表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/5

第四話 旅の果て

 東へ向かう街道を、一人で歩く。

 春の風は穏やかなのに、足だけが重かった。


 以前なら、こんな旅を一人ですることはなかった。

 地図を広げるのはカイル。

「こっちだ。」


 その一言で十分だった。

 俺は何も考えず、隣を歩いていればよかった。

 ……まただ。

 歩けば歩くほど、あいつのことばかり思い出す。

 最初の村へ着いたのは夕方だった。

 宿を取ろうとすると、受付の老人が俺の剣を見て笑う。

「冒険者か。」

「ええ。」

「なら、少し遅かったな。」

「遅かった?」

「少し前まで、若い冒険者が泊まってたよ。」

 胸が小さく跳ねる。


「……名前は。」

「確か、カイル。」

 思わず息を呑んだ。

「知り合いか?」

「……はい。」


 老人は懐かしそうに目を細める。

「いい青年だった。」

「宿代が払えない子供がいてな。」

「その子の分まで、何も言わず置いていった。」

「礼も受け取らず、朝には出て行っちまったよ。」


 俺は何も言えなかった。

 昔からそうだった。

 困っている人を見つけると、放っておけない奴だった。

 翌日。

 さらに東へ向かう。

 昼頃、小さな橋の前で荷馬車が立ち往生していた。

 車輪がぬかるみに埋まっている。

「手伝います。」

 二人で荷車を押す。


 ようやく車輪が泥から抜けると、商人は何度も頭を下げた。

「助かった。」

「いや。」

「最近も助けてもらったばかりなんだ。」


 もう驚かなかった。

「若い剣士でね。」

 聞かなくても分かる。

「橋が崩れかけていたところを、一人で支えてくれた。」


 商人は少しだけ眉を寄せた。

「ただ……。」

「礼を言う間もなく行っちまってな。」

「まるで何かに追われてるみたいだった。」


 追われている。

 その言葉が胸に引っかかった。

「休めばいいのに、と思ったよ。」

 商人は苦笑しながら荷馬車を走らせていった。

 三日後。

 山あいの村へ着く。

 子供たちが広場を駆け回っていた。

 一人の少女が木の枝を振る。

「えいっ!」

「もっと腰を落とせ。」

 思わず口から出た。 


 少女は目を輝かせる。

「そうやって教えてもらったの!」

「誰に?」


「カイルお兄ちゃん!」

 無邪気な笑顔だった。

「また来るって約束してくれた!」

 俺も笑いそうになる。


 あいつらしい。

「絶対来るって言ってたよ!」

「そうか。」

「うん!」

 少女は少し首をかしげた。


「でもね。」

「帰る時だけ、少し変だった。」

「変?」

「泣きそうな顔だった。」

 その言葉だけが、胸に残った。

 夜。

 焚き火を見つめる。

 薪が弾ける音だけが響く。


 あの日。

 あんなことを言わなければ。

 今も隣で笑っていただろうか。

 火を見つめても答えは出ない。


 もう一度だけ。

 やり直せるなら。

 そんな都合のいいことばかり考えてしまう。

 翌朝。

 村を出ようとすると、老婆に呼び止められた。

「冒険者さん。」

「はい。」

「これ。」


 温かいパンを差し出される。

「持っていきな。」

「でも……。」

「カイルさんにも渡したかったんだけどね。」

 老婆は寂しそうに笑った。

「もう行っちゃったから。」


「……どこへ?」

「もっと東さ。」

「誰かが助けを求めてるって聞いたらしい。」

 最後まで、人助けか。

「ありがとうございます。」


 俺は頭を下げた。

 パンはまだ温かかった。

 夕暮れ。

 山道を抜けると、遠くに煙が見えた。

 嫌な予感がして、足が速くなる。

 坂を駆け下りる。


 村へ近づくにつれ、人々の声が聞こえてきた。

「助かった!」

「全部倒したぞ!」

「一人であの数を……!」 


 村の入り口では、折れた魔物の角が山のように積まれていた。

 俺は息を切らしながら駆け寄る。


「すみません!」

「ここに、カイルという冒険者が来ませんでしたか!」

 村人は驚いたあと、笑顔になる。

「ああ。」

「さっきまでいたよ。」


 心臓が大きく脈打つ。

「どこですか!」

 村人は村外れの丘を指差した。

「たぶん、まだあそこだ。」


 礼も言わず走り出す。

 息が苦しい。

 足も痛い。

 それでも止まれなかった。


 もう一度だけ。

 会いたい。

 謝りたい。


 それだけだった。

 丘の向こうには夕焼けが広がっている。


 その先に、

 俺が探し続けた親友がいる。

 そう信じて、

 俺は最後の坂を駆け上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ