樹の下の回想
「フェリクス・・・少し残りなさい」
昼食が終わり、皆それぞれの用事のために食堂を後にする。
いつもはそのまま食堂を出て自室に戻る。
午後の授業や稽古の準備するのだが、今日は父上に呼び止められた。
「今日は出かけろ。場所は・・・そうだな。お前がよくいる丘の上が良い。そして遅れて帰ってこい。夕食に間に合わないようにな」
「・・・・」
「少々、込み入った話をするかもしれん。ラファエルがその時に気を使ってしまわぬように・・・。わかるな?」
「はい。承知しました」
僕は父上の言うことを了承して食堂を後にする。
今日はもてなしの準備があるため、午後の授業は休みになった。
なので僕は一人で散歩に出かける。
屋敷を出て15分ほど歩くと小さな丘へと続く道に到着する。
そこから10分程、緩やか傾斜を登ると、大きな木が生えている丘の頂上にたどり着く。
天気の良い日はその木が大きな影を作り、木の根元に座ると大変気持ちがいい。
それに、丘の上からは屋敷や村を上から覗けるところも気に入っている。
村を上から覗くことによって、本来この世界の住人でない自分でも、少しは理解できるような気になる。
今日は父上から遅く帰ってこいと言われたため、本を持って来た。
木の根本に腰かけてゆっくりと本でも読もうと思った。
「ふぅ。到着」
ゆるやかな斜面とはいえ、10分少々登るといい運動になる。
草を踏みしめながら木の下に行き、腰をおろした。
20分・・・30分。
正確にはわからないが、その程度の時間、本を読んでいたら突然声をかけられる。
「やぁこんにちは」
「!」
本に落としていた視線を上げるとそこにはラファエルが立っていた。
「こ、こんにちは」
驚きのあまり返事をするのが精々だった。
「俺も座っていいかい?」
「はい!どうぞ!」
慌てて立ち上がり自分が座っていた場所を譲ろうとした。
「座ったままで良かったのに」
「いえ、そんな」
「・・・フェリクスくんも座ってよ。腹を割って話そう」
「え、は、はい・・・」
緊張気味に勇者とすこし距離を開けて座る。
生前のコミュ障を思い出したかのような動揺具合だった。
あんまり自分は変わってないなと思わず思った。
「ここはいい場所だね」
「そ、そうですね。お気に入りの場所です」
「そうか・・・」
そう言ってラファエルさんは沈黙した。
しばらく黙っていると、一陣の風が吹く。
そしてそれと同時にラファエルが口を開いた。
「面倒な話は抜きにして質問させてほしい。君は人魔戦争について・・・どれくらい知っている?」
「どれくらい・・?そうですね。メイド長の授業で習った程度です」
「じゃあ、その時に君がどんな役割を果たしたかは知っているかい?」
「・・・・・」
答えられなかった。
だが、ラファエルさんにとってそれで十分だったようだ。
「そうか。エリアスから聞かされているか」
「はい・・・」
あれは自分が10才になったときのこと。
突然、父上に部屋に呼び出された。
その日のことは忘れもしない。
寒い日のことで、暖炉の日が轟々と燃えていた。
向かい合うように用意された2つの一人がけソファの片方に父上が座っていた。
「座りなさい」
父上は自分の正面のソファを座るように促した。
僕は言われるがままそのソファに腰を下ろした。
「お前を呼んだのは他でもない。お前の役割を説明しなければならないと思ったからだ」
「役割・・・?」
「そう・・・・」
父上はその後少しの時間沈黙した。
一体何を考えているのだろうと疑問に思いながら父上の次の言葉を待った。
「お前は・・・」
重い雰囲気の中、不意に父上が口を開いた。
「私たちの本当の子供ではない・・・」
「!?」
大変驚いたのは覚えているが、それ以上にその言葉をどう受け止めていいかわからなかった。
確かに父上の子供でないというのは事実だろうが。
そもそもいわゆる転生者の僕にとって、子供じゃないと言われればたしかにそうだくらいにしか思えない。
だが、それでも父上の口からそう言われるのは驚きだった。
つまりそれは、自分が父上と母上の成した子供ではないということだ。
「驚くのは無理はない。・・・だがそれでもお前には真実を伝えなければならない。いつかは知らねばならないことだ」
「・・・・」
「反魂術・・・というものを知っているか?」
「たしか・・・生き返りの術だとか・・・?」
「うむ。さすがに優秀だな」
「いえ。本で読んだだけなので・・・」
「ふむ。じゃあこれは知らないだろう。反魂術とは死者を蘇らせる術ではない。死んだものを生き返らせることは不可能だからだ」
「・・・・・」
「反魂術という魔術は、この世ならざる世界から精神を引っ張り、こちらの体に定着させる術だ。これはどの本にも書いていない事実だろう」
「・・・・初めて知りました。ですが今なぜそのような話を?」
「ふむ。それは少し昔の話をしなければならないな。知っての通りかつて人魔戦争という人間と魔物が争った戦いがあった。私はその中で勇者という特殊なメンバーに選ばれた」
「はい。知っています。勇者達は力を合わせ魔王を倒したのだと」
「魔王は倒せなかったのだ」
「!?」
「追い詰めはしたのだ。だが倒すことが出来なかった。なぜなら魔王はこの大地に根付きこの星の一部として同化していた。とんでもない力だ。そういう状態になった魔王を完全に葬り去るには、星ごと壊さねばならなかった」
「・・・・」
「我々は考えた。魔王を倒すにはどうすれば良いのかを。だが答えは出なかった。しばらく対策を話し合っていると別の案が持ち上がる」
「それは?」
「魔王を倒すのではなく。魔王の意識か魔王の持つ力どちらかを封印すれば魔王の星との接続は切れる。つまり倒さなくても、封印するだけでこの戦いを集結することができるというのだ」
「つまり・・・魔王は生きている?」
「ある意味ではそうだ。体と意識がない存在を生きていると仮定すればな。だが、封印には問題が会った。あれ程の魔王を封印するための触媒はそうあるものではない。特に生命の意識か力を封印できるものは2種類のものしかない」
「それは?」
「聖遺物と呼ばられる遥か昔から伝わる神が残したとされる物、もしくは・・・赤子だけだった」
「赤子・・・」
「そう、ただの赤子ではない。魔物に奪われず、一人で生きれる赤子。人間の子供が一番良いと考えた」
「どちらを選んだのですか?」
「どっちも・・・どっちもだ」
「どっちも・・・」
僕はこの話の結末を頭の中で考えていたが、それと同時に否定もしていた。
「意識は聖遺物に、力は赤子に封印した」
「赤子・・・?どこの赤子ですか?」
「古の魔術師が作ったとされる魔術。かつてこの大地が危機に陥ったときに編み上げられた特殊な召喚魔術。その魔術で呼び寄せた
のだ。魔王城で人間の赤子を手に入れることは不可能だったからだ」
「まさか・・・その子供は・・・」
「そうだ。その赤子はお前だ。フェリクス」
「!!」
驚きのあまり唖然とした。
死ぬこともできなかった自分がたどり着いた新たな生命。
死にたいと思っても実現できず、生かされた惨めな自分。
そのことに決着をつけ、今の生をセカンドライフと位置づけて生きていこうと決心した矢先の話だった。
「・・・・すまん」
父上はそれだけ言って沈黙した。
すまんも何も、謝られてどうにかなる問題じゃない。
つまり自分のセカンドライフは、ただ災厄の封印というだけの命だった。
そのためだけに呼び出されただけだったのか。
「幼いお前を親と引き剥がし、大変な使命を追わせてしまった。本当に俺達は・・・いや俺は最低な人間だ。勇者だ英雄だと呼ばれた挙げ句、本当の自分はこんな人間なんだ」
頭を下げて謝る父上の言葉を噛みしめる。
ふと疑問に思った。
「親と引き離された?」
「ああ。伝承では召喚魔術は生まれた姿そのまま召喚される。つまりお前はどこかの世界の赤子ということだ。生前の記憶がないのだろうから、どういった世界から来たかわからぬだろうが・・・」
バッチリどういう世界から来たか覚えている。




