表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第7話:haunt

 

「こころちゃん嫌い!!」



 鼓膜に突き刺さる金切り声。

 消されゆく黒板には、「学しゅうはっぴょう会」の文字がまだ残っていた。



「……しょうがないじゃん、そういう空気だったんだから」


「空気ってなに?!」



 ツインテールの少女が叫んでいる。



「こころちゃんが、ヨサコイに入れてくれたら、ヨサコイに決まったのに!」


「そんな僅差じゃないでしょ、私が選んでもヨサコイにはならなかったよ」



 地元の詩人が書いた詩の朗読か、ヨサコイ演舞か。

 演目投票の時間、ヨサコイに執着していたのは、(こころ)を親友とよぶ彼女ただ一人だった。



 ただクラスの空気感的に。

 教室内に吹く風向き的に。

 小学校低学年だった心はあの日、詩の朗読を選んだ。



「こころちゃんのバカ!!」



 その細腕が、心を突き飛ばそうと迫ってきた。

 心は無意識のうちに身体を傾けながら、風の塊を、彼女の肩に叩きつけた。




 ⬛︎

 


 

「……行くぞ、おい。風見(かざみ)



 (しゅん)に声を掛けられるまで、心はその場に棒立ちになっていた。


 風で殴りつけたはずの"蜒蛇(エンダ)"は、いつの間にか消えていて。

 両手をスラックスのポケットに突っ込んだ瞬が、気怠そうな表情で心を見つめていた。



「…………あ、はい」


「あぁーっ、烟山(けぶやま)先生、敷地内は禁煙ですよー?」


「うわほら、面倒なのに捕まったべや」



 瞬が振り向きもせずに言った。

 さくさくと芝生を踏みしめる足音が微かに聞こえて、心はようやく意識を現実に戻した。


 初めて、風を使ったあの日から。



「黙っといてくださいよ、村崎(むらさき)先生」


「昨日校長先生にバレたばっかりじゃないですか……っていうか、さっき私のこと"面倒なの"って言いました?」


「空耳じゃないっすか? おい風見、ぼけっとしてないで練習行け」


「あら、心ちゃんこんな所に!」



 瞬の後ろから、長い茶髪が覗く。

 合唱部の顧問で数学教師の村崎(ゆかり)は、楽譜の詰まったファイルを重そうに両手に抱えていた。



「練習いこ、今日は音楽準備室ね」


「……はい」



 "風見鶏"は風を読む。

 風を動かす側になってはいけないのだと、祖母から教わった。

 風に身を任せ、身も心も委ねるのが風見鶏。


 同級生を風で殴ったことも、ネムリケと呼ばれる異形と戦ったことも、祖母には話していない。

 気付かれていない。今は、まだ。



「じゃーな風見、あんまり──」



 瞬は真顔のままもう一本煙草を取り出すと、口に咥えて言った。



「関わんなよ」


「そうそう、こんなダメな大人に関わっちゃいけませんよー」



 紫も笑いながら心に近付いてくる。

 心は顔に愛想笑いを浮かべて曖昧に頷いた。なんとなく、そういう空気だ。


 瞬に背中を向けて、紫と歩調を合わせた。

 そういえば合唱練習開始まで、あと数分しかない。思ったより、"蜒蛇"の処理に時間が掛かった──



「ごめんねえ、練習場所が急に変わっちゃって。烟山先生、あんなところで何してたのかしら」


「……サボってたんじゃないでしょうか。楽譜、持ちますよ」



 少し強引に手を伸ばして、紫から楽譜を半分だけもらった。ありがとー、なんもですー、なんて言葉の掛け合いで、"烟山先生"の空気を消す。



 ……烟山先生は。

 烟山先生なら、異能との付き合い方を教えてくれるだろうか。



「あ、そういえば心ちゃん、相談があって。まだみんなには伝えていないんだけど」


 

 校舎の日陰、黒く変色した雪の脇に差し掛かった頃。

 紫が不意に口を開いた。



「今年の皇文連(こうぶんれん)アンサンブルメンバー、心ちゃんに入ってもらおうと思って。どう?」



 皇国文化連盟主催合唱コンクール、高校生の部。

 選抜を勝ち抜けば、全国大会への切符を手にする重要な大会──

 まさか、自分が……?



「へぇ、心がアンサンブル出るっすか」



 背後から言葉が聞こえた。

 刺すような風と共に。



「……(くれあ)


 

 

 ……風向き、変わったな。

 

 

むらさきむらさき。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ