ランチタイム
「食事はできるだけ家族揃って」がゴーティエ家の習わしだ。
1回にある食堂には、入り口から奥に伸びる長い食卓がある。
入り口から正面で、一番遠い席に父上が座り、父上の右側で、父上に左半身をを向ける形で母上が座る。
母上の右隣に僕、僕の正面に弟が座っている。
壁際にはメイドが立ち、食事付中の用をいつでも受けれるように待機している。
配置はいつも通りだが、母上の正面に見慣れない中年の男が座っている。
「本日は客人がお越しになっている。皆、粗相の内容にな」
父上は男の方と僕らとを交互に見ながら、食事前の短い挨拶を行った。
男は父上の言葉の後に自己紹介を始める。
「ローズさん、フェリクス君。お久しぶりです。といってもフェリクス君は覚えてないかな?」
男に見覚えがないが、自分のことを知っている様子だった。
これは親戚の家に行くと良くある、小さい頃に会ったことあるということなのだろう。
男は30代後半。父上と比べるとだいぶ年下という印象を受ける。
ボサボサの髪とくたびれた服を着ており、今も旅を続けている真っ最中なのだろう。
背は180cmちょっとだろうか、こちらの世界でも長身といえる高さだろう。
「ファブリス君ははじめまして。私の名前はラファエル・モロー。エリアスの古い友人なんだ。よろしく」
男は落ち着いた様子で簡単な自己紹介を行った。
「はじめまして!」
ラファエルと名乗った男の隣に座るファブリスは目を輝かせながらラファエルの方を見ている。
ラファエルは笑顔のファブリスの頭を撫でた。
ファブリスは恥ずかしそうにうつむいた。
聞くところによるとラファエルという男性は父上と共に魔王と戦った英雄の一人。
英雄譚などでは主人公にされていることが多い。
10代前の男の子にとって、英雄譚の主人公に出会えることは大変うれしいことかもしれない。
いや、10-20代の人間にとってもそうだろう。
それが普通の反応なのかもしれない。
だが、この屋敷でそのことを表立って表現するのはファブリスだけだった。
父上や母上は昔から見知った仲だろうし、メイドたちは表立った表現は自重している。
僕はというと、街を歩いているとテレビで見たことある有名人がいた程度の薄っぺらい感情しか持てなかった。
だが、ファブリスはとても喜んでいたので、その光景がとても和む風景だった。
「では、食事を始めよう。ファブリス、お祈りを」
「はい。お父様」
ファブリスは姿勢を直し、体の正面で指を組んだ。
「神よ。慈しみに感謝いたします・・・・」
ファブリスはお決まりの文言を告げ、食事が始まる。
その光景を見て、勇者が言った。
「食前のお祈りか。ここまでしっかりするのは久しぶりだ」
「そうなのですか?」
ファブリスが不思議そうに聞いた。
「ああ、最近では全文を言うことは少ない。俺も昔は毎回言っていたが、最近だと言わないときもある」
「え?国教なので、国民は必ず言わなければいけないのではないのですか?」
「ああ、もちろん言わなければならない。ファブリスは心がけが良いな」
「そんなことないです!普通です!」
否定の言葉だが、顔は褒められて満更でもないといった表情。
ラファエルとファブリスは様々なことを話していた。
楽しそうに話す声が食堂に響く。
それとは打って変わって父上と母上は全く無言で食事をとっている。
父親はいつものごとく、ほぼ表情を出さず、目の前の食事に手を付ける。
母上は、少しうつむきながら食事をする。
母上はなにかしら、居づらいといった雰囲気を持っているように感じる。
かくいう僕も食事中、何かを話すわけではないので、ファブリスが発言しないときは重苦しい雰囲気になる。
その時は自分の会話力の少なさが嫌になる時がある。
「そうだ!兄様も剣術をやっています!ね!兄様!」
食事中、いきなり話を振られて驚いた。
全く話を聞いていなかったのでどう返事すればいいか迷う。
「フェリクス君は剣術を習っているのかい?」
剣術稽古の話だったようだ。
「はい。ちょっとだけ。全然ですけど」
「それはいいね。いつ何があるかわからない。備えておくに越したことはない」
「はい」
「魔術の方はどうだい?」
「魔術はからっきしです」
魔術は誰もが素養を持っている。
得意不得意はあれど誰もが修行すれば使えるようになる。
中でもエリアス・ゴーティエは高名な魔術師として知られている。
魔術の才能を買われ、人魔戦争を集結させた勇者に選ばれたくらいだ。
なので、その子息である僕とファブリスは有名な魔術師としての期待をされている。
だが、僕には魔術の才能がない。
才能がないから剣術をやっているという有様なのである。
「人には向き不向きがあるからね」
「ありがとうございます」
励まされてしまった。
「さて、冷めないうちにご飯を食べてしまおう。神のお恵みに感謝して・・・ね」
勇者は微笑んでそう言った。




