててしまったという事実。
決して後悔しているわけではない。
それも必死に生きた結果なのだ。
その結果があるから、今の世界でもセカンドライフのような気楽な、悪く言えば気の抜けた心持ちで生活しようと思えた。
それに今回に話は、驚きはしたが考えようによってはこれは悪いことばかりではない。
明確な使命を持って生まれてきたということは、その使命をまっとうすることが生きる意味といえなくもない。
つまり落ち込む理由も、怒る理由もまったくないのである。
だが、これは父上が望んだ反応とも違うことは、今の様子を見てわかる。
罪悪感を持っている人間は罰を受けたがる事がある。
それは自分自身で体験したことだ。
この場では動揺し、その上で父上を詰ることが望まれた反応というものなのかもしれない。
しかし、そこまでのショックは受けてない・・・というかどれほどのことか実感がない。
「年齢はともかく、この件はしばらく考えさせてください」
「わかった」
そう言ってその時の話は終わった。
それ以降、父上はたまに僕の顔色を伺っている節があり、会話もほとんどなくなった。
元から多い方ではなかったのでこれもそこまで大きな問題にはならなかった。
せいぜいメイドが噂するくらい。
それから何事もなく数年間のときが流れていった。
「それで君はどう思っているんだい?そのことについて」
ラファエルがそう聞いてきた。
「どうこうも、実感がわかなくて今でもどうすればいいかわかりません」
「なるほど。それが普通の反応かもしれないね」
「ラファエルさんはどう思っていらっしゃんるのですか?その場にいらしたのでしょ?」
ラファエルは肘をついて考え出ている。
「どう思っているか・・・というのは複雑だな。様々な思いがあるよ。君に申し訳ないという気持ちやそうしなければならなかったという葛藤があったりね」
「そうですか・・・」
「でも、今日の君を見てなんとなく決着がついた気がする」
「というと?」
「君は前世の・・・というか他の世界の記憶があるね?」
「!!」
突然告げられた言葉に驚きを隠せなかった。
「そう見えますか?」
「鎌かけてみただけだけど本当にそうなの?」
あれ?なんか僕が持っている勇者像が崩れたぞ。
「冗談だよ。確信が持てなかったけどなんとなくね」
「それは・・・なんというか・・・」
突然のことで自分がなにを言えばいいか全くまとまらず、思考が頭の中をぐるぐると回った。
今まで前の世界の話をする機会がなかった。
当然、この世界の人間はこの世界のしか体験していない。
だから、僕自身このことは誰にも話さないようにと決めた。
変な人扱いされるのは遠慮したかったからだ。
だが、ここに来ていきなり僕の事情を言い当てられた。
僕を前の世界から連れてきた張本人の一人なのだから、連れてこられた事自体は知っているはず。
だが、記憶があることは父上にだって言っていないし、おそらく夢にも思っていないだろう。
「なぜ、そう思ったのですか?」
父上がそうであるように、普通は赤子のまま連れてこられたと思い込んでるのが普通ではないか。
ましてやそれが古の魔術ならばなおのこと。
それなのにどうして疑うことが出来たのか。
そう疑問に思った。
「まぁ簡単な話。前の世界の記憶があるのは君だけじゃないからさ。同じ世界とは限らないけど」
「他の世界からこの世界に移ってきた人間は他にもいるんですか!?」
「ああいるよ。事実君は他の世界からこちらに来た。他にいても不思議ではないだろう?」
「たしかにそのとおりですね・・・」
「さっきの話。君を見てなんとなく気持ちの決着がついたというのはね。君が前の記憶を持っていてくれたからなんだ」
「というと?」
「普通の子供は、魔王の力を封印する重圧に耐えられないと思う。精神になんらかな異常をきたしてもおかしくない」
「そうですね。同感です」
「だが転生者だったら気持ちの整理は付けやすいだろう?辛いことには変わりないが」
「そうですか?あんまり実感がないのでなんとも言えないですが」
「ほぉ。君は凄いね。君が死んだら世界が崩壊するかもしれないというのに・・・」
「え?・・・・」
え?今なんて言った?
「ん?・・・・」
「世界が・・・崩壊する?」
「あれ?もしかして・・・聞いてなかった?」
「え?あ、はい・・・」
「あーそれでかー。でもすごいぞ君は、非行に走らずに生きてきたんだからな。偉い偉い」
「えっと・・・?世界が崩壊するんですか?」
「あはは!しないしない!」
「いや、でもさっき」
「言い間違えたようだ。ごめんごめん。エリアスのやつ・・・」
「崩壊するんですね?」
「いや崩壊というわけでは・・・」
「じゃあ、僕が死んだらなにも起こらないんですか?」
「そうそう、起きないよ・・・・・・・・・・・たぶん」
「たぶん?」
「あーごめん!口を滑らせた!知ってると思ったんだ」
「詳しくお願いします」
「そう怖い顔で睨まないでくれよ」
「これは普通の表情です」
「説明すると、君が死ぬと君に封じられた魔王の力が暴走する。意思のない破壊の力だ。どれだけ被害が及ぶか想像もつかない。少なくとも人間が住めない環境になることも想像に難くない。簡単に言えばこういうことだ」
「・・・・・」
「無言で睨まないでくれよ」
「これも普通の表情です」
驚愕の事実だが、ある意味では得心がいった。
今までこの件に関して、父上の反応が過剰に思えていたがそういう事情があったのか。
考え込んでいるとラファエルが突然立ち上がる。
「あ、そうだ。エリアスから話があると言われていたんだった」
「そうだったんですね」
僕も立ち上がってそういった。
「俺と一緒に屋敷に帰るかい?」
「いえ、もうしばらくここにいます」
「そうか。じゃあ後でね」
「はい」
そう言ってラファエルさんは立ち去った。




