表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

第18話:downwash

 

「そいつは赤井(あかい)じゃねえ。"桃花鳥戻(トキモドシ)"が見せてる偽物だ。一緒にブッ殺すからな」


「それはさすがにちょっと抵抗が……」



 フードコートの一角にちょこんと座る(くれあ)を見つめながら、(こころ)は眉間に皺を寄せた。

 

 一体いつから……

 合唱部辞める、と言った紅は本物だったのか。それとも、"桃花鳥戻"が見せた幻?

 最初から? 途中から?

 もし紅が本当に、私が風見鶏だって知っていたら──



「考え込むな」



 隣に立つ(しゅん)は短く告げると、置いてあった椅子を軽々と振り上げた。



「え、待っ──」



 心が慌てて制止しようとした途端、"桃花鳥戻"は勢いよく羽ばたいた。

 ほんのりと桃色がかった羽根が舞い、あたりを満たしていた煙草の煙が激しくゆらめく。

 瞬が"桃花鳥戻"を追って走り出した。心は一瞬、紅を振り返ってから、すぐさま瞬の後を追う。



「クソ逃げんな!」


「先生待って!」


「卑怯だろこの野郎バタバタ飛びやがって!」


「待っ……せんせ……」



 思えばさっきから走りっぱなしだ。

 エスカレーターを段飛ばしに駆け上がり、2階へ、3階へ。

 息が上がって足がもつれそうになりながら、瞬の背中をひたすら追う。



「……てかお前足遅いな」


「足が短いって、言い、たいんです、かっ」


「空気抵抗なさそうな身体してんのに」


「なッ、殴りますよ先生!?」



 誰が凹凸のない流線形ボディだ。

 思いっきり言い返したくても、酸素を吸うので精一杯。

 自然と顎が上がり、視線が上向く。



「……あっ、いた……!」



 吹き抜けの天井から吊るされたオブジェ。

 3階のここからなら近く感じるその端に、"桃花鳥戻"はとまっていた。

 よく見ればかわいらしい。今までの怪異じみたネムリケとは違う見た目だ。



「先生!!」


「……うるせェ……」



 先を走っていた瞬が、立ち止まって"桃花鳥戻"を睨んでいる。

 いつものやる気のない、ぼんやりとしたジト目ではなく──視線だけで誰かを殺してしまいそうなくらい、険しい表情で。



「うるせェ……二度と、テメェ……ッ、黙れクソ鳥、今すぐ殺してやるからな……!」


「先生……?」



 瞬の視線を追って、心も"桃花鳥戻"に目を向けたが、微動だにしないままそこに佇んでいるだけだ。

 

 鳥は喋らない。

 ネムリケは──喋っている?



 瞬がジッポライターで煙草に火をつけた。

 そのまま、火球のように火を噴き出す煙草を投げつける。

 "桃花鳥戻"は悠々と飛び回り、瞬の投げた炎の塊を避けていく。背後にあったオブジェが、乾いた音と共に炎に包まれた。


 場所を変えるように、瞬が走り出した途端。



「──ッ!!」




 瞬の目の前に、ひとりの少女が現れた。

 ブレザーの制服、白いワイシャツ。膝上のスカートは、心よりも短い。


 さっき、モールの前で何度もトラックに撥ね飛ばされていた、女子高生。



「せーんせ」



 女子高生が甘い声を出す。

 瞬が立ち止まる。



「来週の学校祭、先生と一緒に回ってもいーい?」



「だめ……」



 小さく呟いたのは、心だった。

 その女子高生が誰かは知らない。先生との間に何があったかも知らない。

 でも。


 でも、今は。



「先生ッ、今はその人、もう死んじゃったんですよ!!」



 言いながら、心はまわりの風を集めると、全力で女子高生に叩きつけた。

 まるで、トラックに正面からぶつけられたみたいに、女子高生は鋭く宙を舞う。


 どさり──鈍い音が風に溶けて、女子高生は床に転がった。



「…………っ!!」



 瞬の険しい視線が、心を捉えた。

 思わず目線を逸らす。


 ……もともと、死んじゃってた子だし。

 あれは"桃花鳥戻"が作り出した過去の幻だし、先生を傷つける存在だし。

 私、悪くないし……多分。

 

 瞬の瞳は、そのまま"桃花鳥戻"へ。

 憤怒に染まった顔で、瞬は叫んだ。



「堕とせ、風見(かざみ)!」


「えっ?!」



 訊き返す前に、瞬は吹き抜けの高いアクリルの壁を軽々と飛び越えて、空中へと飛び出した。

 

 呆気に取られたのは、一瞬。

 心はすぐに風を集めた。

 

 早くしないと先生が落ちる。

 もう落ちてる。

 床に叩きつけられる前に。

 早く、速く──



「うわああああああ!!!」



 モール中のすべての風を、全身で操って。

 心は、暴風と化した風の塊を、"桃花鳥戻"の頭上から叩きつけた。


 羽根が舞う。


 強烈な風が吹き下ろされ、ひらりと優雅に羽ばたいていた"桃花鳥戻"の身体が、くの字に折れ曲がった。

 瞬が1階の床に落ちるよりも速いスピードで落下する"桃花鳥戻"に向かって、



「死ね」



 瞬が短く言った、ように聞こえた。


 ジッポライターの火打石が擦れる音。

 空気が膨張し、爆ぜる感覚。

 真下へ押し潰すように差し向けた風が反転して、天井へ向かい──




 "桃花鳥戻"は、燃え上がった。

 

 

まもなく完結!

駆け抜けるぜい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ