第6話:sneak
視線の先には、一匹のヘビ。
小さな羽根の生えた。
「……み、見えるの?」
心は思わず、隣のクラスメイトにそう訊いていた。
ネムリケという怪異は、自分のような異能力者にしか見えないと、勝手に思い込んでいたから。
「ねぇやば、先生とか呼んだ方がよくない?」
「私、烟山先生呼んでくるから、先に音楽室戻ってて」
「待って写真撮りたい」
「危ないって!」
羽根の生えたヘビ、"蜒蛇"。
以前遭遇した凍狐は時間を止める能力があった。この"蜒蛇"にどんな能力があるのかわからない。
"蜒蛇"がゆっくりとこちらを向く。
口が開く。
鋭い牙が、陽に煌めいた。
「えええ怖!! キモ!!!」
クラスメイトはスマホを出す前に、短く叫びながら踵を返した。
その瞬間、心は無意識に、クラスメイトの背中に腕を伸ばす。
足元の雑草が揺れ、セーラー服の裾がはためいた。
クラスメイトの髪がなびく──追い風。
心は指先で風の範囲を絞った。芽吹いたばかりのカタクリの花を散らして、一陣の風が吹き抜ける。
もともと吹いていた複数の風の流れを合流させただけだ。風たちはクラスメイトの背中を遠くへと追いやっていく。
「風見鶏が風操ってんじゃねえよ」
小さくなるクラスメイトの背中を見送っていると、不意に声を掛けられた。
「けっ、烟山先生!」
「お前は黙って風でも視てろ」
咥え煙草のまま、瞬が立っていた。
ボサボサの髪が風に揺れている。
「先生、そっ、そっちにネムリケが……!」
「うるせェ、声出すな」
はーマジめんどいガキはこれだから……と、瞬はブツブツ呟きながら歩み寄ってきた。
「能力を使う、使わないは自由だけどよ、あんま派手にやるとバレた時に面倒だぞ。ネムリケの事だってデケェ声で喋んな。日陰者は日陰者らしくコッソリ生きんだよ」
瞬の瞳に前髪がかかり、表情を隠す。
日陰者──確かに悪目立ちはしたくないし、打たれる杭にもなりたくない。
けど、日陰者って……
「……風を使うなってことですか?」
「んなこと言ってねえべや、現文苦手か? バレないようにやれっつってんの」
言いながら瞬は煙草を指で弾いた。
吸い殻は空中で回転しながら、威嚇したままのポーズをとる"蜒蛇"に直撃。
瞬はさも当然のように"蜒蛇"を掴み、雑巾のように絞り上げる。
「コイツは俺が殺しておくから、風見はどっか行けよ。あるんだろ、なんか、練習」
「……まあ、一応。皇文連近いので」
皇文連──皇国文化連盟主催の合唱コンクール、その地区選抜は来月だ。
メンバーには選ばれそうにないが。
「はい、いってらっしゃー……」
瞬が言い終わる前に、瞬の指の隙間から"蜒蛇"が飛び出した。
否、身体を針金のように細く伸ばしたのだ。
半身を瞬に握られながら、残りの半身を細く、長く。
「ヒッ──」
喉の隙間から悲鳴が漏れた。
足を半歩下げる、より速く"蜒蛇"が牙を剥いて迫る。
心は咄嗟に、風を集めた。
自分の周りに吹く風を。
"蜒蛇"がまとう旋風をも吸い込んで。
「風見──」
瞬が一瞬、首を振ったのが見えた。
心は構わず、集めた風を"蜒蛇"に叩きつけた。
平手打ちするように、真横から。
"蜒蛇"の鋭く尖った牙は心の鼻先を掠め、振り抜いた手のひらに残るのは風圧の感触だけ。
パキリ、と硬い何かが砕ける音が、風切り音の向こうで、確かに聞こえた。
snakeだと思った?思ったでしょ?
sneakだかんね!
気づいたあなたはTOEIC492点。




