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僕が死ぬと世界が滅びます。  作者: ふぃーりす
三章 答え
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2度目の邂逅


先程マティスと名乗った魔物のとなりにニナ、そして僕たちの周りを取り囲むような魔物の群れ。


多くの気配がラファエルさんの様子を見守っている。


「答え・・・ですと?」


マティスが怪訝そうにラファエルさんの言葉を復唱した。


ラファエルさんは一度うなずいて、話を続けた。


「そう。答えだ。君はさきほど勇者の魔物の現状について話したのだろう?」


「そのとおりだ」


「だったら先程の続きをやるといい。ただし、もしフェリクスが君の要請を断ったら、君等はそれに従ってもらう」


「先程とは状況が異なる。もはや猶予はない」


「だったら力づくでやってみるかい?」


そう言ってラファエルは腰に下げていた剣に手を伸ばす。


マティスは極めて落ち着いた様子で話す。


「この数を相手に戦うと?たとえ君が魔王様と戦って生き残った人間の勇者だとしても、分が悪いんじゃないか?」


「たとえ勝てなくても、数十人ぐらいは倒せるだろう。数十人でも君等にとって大きな痛手。魔軍は分裂する可能性だってある」


「・・・・そんな脅しに屈するとでも?」


「だったら試してみるといいさ。無傷でフェリクスを連れ去るチャンスを不意にし、大きな痛手を受けたいなら」


マティスは数秒考え込む。


「・・・・だが、我々にとっては極めて不利な話だ。魔王様は人間界で育たれた」


「それはお前たちの努力不足の結果だろう」


「・・・・」


マティスは再び黙って考え込んでいる様子だった。


数秒の沈黙の後、口を開いた。


「説得の間、勇者は手出ししないということでいいのか?」


「もちろん。時間の許す限りやるといい」


「わかった・・・」


ラファエルさんの方を見ていたマティスが、僕に視線を移した。


マティスが数歩距離を詰める。


「魔王様。我々を救ってはくれませんか?」


「・・・・」


「我々はもう、魔王様に希望を託すほかどうしようもないのです。


「・・・・」


「我々は人間に対抗すべく様々な策を考え実行しました。ですが全ては、もう八方塞がり。もう我々には時間がない!力の弱いものから犠牲になっていく」



「・・・・」


「私には家族がいました。私の種族は魔族の中では強い方ではありませんが、比較的家族が多いのです。もうその家族はほとんど死にました。飢えや苦しみの最初の犠牲者となるのは弱く幼い魔物。子どもたちは次々と倒れ、毎日のように供養をしています」


「・・・・」


「この現状を変えなければすぐにでも魔物は滅びてしまう!人間が嫌いなわけではありません!人間に復讐しようとしているわけではありません!私達は、ただ生きたいだけなのです。普通の生活を営みたいだけなのです!」


マティスは深く頭を下げた。


「お願いします!我々と来てください!我々を救ってください!」


「・・・・」


僕は何も答えることは出来なかった。


ラファエルさんはマティスの話はほとんど真実だと言ったが、僕自身はその判断材料がまったくない。


声を張り上げ、必死の嘆願も、それが心の中からの叫びなのか、僕を騙そうとしているのかわからない。


「マティス・・・といいましたか?」


マティスは驚いて顔を上げる。


「はい・・・私はマティスと申します!」


「あなたはそれほどまでに必死な言葉を荒げて説得しようとしている。でもさっきは力づくで連れ去ろうとした」


「それはッ!・・・それは謝ります!追い詰められての軽率な判断でした・・・。もし魔王様がお望みになるならどんな罰でもお受けします」


「村を襲って父親を殺そうとした」


「余裕がありませんでした。といっても言い訳になるでしょうが」


「ファブリスとも別れた・・・どうなっているかわからない」


「もしお望みなら全力で捜索し、保護します」


「もう死んでいるかもしれない・・・」


「それは・・・・」


マティスは数秒沈黙した。


苦々しい顔を表情を浮かべている。


「すべて私の失策!罪ならば何なりお受けします!八つ裂きにしても構いません!苦しみを与えてからズタズタに引き裂いてくれても一向にかまわない!ただ!ただ魔王様が我々の指揮を取っていただければ!」


「・・・・どうして?どうして僕なんだ」


「それは魔王様のちからを受け継いでおられるからです」


「力があるからってそれが一体なに?力があるだけで軍がまとめられるわけ無い」


「氏族もろとも軍と為すには強い力が必要なのです」


「僕を連れ去った後は傀儡にするつもり?」


「魔王様がそう望むなら。魔王様が何も考えたくないとおっしゃられるなら私どもは助力に努めます」


「僕が酷いことするかもしれないじゃないか。権力のまま横柄に振る舞うかも」


「それならば・・・それが魔物の運命です。そこで滅びる運命です」


「なら、僕が君にここで死ねといえば死ぬというの?」


「魔王様がお望みになるなら。ニナ・・・ナイフを貸してくれ」


マティスはニナからナイフを受け取ると刀身を眺めながら言った。


「もとよりこの襲撃の責任を取り死ぬ覚悟でした。しかし、ただし死ぬのではなく、それが魔王様の命令というならこの上ない幸い。魔王様。私の命を持ってお願いいたします。何卒魔王になって我々を導いてください」


そう言ってマティスはナイフを自分の体に突き立てようとする。


「待て!」


僕は慌てて大声を出した。


「なんで!?魔王の自覚のないただの人間を引き入れるためにそこまでする?」


「それが唯一の希望だからです」


「それでも君は幹部なんだろう?幹部が死ねば魔軍はますます混乱を極めるじゃないか」


「魔軍の幹部だからです。私は・・・幹部の中で一番弱かった。だが私は生き残ってしまった。本来なら誰よりも先頭に立ち、魔軍が滅びるなら一番に死ぬべきだった。私は恐れてしまったのかもしれません。私はいつか死ぬべきだと思っていました」


「だからってここで死ぬ?」


「私は前の世代として、前の敗戦の責任を取る義務と未来の子どもたちに希望を繋ぐ義務があります」


「・・・・」


「私がここで死んだとしても。たとえあなたが命令なさったとしても、それはあなたの責任ではありません。すべて私が弱く、責任を果たせていなかったことが原因。気に病むことはありません」


マティスは微笑んだ。


「ただ・・・ただ、何卒お願いします。魔王様になってください。私達の希望となってください」


そう言ってナイフを構えた。


マティスは本当に死を覚悟しているとわかった。


「待って!卑怯だ!」


「・・・・」


「ここで死んで罪悪感を盾に引き込むつもり?」


「そうです。私は卑怯者です」


生き残ってしまった罪。


先の戦争がどれほど激しいことだったかは知らないし、魔物がどれほど苦しい生活をしているかはわからない。


だが、それを覆せなかった無力感と罪悪感。


それを強く感じているから、手段を選ばなかったのだろう。


しかし、だからって今回のことを許せはしない。


屋敷の人間だけでなく、村で生活していた人々、何も知らない子どもたちが危険にさらされたのだ。


情状酌量の余地はあるし、気持ちも分かる部分がある。


本当に他に方法はなかったのだろう。


追い詰められれば本人も思わぬ行動をとってしまう。


自分以外の大事な人の命運を握っているならなおさら。


「君らの主張はわかった。いやわかりました。マティスさんといいましたか?ナイフを収めてください」


マティスはうなずいて、ナイフをニナに返した。


「いかがでしょうか」


「・・・・まだ決心がつかない」


「できる限りは待ちましょう。ですがもう我々に残された時間は少ない」


マティスは静かにそう呟いた。


しかし放たれる言葉は先程より力がこもっている。


一体どうすれば良いのだろう?


もし、僕がマティスの申し出を断れば、魔物たちは怒り狂うだろう。


そして手荒な真似をしてでも僕を連れ去る。


いきなりそうしなかったのはこのマティスが、魔物ににらみを利かせているからだろう。


しかしそれすらマティスが僕を懐柔しようと演技を行っている可能性もある。


考え出せばきりがない。


一方でマティスの訴えが、一から十まで嘘だったかというと、そうは思えない。


必死な態度が現れているようには感じた。


それにラファエルさんから聞いていた魔物の状況と、マティスの話に大きな矛盾はない。


多少大げさに言っているところはあるだろうが、嘘を言っているとは感じない。


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