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僕が死ぬと世界が滅びます。  作者: ふぃーりす
二章 それぞれの思惑
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秘密


隠れながら息を整える。


「はぁ・・・・はぁ・・・・」


息が整い出すと、しだいに不安が襲ってくる。


あの大きな魔物から無事、ファブリスとメイド長は逃げられたのだろうか?


メイド長は僕らを逃がすために、囮になったような形で魔物の注意を引いていた。


そのおかげで助かったが、その反面ファブリスを危険に晒したことに対して罪悪感のようなものが湧いてくる。


「大丈夫よ」


ニナは僕の表情を読み取って話しかけた。


「大丈夫。ジュリエットさんはかつては人魔戦争のときに活躍していた戦士だったんだって。だからあのくらいの魔物ぐらいなんともないわ」


「・・・そうだといいけど」


「きっとそうよ」


確かにメイド長は父上がメイド兼護衛として一目置いている人だ。


メイド長ここの辺じゃ敵う相手がいないというほど腕っぷしが強い。


僕やファブリスがいたところで魔物にやられるような人ではないはず。


それに今考えても仕方がないことだ。


「そうだね」


「うん」


「ニナ」


「なに?」


「ありがとう」


「え?いきなり何?」


「だって、廊下でニナが手を引いてなかったらあの場所に立ったまま、メイド長の足手まといになってたかもしれない。それに今も励ましてくれるしね」


「別に私は何も・・・」


「そんなことにない。すごく助かった」


「ふぅー。そんなこと言ってないであいつらから逃げる方法を考えてよ」


「それもそうだね」


「息は整った?」


「もう大丈夫」


「じゃあもう出発する?」


「そうしよう」


2人は木の根っこから立ち上がった。


たしかこの森は他の村とつながっていたはずだ。


以前一度だけ、誤って他の村に出たことがある。


距離もだいたい徒歩で4時間程度とそんなに離れていない。


まずはそこを目指して歩き、そこから助けを呼んで村に戻ろう。


それが今のできる最大のことだろう。


「じゃあ行きましょう」


そう言ってニナは歩き出した。


次の一瞬、ふわりと森では嗅いだことのない匂いがした。


匂いの主はニナらしい。


この匂いは確か・・・。


そうだ、父上がよく飲んでいる蒸留酒の匂いだ。


「?」


そこで疑問に思った。


ニナからなんでそんな匂いがする?


晩酌でもしていたのかな。


「どうしいたの?」


ニナが振り返って僕の様子を伺った。


「なんでもないよ」


酔ってる様子はないけど顔に出にくいタイプなのかな?


そう思いニナの後に続いて歩く。


しばらく歩くと少し開けた場所に出た。


見上げると月が見える。


「そういえば今日は満月だったね」


僕はそうニナに言った。


「そうねきれいな月ね。ゆっくり見れないのが残念だわ」


「そうだね」


ニナはまた歩を進める。


そして開けた場所の中心付近で立ち止まった。


「どうしたの?」


「しっ!」


ニナに促されるようにこれから歩こうとしてる先に影が見えた。


「はじめまして・・・魔王様」


影はそう言ってゆっくりと歩き寄ってくる。


僕はその姿に驚愕した。


「ま、魔物!?」


人間とは明らかに体の形が違っていた。


身長は1メートルほどで肌は黄色。


足から頭の先にかけて一定の幅をしており、胴体と頭部の境目がない。


体の上部に目と口がついているのでそこが顔だとわかるが、顎も首も肩もない。


胴体兼頭部の側面と下に短い両手両足をがついており、その魔物も右上には杖を持っている。


「そうでございます。魔物をみるのは初めてでございますか?魔王様」


少しの間唖然としていたが、すぐに我に返りその言葉に返答した。


「僕は・・・魔王じゃない・・・」


魔王ではない。たしかに魔王の力を内包しているらしいが、魔王自身と言われたこともないし実感もない。


「そうでしたな。今はまだ・・・。私の名前はマティスと申します。以前は魔王様の、先代の魔王様の側近としてお使えしておりました」


マティスと名乗る魔物が話を続けた。


「お迎えに上がりました」


「迎えって?」


「魔王様は魔物を統べる御方。今は力を発揮できておりませんがいずれ力取り戻し陣頭に立つことでしょう。そのお手伝いをこれからさせていただきます」


怪しいことこの上ない。


いきなり出現して魔王呼ばわりした挙げ句、その手伝いをする?


乗っ取りの常套句だ。


ただ、魔物の言葉にちょっとした疑問がある。


僕は魔王ではない。


ラファエルさんがいうには、魔王の力だけが封印され、意思は別のものに入っているということらしい。


だったら、そっちのほうが先じゃないか?


まさか、もう意思の方は手に入れていて、後は力を、僕を連れ去るだけの状態なのではないか。


そうだったら、ついて行ったら何されるかわかったものではない。


今一番重要なのはどうやってここから逃げるか、それを考えないと。


「突然出てきて勝手に話したことが気に触ったようですね。誠に申し訳ありません。私の言葉など信じられないでしょう」


「・・・・・」


「ですがこれには理由があります。今まで何度も接触を試みました。ですがこの村には強力な障壁が張り巡らされています。本当は何度も何度も足を運び言葉を尽くし信頼していきたかった。ですがそれは叶いません。それにもう時間もありません。だからこのような手段を選ばせていただきました」


「時間・・・?」


「そうです。私達には時間がない。先代の魔王様が破れた後、魔軍は四散してしまいました。人間に対抗する手段を失ってしまったのです。ですが我々は人間に奪われた土地を取り戻さなければならない。一刻も早く」


「奪われた土地?」


「そうです。もともとは人間と魔物は離れた異なる地域に生息していました。多少の交流はありましたがほとんど干渉せず暮らしていました。しかしある時突然、人間が侵略してきました。人間は我々を圧倒する力を得ており、さらに不意を突かれた事もあり、あっという間に南の不毛の地に追いやられました。南の地は気温が低く、食物もほとんど取れませんでした。そのため多くのものが飢えて死んでいきました。食物を取り合って魔物同士の争いも増えました。飢えと闘いの結果、私の友人や家族は一人づつ死んでいきました。絶望が心を覆い、なんの希望もないと諦めていましいた。そんな時、そんな時です。魔王様が現れたのは・・・」


マティスという魔物は極めて真剣な眼差しで語る。


「魔王様は強大な力と指導力で魔物を統合し魔軍を作りました。そして人間に戦いを仕掛けたのです。そして我々は初戦を勝利し、人間に奪われた土地の一部を取り戻しました。同時に我々は希望を取り戻したのです。狩猟や農産で食事を確保できるようになった時、我々は氏族同士のいざこざは消えました。魔族同士が団結し、絶望から脱却できたのです。ですが・・・」


マティスは目を伏せて苦々しい声で話を続ける。


「ご存知かと思いますが、魔物たちは破れました。その後はまた南の痩せた土地に追いやられ、希望は失われました。残り少ない魔物もこの土地でどんどん死んでいく。もう駄目です・・・もう駄目なのです魔物は・・・。もうすぐ魔物は完全に滅んでしまいます!」


マティスは顔を上げて必死さを湛えた目で僕のことを見つめる。


「あなた様が最後の希望なのです!我々を救ってください!魔王様!」


「・・・・僕は・・・魔王じゃない・・・」


「知っています!ですがあなたは魔王になれる!そのための力を持っているはずです!」


「・・・・・」


「どうか!どうか!我々をお救いください!」


「・・・・そんなこと言われても・・・」


どう考えても魔物に与する理由はない。


僕は人間の世界で生きてきた。


魔物なんて今まで一度もみたことがない。


なのに、魔物を救う?


そしてそれは人間と対立することを意味する。


そんなことができるわけがない。


何も答えられずにいた僕の様子を見て、マティスが口を開いた。


「・・・やはり、一度お連れするしかなさそうですね」


「!?」


「危害は加えません。ですが脅迫まがいな事になってしまうことは避けられないようです」


僕は思わず身構えた。


一人とはいえ魔物は魔物。


僕の力で突破できるかどうか。


だがここはニナと一緒に脱出しなければ・・・。


「申し訳ありません。魔王様。ニナ、お連れしなさい」


「!?」


今、この魔物はニナの名前を呼ばなかったか?


聞き間違えか?いやそうに違いない。


なぜならニナの名前を知っているわけがない。


「・・・ニナ?」


「・・・・・」


ニナは沈黙している。


「ニナ・・・なんで・・・今魔物に・・・」


違うと思っていても聞くことは止められなかった。


確かめずにはいられなかった。


違うと言ってほしい。


心のそこからそう思う。


だがニナは答えなかった。


代わりにニナはゆっくりとこっちの方を振り向いて・・・。


「ごめんね・・・」


それだけ言った。


次の瞬間、頭部に強烈な痛みを受けた。


何をされたかわからなかった。


気がつくと地面に倒れ込んでいた。


「ニナ・・・ご苦労だったな」


「別に・・・あなた達のためにやったわけじゃない・・・」


「そうだったな。だが礼を言わせてくれ。これで希望が・・・」


「・・・・」


薄れゆく意識の中でマティスとニナが話している。


明らかにお互いのことを知っているような話し方だ。


「ニ・・・ナ・・・」


必死に言葉を発したが果たして声になっていたのか。


ニナが意識が絶え絶えの僕の元へ近づいた。


「ごめんね。私は・・・人間じゃないの・・・」


「そん・・・・な・・・」


「ええ。もう一つ教えておいてあげる。あなたの父親を襲ったのは私よ」


「!!」


なんだって・・・?


「ッ!」


体を動かそうとしても、力が入らない。


ニナはなんて言った・・・?


父上を襲った?


「じゃあね。さようなら・・・」


ニナは立ち上がって離れていく。


だんだん意識も朦朧とする。


「ま・・・って・・・」


追いすがろうとしても体が全く動かない。


なんで!?


口から出ない疑問を心の中だけでつぶやいた。


次の瞬間、視界がパッと明るくなる。


「なんだ!?」


マティスが動揺している。


なにが・・・?


僕は意識を失った。

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