廊下にて
僕の部屋は屋敷の2階にある。
屋敷は18部屋ある2階建ての家屋。
昔の地主から父上が買い取ったものだそうだ。
1階は広間や食堂、調理場、図書館、父上の部屋、母上の部屋、父上の工房が殆どを占めている。
2階は客人が宿泊できる部屋が並び、その中の2部屋を僕とファブリスが使っている。
玄関から入り、エントランスを抜け、中央階段を上がり、廊下を歩くと部屋に到着する。
今日の僕は、広い屋敷の中をボロボロの体を引きずって屋敷の廊下を歩く。
メイド長は授業の後、僕に剣術を教えた。
メイド長の稽古は主に体力づくりと実践稽古のみ。
口頭で教えることはほとんどなく、あるとしても実践の中のアドバイスのみ。
「剣術は教えられるものではありません。自ら盗むものです」
それが口癖だ。
そう言って木製の剣で容赦なく打ち付け、出来上がるのがボロボロの人間。
それが僕というわけだ。
木製の剣はめちゃくちゃ痛い。
痛そうだなと昔の世界では思っているが、本当に打ち付けられると想像の10倍くらい痛い。
しばらく歩くと自分の部屋が見えてくる。
いつも稽古の後はなんとか自室にたどり着き、服を着替えて昼食に行く。
食事は家族で食べるのが通例だ。
「いっ!」
不用意に歩けば体のどこかしらが痛むので用心深く歩く。
それでも痛い時は痛いので、その時は立ち止まって休憩する。
「はぁ」
ため息を一つ付き何気なく廊下の窓から外を見た。
「今日は天気がいいなぁ」
こんな日は読書が良い。
前の世界では勉強なんて嫌いだったが、この世界に来てからは学ぶことが楽しい。
こっちの学術は前の世界に比べて情報量が少ないが、それはそれで想像や考察ができていい。
その分正確さは欠けるから、裏付けで他の本を読むがそこで新たな疑問を得る。
そのサイクルが自分の中で出来上がってしまった。
これは自分でも意外だった。
「ん?」
何気なく見ていた空から視線を落とすと、そこは見慣れた屋敷の玄関だった。
だが、そこには父親と見慣れぬ男が立っている。
「誰だろう?」
軽さを重視した鎧を着込み、腰から剣を下げた長身の男性。
ここらでは見かけない顔なので旅してる人かな。
「あら?なに見てるの?」
目を凝らしていると突然話しかけられた。
慌てて視線を声の方に向ける。
「うわ!」
振り向くと前に大きな顔があった。
驚きのあまり後ろに仰け反ってしまった。
そして腰のあたりに激痛が走る。
「痛っ!・・・なんだニナか。ビックリさせないでよ」
「なんだとはなによ。失礼ね」
ニナはこの屋敷の使用人として屋敷の清掃から調理までを行っている。
年齢は若く16か17ぐらいだが、この屋敷の使用人としては古株。
当然、付き合いも長く、雇い主の子供と使用人というより、幼馴染と言われたほうがしっくりくる。
ニナは、黒色でスカートがふわりと広がる長袖のワンピースに白いエプロンを付けたこの屋敷の制服を身にまとっている。
制服とはいえ、メイド長とは拵えがすこし違い、ニナの衣服には白いレースがあしらってある。
最近、この屋敷のメイド達で流行しているオシャレなのだとか。
母上はいい顔をしないが、意外とメイド長は容認派している。
「そりゃ振り返ったら突然顔があったら誰だって驚くよ」
「変な格好して外を眺めてるからなにかなーって近づいたら、全然気づかないんだもん。ちょっと驚かせてやりたくなるわよね」
「すごくびっくりしたよ」
「成功ね」
「ていうかそんな変な体勢だった?」
「ええ。野犬が用をたしている格好よりひどかったわ」
「いやそんなつもりは」
「いや本当に。正味な話驚いた顔も酷いわよ」
「驚かせた張本人が言わないで!?」
「フフッ。今日もジュリエットさんにやられたようね」
「散々だよ」
「ジュリエットさんも、あまりに筋が悪すぎていじめてるみたいで後味が悪いって言ってた。あのジュリエットさんにそこまで言わせるのはなかなかのものよ」
「それはありがとう。励まされたよ」
「そう言われると悪い気はしないわね」
「皮肉だよ」
「知ってるわよ。それで?なんで外見てたの?」
「ああ、玄関のところに誰かしらない人がいて・・・」
玄関の方に目をやると、もう男の姿はない。
「ああ、たしか今日。お客さんが来るって噂があったわ」
「お客さん?珍しいね」
「そうね。なんでも旦那様の昔の知り合いだとか」
「ふーん」
「それより、もうすぐ昼食の時間よ。着替えてこなくていいの?」
「あ、そうだった!じゃあね!」
ニナの横を通り抜けようとした直後。
「じゃあ頑張ってね!」
ニナは背中に張り手をした。
「痛い!・・・・ニナ!」
「ハハ!じゃあね」
「このことは忘れないからね!」
「結構結構」
ニナはそう言って歩き去った。
次は9月29日です。




