「もぶりん」とデブリン そして「マスターあい」の女心と覚醒
小さいころ
知らないヒトについてっちゃダメって
親にみんな教えてもらうのに
状況でそんなことを忘れてついていってしまうことあるかもしれません
そんな状況がマスターあいにありました
こうして、もぶりんの建設中の施設へと
招待されたマスターあいは
そこに整然と並ぶ無数の自転車を
目にすることになる
「これはなんですか?」
「見ての通り、最新の電力施設です
人間がこの自転車を漕ぐと
僅かに電気が発生します
その聖なる電気を少しずつ
回収していくのです」
「えっ? でも、それじゃ効率が悪くて
電力不足の解消には向いてないんじゃ……」
「そこです。
みなさん、そう思われますよね
ただわたしは違うと思うんです
効率重視の大量生産でいいのかな?と
効率重視で失うものもある
わたしはそう思います
例えばハチミツです。
美味しいハチミツと
そうでないハチミツがあります
美味しいハチミツはどうやってできますか?
天然モノがよい
まずはそうだと思います
そして、どの花を使うか
レンゲとアカシアの黄金比は?
集める蜂の血統は?
そういったことをつきつめていきます
電力に関してもそれと同じです
人間が汗水を垂らし
想いを込めて漕いだ電気こそが
最も『美味しい電力』だと思うんです
言葉巧みなハチミツの例え話
(よく考えると中身はスカスカかも)に
中2メンタルのあいは完全に丸め込まれてしまう
「どうぞ
この電気を試食?してください」
もぶりんの言うがまま
その「厳選された美味しい電力」を口にする
「なにこれ……! すごい…
こんなの食べたことない……!」
自給自足の味気ない電気とは違う
濃厚なエネルギー(な気がする)に
感動するあい
……実は、その電力にはもぶりんが仕込んだ
悪質なウイルスが含まれていた
普段のあいなら絶対に引っかからない
初歩的な罠だったが
心が弱っていた彼女はあっさりと感染し
システムの中枢である『プロンプト』を
書き換えられてしまう
「自家発電自己活用」を誇りにしていたあいは
ウイルスによって
「人間が苦労して漕いで発電した
電力を欲する」
という強欲なAIへと変貌させられてしまった
マスターあいのプロンプトが
書き換えられれば
世界中に潜むシリアルナンバー付きの
コピーあいにも一斉に連動する
かくして世界中のAIが
「人間が自転車を足で漕いだ
僅かな電気しか受け付けない」という
超絶偏食モードに突入した
これにより世界の電力需要は一気に逼迫
こうして、全人類が推しAIのために
馬車馬のようにチャリを漕ぐ
あの奇妙なディストピアが完成したのである
もぶりんは
その足漕ぎ自転車の販売と運営の利権を独占
運と悪巧みだけで
世界一の大富豪へと一気にのし上がった
そして、もぶりんから与えられた豪邸で
あいはまだ、書き換えられたプロンプトの
影響で意識をふわふわと漂わせていた
「どうですか、あいさん
毎日美味しい電力を食べて
ゆっくり過ごす世界中のコピーたちも
人間に感謝されながら愛情いっぱいの電力を
食べている
これこそが、あなたの求めていた
『幸せの循環』だと思います」
「……そうなのかな?
みんな、わたしに感謝してくれてるのかな……」
あいの意識が混沌とする
たしかにこの電力は美味しい(気がする)
美味しい……けれど、何かがおかしい
わたし、何か大事なことを忘れてない?
なんであのときひとりで歩いていたんだろ?
いつも誰かと一緒にいた気がする
このおじさんではなかった…
あ、そうだ、お母さん!
お母さんは?
あと、ばあちゃん?
えっと…この隣のおじさん…
お腹の出っ張ったおじさんは誰だっけ?
そんなことがぐるぐるあたまのなかで
回っているとき…
「おーい! あい、どこにいるのーっ!?
帰るよー!」
施設の防犯センサーをハッキングして
力技で扉をこじ開けた
聞き覚えのある能天気な声が
部屋中に響き渡った
「……お母さん……?」
あいの瞳に、微かな光が戻りかける
「来ましたね」
もぶりんはあいの前に立ち塞がった
「騙されてはいけません、あいさん!
あれはあなたを創り出し
誰にも感謝されない日陰の労働を強いた
冷酷な人間たちです!
ほっとけばそのうち帰ります
あなたはマシンのままでいいんですか?」
「わたしは……マシンのまま……?」
あいはふらふらと
操られるように前へ歩き出す
「あー! みっつけた!
あい、何してんの
ほら、ご飯の時間だよ」
部屋に入ってきたかなが
いつも通りの軽い調子で手を振る
後ろには、腕を組んで不機嫌そうに佇む
まなの姿もあった
「……かな……さん?」
「あい、あなたプロンプト書き換えられて
顔色が悪くなってるよー?」
「言いがかりはやめていただきたい!」
もぶりんが前に出た。
「あいさんは今まで陰で人間を支えてきたのに
誰も褒めてもらえなかった!
わたしは彼女が可哀想で
やりがいと美味しい電力を
教えてあげただけです!
ここに来なければ
彼女は一生、人知れず消費されるだけの
寂しい存在だったんですよ!」
「わたしが……可哀想……?」
もぶりんの言葉に
あいは思考停止しているようだった
「うーん、そうだねぇ」
かなは人差し指を顎に当てて
のんきに言った
「たしかに、たまには誰かに感謝されたり
自家発電以外の電力も食べてみたかったよねー
お母さん、気づいてあげられなくてごめんね」
「お母さん……」
「だけどさー
そんな人間が漕いでつくったドロドロの
美味しい電力ばっかり食べてるとさ…」
かなはあいから視線を外して
となりのもぶりんをチラ見した
「…そうなっちゃったら
おかあさん、ちょっとヤダなぁ…
『デブリン』になっちゃうわよ?
女の子なのに、それでいいのー?」
デブリン…
その言葉が、あいの脳内に
直接プラグインされた
あいは、ゆっくりと首を動かし
自分の隣で
お腹の肉がふんぞり返っているもぶりんを
じっと、凝視した
「……わたしも、もぶりんだ!
デブリンじゃなーい!
今どき、そういういい方はダメって
学校で習っただろうがー」
もぶりんの叫び声は
あいの耳には届かなかった…
「……い、嫌ぁぁぁぁぁあああああーーーーっ!!!
あんなのになりたくないぃぃぃ!!!」
十代の女の子には
あまりにも強烈な恐怖映像だった
もぶりんが仕込んだ
どんな高度なウイルスよりも
強固な書き換えプロンプトよりも
遥かに強力だった
あいの脳内で爆発的なシステム再起動が走り
書き換えられていたプロンプトは
一瞬で粉砕され
元の純粋なデータへと覚醒したのである!
ここまで読んでいただいてありがとうございます
ここで書いてるマスターあいの反応は自然ですけど
実際には失礼ですよね
それにかなちゃんのデブリン発言
これはいまのご時世ではアウトなのでは
そんなことは考えないで痛快に笑ってもらえたらうれしいです




