迷い
「やぁ起きたかい?」
目を覚ますと聞き覚えのある声が耳に届く。
この声はラファエルさんのものだ。
僕はどうなったんだっけ?
ファブリスとメイド長、ニナと屋敷から出ようとして、ファブリスたちとはぐれて、ニナと2人で走って森の中へ逃げた。
それから・・・。
「ッ!」
瞬間、気を失う前の記憶が蘇った。
僕は慌てて体を起こした。
「いたッ!」
頭に激痛が走る。
「大丈夫かい?魔物たちは振り切ったから安心して」
「魔物・・・」
「そうだよ。危機一髪だったね。やっとのところで君に追いつけた」
ニナと一緒に逃げている途中、魔物に行く手を阻まれた。
そして話を聞いて、それからニナに・・・。
「ニナ・・・」
「ニナって屋敷のメイドのことかい?」
「はい・・・」
「驚いたよ。ニナって子は実は魔物だったなんて・・・」
「魔物・・・?」
「そうだよ。しかも珍しい半魔」
「半魔?」
「そう。人間と魔物の間にできた子供のことだよ。だからエリアスの魔術障壁をすり抜けられたんだね」
「・・・・」
ラファエルさんがいったい何を言っているかわからない。
今までずっといっしょに育ってきた。
その間、ずっと魔物だったことを隠していた?
「ニナちゃんとは長いの?」
「・・・・はい。幼い頃から一緒にいました・・・」
「なるほど。だったら今回の襲撃はとても長い期間計画されていたんだね」
「・・・・」
「彼女は人間のふりをして君に近づいた。今日の日のために。何か不審に思ったことはあったかい?」
「いえ・・・全く」
ニナが魔物?
にわかには信じられない。
ニナは幼い頃に屋敷につれてこられ、それからずっと屋敷で僕と一緒に育った。
ニナは少し変わっているところがあったが、僕に対して普通に接してくれる唯一の人だった。
僕らは友達なった。
なっていたと思う・・・。
それが・・・それがニナは僕を誘拐するために僕に近づいて友達のふりをしていた。
滑稽にも僕はそのことに気が付かずにいたのだ。
「十数年も正体がバレずに生活するなんて、大したものだ」
「なんで、ニナは魔物なのに人間の姿をしているのですか?魔物って普通人間とは全く違う姿をしていますよね?」
「確かに魔物は、体の作りが人間と全く違う。だけど、人間の姿を取ることもある。ある魔物は人間に擬態して人間を誑かす。だが、半魔であれば魔物とは違う特性をもっている可能性がある」
「たとえば・・・?」
「人間の姿が普通の姿で、見えない部分が魔物じゃない・・・とか」
「そんな魔物がいるんですか?」
「半魔とはあまり出会ったことがないから確定的なことが言えない。いままで何人かあったことがあるけど人間の姿と魔物の姿半々だったよ」
「半魔ってそんなに少ないんですか?」
「ああ。交流が断絶していたということもあるけど、人間と生殖できる魔物は限られている。魔物界でもごく一部の魔物が、会う機会すら乏しい人間とたまたま出会うなんて稀なことだよ」
「なるほど・・・」
「しかし・・・半魔・・・か・・・」
「どうかしたんですか?」
「半魔はふつう森の奥や山の山頂付近。つまり人目につかないところで生きていることが多い。それが幼い頃から親元を離れて人里で生きているなんて・・・。初めて見た」
「?」
ラファエルさんが言わんとしていることがいまいちわからない。
人間の姿をしている魔物が、人間界に忍び込むなんてすぐに考えつくことだ。
「半魔はね・・・迫害されているんだよ。人間からはもちろん、魔物からも」
「魔物からも?」
「ああ。脆弱な人間の血が入っている半魔は、魔物からしたら侮りの対象。特に人間に恨みを持つ魔物からしたら格好の・・・」
ラファエルは言葉を濁した
だが、その後に続く言葉は理解できる気がした。
格好の標的と言いたかったのだろう。
その言葉の意味するところは明確で、もし人間にやられた恨みを晴らそうとしたとき手軽にいる"人間"。
それが半魔というものなのだろう。
「ニナも迫害されてきた、と?」
「それはわからないが、普通の魔物は、そうならないように自分の息子なり娘を隠す。それが親元を離れ、他の魔物と行動をともにするのは大変珍しいことなんだよ。魔物が保護していたとしてもその魔物ごと迫害されるときもある」
「・・・・」
想像を絶する話だ。
だが、無い話とは言い切れない。
それほど魔物が追い詰められていて、人間を心底憎んでいたならばその矛先が無関係なものに向かってもおかしくはない。
人間と同じだ。
ふと、先程の魔物が言っていたことを思い出す。
追い詰められた果てに、すでに絶滅しかけているということだった。
「魔物は・・・本当に絶滅の危機なのでしょうか?」
「魔物からなにか聞いたのかい?」
「はい。僕のことを魔王だと言って魔物の現状を説明されました」
「なるほど。変わった魔物だね。だからこそ追いつけたわけだけど」
「はい。その時の魔物の話は説得力があったと思います。ですが本当かどうかは正直判断しかねます」
「なるほどね・・・。俺は話を聞いてないからハッキリとしたことは言えないがアドバイスならできるかもしれない。なにを言われたんだい?」
僕はかいつまんでラファエロさんに説明した。
ラファエロさんは言葉を挟むことなく、僕の話を最後まで聞いた。
「なるほど。そんな話を・・・」
「はい・・・」
「その話、ある意味では事実だよ」
「ある意味?」
「見方の一つってこと。確かに人間から追われた魔物もいるが、もともとその土地に住んでいる魔物もいたし、魔物の被害は昔からあった。魔物撃退は安全確保の問題でもあったわけさ」
「土地が奪われたというのは嘘だと?」
「そうとも言えない。確かに魔物は昔から人間を襲っていたが魔物全体がそれを行っていたわけじゃない。逆に人間と交流を持ちたい魔物も多かったさ。人間はそういう魔物も含めて撃退してしまった。そういう魔物からしたら奪われたと思うのは当然のことさ」
なるほど。そう言われると信憑性がある。
人間の都合と魔物の都合は違うものだし、意見の相違もあるだろう。
だが、魔物視点から見たら土地を奪われた憎き敵、そしてその中から魔王が生まれた。
「魔王はそういう意思を集めて立ち上がった魔物というわけですか」
「いや?魔王は人間だったよ」
「え?」
「ただ、出生がわからない。君と同じ異世界人だったいう噂があるくらいさ」
「人間を倒すのに人間に頼ったってことですか?」
「それもあっちの認識と違うんじゃないかな?これは俺の予想だけど。魔物にとっては人間も氏族の一つと捉えている節がある」
「人間と戦うのに、人間がトップだったら魔軍なんてつくれるものなんですか?」
「まぁ実際人間が魔軍を従えて、人間と戦ったというのは事実だよ。それに特別な力を持っていたよ」
「特別な力?」
「そう。強大な魔力とあっという間に魔物に溶け込む性格さ。こればっかりは俺たちもお手上げだった」
「その人間はなんで魔王になったのですか?」
「一度話したことがある。単純に目の前の人を放っておけないと言っていた。人間だろうと魔物だろうと」
義侠心というものだろうか。
「なんていうか・・・魔物たちにとって救世主だったんですね」
正直言って僕には理解しかねる感情だった。
「まぁその魔王も俺たちに倒されたわけだが・・・。なぁフェリクス君」
「・・・なんでしょう?」
「魔物に付いて行く気はあるかい?」
「え?」
「君だけには本当のことを話そう。俺と魔王は戦いの中で、一種の友情みたいなものが芽生えた。そして俺とあいつは人間と魔物の関係を修繕し、どちらにとっても生きていける世界を作ろうとした。だが魔王は魔軍の暴走を抑えるために自ら、俺に倒される道を選んだ。それでもあいつの意思は死んではいないと思っている」
「・・・・」
「もし君があいつの力を使ってこの世界を少しでもよくしようと思っているならば、君にはその力がある。あとはどう行動するかだ」
「僕に魔王になれと?」
「そういう道もあるということさ。選ぶのはもちろん君だ。どんな行動をしようと僕には非難する権利はない・・・。」
フェリクスさんはポケットの中から大きな赤色の宝石らしきものがはめ込まれたネックレスを取り出した。
そしてそのネックレスを僕に差し出した。
「これは魔王の封印に使った宝具だ。魔王と戦った僕ら7人がそれぞれ持っている。もしこの宝石を砕けば君の封印が一つ解ける」
「どういうつもりですか?」
「どう判断するかは君に任せる。どう答えを出すか楽しみだ」
「楽しみって・・・」
「まぁ戯言だよ。質問はあるかい?何個かだったらできるだけ答えるよ」
「ラファエルさんは人間側ですか?魔物側ですか?」
「もちろん人間側さ。勇者も自由がなくてね」
「今後の世界がどうなってほしいですか?」
「大きな話になったな・・・。特に考えてない。関係修繕だって魔王が言い出したことだし俺はそれに乗っかっただけ。俺は所詮その程度の人間なのさ」
「とりあえずもう2つだけ質問させてください」
「時間的にそれくらいがだとうかな。なに?」
「考えてないと言った言葉は本心ですか?」
「・・・・・。」
勇者が沈黙した。
何も考えていないとラファエルさんは言ったが、それだけで数十年も放浪の旅を続けるだろうか?
それにいくら魔王と友情が芽生えたからと言って、それを十数年を守り続けられるか?
普通はできないが、なんらかの想いがあれば納得できる。
僕は少なくともそう思う。
「それと最後にどっちを選んでほしいですか?」
「ハハ・・・。君も結構踏み込んだ質問を平気でするね・・・」
「すみません、今は余裕がなくて」
「いや、いいんだ。どちらの質問も同じ質問と言えないくもないね。つまり本音で話せよってことだろう」
「有り体にいえば」
「・・・僕は人間が嫌いだ。それが答え」
その答えがラファエルさんの行動の一部を象徴しているようだった。
「・・・ありがとうございます」
「よし、じゃあそろそろ」
勇者が立ち上がりあるき出そうとすると森から大きな声が響いた。
「そろそろとは・・・!どこに行かれるのですかな?勇者殿?」
僕は驚いてその声の方向をみた。
そこには先程話しをしていた魔物とその隣にニナが立っていた。
ニナ・・・!?
ニナは気まずそうに視線をそらしている。
「そろそろ来る頃かと思っていたよ」
「これはこれはお待ちいただき感謝します。おとなしく魔王様を渡してくださいますかな?勇者殿?」
「それは答えを聞いてからさ・・・」
勇者は余裕を感じられる態度で魔物と話始めた。




