道中
さっさと北の神殿で魔術を施して、次の西の神殿へ向かう蓮華。蓮華の視点ではコルセッポという妖精がいるので二人旅だが、妖精は常人の目には見えないため、傍から見ると蓮華の一人旅にしか見えない。そんな蓮華達が山道を歩いていると、異世界といえども色々危ないわけで。
「後ろに二人……追い剥ぎか山賊か……どっちにしろマトモな人間とは思えない風貌なのだ」
注意深いコルセッポは、薄暗くなった山道でずっとつけてくる存在に気づいていた。
「……次の村までは?」
「数キロ……どうにかして撒くのだ?」
蓮華達はしばらく普通に歩いたあと、突然横の獣道へ走った。
「追え!!」
なんにしろこうするしかなかった。このまま歩いていたら奴らの仲間が待ち構えていて挟み撃ちらしいから。コルセッポによると、この獣道の先に人影を確認したらしい。どうにか良い人で、さらに強い人であることを祈るばかりだ。
「……! 助けて!」
少し開けたところにその人間はいた。格好からしてハンターか傭兵かそれとも剣士か。大剣を持っているから剣士なのだろうか。いずれにしても力はありそうだが。
「……報酬は」
その男は蓮華に金を要求したが、着の身着のままでトリップしてきた蓮華にそのようなものは無い。
「無い! いいから助けて! 私がいないと世界が困るんだから!」
「はぁ? ……お前まさか」
「居たぞ!」
わらわらと山賊達が辺りから出てくる。蓮華は一瞬死を覚悟した。
「……後で相応のものは貰うぞ」
剣士風の男はそう言って、大剣を振り回し山賊達をなぎ払った。
「あ、ありがとう」
辺りに横たわる追い剥ぎ達。全員の意識がないことを確認して、剣士にお礼を言う蓮華。
「いや……。それよりさっきの、お前まさか神子か?」
「知ってるんですか?」
村人達の対応から、勝手に神様と呼ばれた神子本人しか知りえない事だと思っていたのだが。この剣士風の男は、見た目とは裏腹に博識だったりするのだろうか。こんな力のある人間が信じてくれたら心強いのだけれど。
「御伽噺だ……。誰も事実とは思っちゃいない。……だから、それを名乗るとしたら、山師か詐欺師か、頭のイカれた人間か。魔物が闊歩するようになってから、そういうのが多くてな」
「……っ!」
やはり、そう上手くはいかないものだ。胡散臭げにこちらを見る男は、自分を詐欺にかける気かと疑っているようだ。緊急事態だからって、名乗るのではなかった。もっと言えば、自分だって信じてないのに。それでも助けてもらった以上、お礼は言うべきだろう。
「ありがとうございます。助けてくれて」
「……別に。それより、お前はどこに行こうとしてるんだ? 詐欺師にしても、このご時勢に女の一人旅とは感心しないな」
「神殿のある西の村です。その次は同じく神殿のある南の村で、旅は終わる予定……ですけれど」
「……それ、もしかしなくても巡礼か?」
「ええと? ……はい! そうなんです」
「……そうか。という事は、南で流行った願掛けか。一人旅で無事大陸を一周出来たなら、神がご加護を下さるという。なんだ、それなら先に言え。そういう事情じゃ金もないようだし……うむ」
よく解らないが、勝手に納得してくれたようだ。……これは決して騙していない。事実を言っただけで向こうが勘違いしたのだ。どうせこの様子じゃ事実を言った方がやばそうだし、このままでいいよね? うん。
「しかし、いくら願掛けといってもな。これだけの目に合ってまだ続ける気か?」
山賊達の横たわる辺りを見回し、呆れたような声色で言う。続けるも何もそうしないと元の世界に帰れないし。好きで一人なんじゃないし。この世界の障がい者の概念知らないけど、片目の自分を風上におかない扱いしてくれるし。唯一の味方が妖精で、その妖精がしろっていうから私は!
「ええ、続けます。それしか出来ないから。終わったならきっと、頑張ったなら必ず、カミサマが見てくださると思うのです」
神様が元の世界に戻してくれるんだ。今は横で大人しくているコルセッポの言うとおりにしたら絶対。
「……俺が悪かった。あんた、敬虔な信者なんだな」
ここの宗教なんか知りませんよ。でも勘違いは有難いですけど。
「そういう事なら、護衛をしてやるよ。まだ先は長いからな……金はいらない」
「あっ、ありが……とう、ございます」
同情誘ってタダで護衛。目論見が上手くいって思わず声が掠れる。
「……あんた、名は?」
「レンゲです」
「俺は、ルドルフ。……よろしくな」
契約成立し、握手を交し合う蓮華とルドルフの横で、コルセッポが白けた顔でそれを眺めていたことは、二人は知らない。