3話 亡命貴族の部屋?
ロビーと違い、9階は静まり返っていた。
防音設備が凄いだけなのかも知れないが、
人の気配は全く感じなかった。
ホテルの廊下には、幾つもの絵画が飾られており、
9階が特別なフロアであることを、示していた。
由良穂香は、大きな絵画の前で立ち止まった。
それは、とても大きな絵画で、
あるじの背丈と同じぐらいの高さがあった。
絵画には、20代後半の女性が描かれていた。
とても品の良い女性だ。
あるじは、制服の下のつけていたネックレスを取り出した。
ネックレスの先には、小さな黄金の鍵が付けられていて、
装飾品の様な可愛らしい鍵だった。
「純金の鍵です。キラキラなのです♪」
純金の鍵は、僕の目の前でキラキラと輝いた。
その可愛らしい純金の鍵が、
さっきまであるじの肌の温もりに触れていたと思うと、
ちょっと嫉妬した。
「これをですね・・・ここに」
額縁の裏側にあるであろう鍵穴に、
黄金の鍵を差し込んだ。
額縁の奥で、「ガチャ」と何かが開く音がした。
すると大きな額縁はドアの様に開き、
その先には隠し部屋が現れた。
「防犯用のパニックルームなのですぅ」
パニックルーム・・・
確か、犯罪者が家に侵入された時に、
一時的に逃げ込む部屋・・・だったかな。
あるじは重厚なドアを開けた。
「早く入ってください。ここは、
あまり人に見られたくない設備なのです」
僕がそのパニックルームに入ると、
あるじはその重厚なドアを閉めた。
僕は、何か凄い閉塞感を感じた。
パニックルームには、素人の僕が見ても解る、
高価な家具が待ち構えていた。
スウィートルームと言っても良い広さと豪華さだったが、
窓は1つもなかった。
軟禁された亡命貴族の部屋と言った感じの雰囲気だ。
「ここが、当面の間の家臣くんの隠れ家です。
家臣くんは、今は記憶がないとは言え、
誘拐犯グループのパシリさんでした。
誘拐犯グループの背後にいる誰かに取っても、
私に取っても、重要な切り札です。だから・・・」
由良穂香は、可愛く微笑んだ後、この部屋の設備を説明した。
衣食住、10日分揃っている事。
セキュりティーは、最上級である事。
そして、自分は1度家に帰る事を告げた。
「私も色々片付いたら、また来るね」
と、言い残すと、パニックルームから去って行った。
由良穂香によって、
絵画の掛けられた重厚なドアが、閉められると、
完全な密室になった。
由良穂香が居なくなると、激しい孤独感に苛まれた。
「軟禁された亡命貴族の部屋・・・
もしかすると、僕は・・・」
脳裏に色々な可能性が浮かんでは消えた。
Ⅰ軟禁
Ⅱ憲兵隊に通報
Ⅲ誘拐犯として逮捕
あるじが僕を裏切る可能性の数々・・・
「出ようと思えば、出れるはずだ。」
僕は、ドアのノブを微かに動かした。
外からは鍵は掛かっていない。
でも、それは、
あるじに対する裏切りと思えなくもなかった。
あるじを、信用していない裏切り。
しかし、あるじが僕を裏切っていたら?
由良穂香は、憲兵隊本部長の娘だし・・・
誘拐犯の一味の僕を引き渡すのは、
当然と言えば当然かも知れない。
でも、それなら、あの廃バスや秘密の巣窟に、
連れては行かないはずだ・・・
孤独は判断を誤らす。
つづく




