西の村
突然ですが、西の村にて私こと形代蓮華は、その村長の息子(神殿のある村の村長は実質、国の王くらいの権力持ち)に求婚されて、正妃になりました。
「一人旅する五体不満足な少女! 何て可哀相な存在! それでも世の為に尽くそうとする君こそ僕に相応しい!」
村に入った途端、入り口に立っていた村長の息子にそう言われて、あれよあれよと自宅に招かれ気がついたら嫁になっていました。今では下にも置かぬ扱いを受けています。……夢みたい。
「レンゲの怪我を阻止できなかった僕が言う事は何もないのだ。旅は、続けてほしいけど……とりあえず英気を養うといいのだ!」
コルセッポが悲しそうに言っている。でも確かに……無理矢理呼ばれて片目になって、充分な装備も準備もなしに旅立って……。今楽しんだってバチは当たらないよね? もともと私は、好きでこんなとこ来たんじゃないもの。豪華な食事にお風呂、全てが私を喜ばせた。
ある日、屋敷と屋敷を繋ぐ廊下を歩いていると、ルドルフが立っていた。そうだ、護衛のお金渡さなきゃ。正妃様だから自由になるお金は多い。
「はいどうぞ」
近寄って金で出来た首飾りを渡す。しかし彼は頭を振って受け取ろうとしない。……村長の息子に無理に連れてこられた日以来放っておいたの怒ってるのかな。
ルドルフは、可愛らしい眼帯を左目にした少女を見ていた。それなりに幸せにやっているようだが、だからこそつたえなければならない。
「……この前は髪の長い女。その前は美女」
突然ルドルフは妙なことを言い出した。何?
「今いるのよりもっと長い髪の女が来ればそいつが正妃に『更新』 されたそうだ。今度はいつまでかな。西のお坊っちゃんは」
私は首飾りをルドルフに叩きつけた。
「最っ低! 人の幸せを妬まないでよ。あんたも見下してたのね!? 私が普通の身体じゃないからって! そんなやつが先に幸せになったら気分よくないものね!」
「……」
「出てって! 早く!」
私の剣幕にルドルフは出て行った。ああ気分が悪い。ちょっとかっこいいなんて思ったこともあったけど、人の幸せを素直に喜べない人とは思わなかった。こうなって正解だわ。
「あら、今のだあれ?」
色っぽい声。私はこの声の人達を知っている。前の正妃達だ。
『今は君に夢中だよ。あの中に君ほど可哀相な子はいないからね』
でも、私は信じてる。あの人の言葉を。
「同情で人の歓心を買うのはまだいいわ」
「でも何人もたらしこむのは最低じゃなくて?」
「可哀相な境遇だからって何でも許されると思ったら大間違いよ」
だから何。私なんかこの世界の人間ですらない。地に足がついていない。一番可哀相な人が一番優遇されるべきよ。あんた達なんか五体満足のくせに文句ばかり。煩わしいので無視して自分の部屋に戻ることにする。と思ったけれど、廊下はおばさん達で塞がっている。仕方なく遠回りになる屋外の道を行く。
その時、それが起こった。左側に立てかけてあった木材が、私が通った時にバラバラと振ってきた。
私は、左の視界がきかない。
「……ぁ……っ」
左半身が痺れる。骨までいってないことを祈るばかりだ。芋虫のように這って木材の山から抜け出すと、遠くでどっと笑いが起こった。思わず、涙がこぼれた。
旦那様、私の旦那様に訴えなきゃ。
「レンゲ――――!」
遠くから、旦那様が走ってきた。
横に、見知らぬ女性を連れて。
「見てくれこの子を! 生まれつき頭がおかしいんだって! 三歳並みの知能だそうだよ! 善悪も解らないとか一番可哀相だよね! そんな可哀相な女性を正妃にする僕はなんて優しいんだろう!」
とぼとぼと私は歩いた。コルセッポは複雑そうに私を見て、何も言わず出立の準備をしてくれた。おかげですぐに西の神殿で作業を終わらせ、南に向かうことが出来た。コルセッポは有能だ。片腕が使い物にならなくなった私でも旅が出来るように計らうのだから。
さああと一つだ。これで私の旅は終わる。南の神殿へ……。通じる街道を行こうとしてぎょっとした。ルドルフが立っている。
迷った末、堂々と無視して前を歩く。向こうもこっちには用がないはずだ。通り過ぎようとして、ルドルフが呟く。
「……南まで護衛するぞ」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声が出る。他に誰もいないんだから、私のことだよね。どんな理由があればあんなバカなことした女の護衛なんかするの。
「……首飾り代だ。それでもお釣りがくる」
「そう。勝手にしたら」
ルドルフは荒くれ者な外見に反して、意外と義理堅いようだった。彼は黙って前を歩く私の後ろをついて来る。
それが私には心地よかった。泣いているのを知られなくて済んだから。




