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第16話:l∞p

 

 ──心臓が、痛い。



「知ってるよ」



 目の前に座る(くれあ)は無表情のまま、ドリンクを飲み干してから言った。



「小学2年生の時だよね。(こころ)が初めて、風見鶏の能力を使って人を傷つけたのはさ」


「やめて……」



 5回目。



「中1の夏じゃん? 初恋の男子に風使ってさぁ、」


「うるさい黙って!!」



 13回目。


 胸を軽く押さえながら、ふらふらと立ち上がる。

 紅の呼び止める声を無視して、近くの柱まで行って深く息を吐いて。

 もう一度振り返ると、紅のカップにはドリンクが注がれていた。



「心、なんで制服なの?」


「……さっき学校寄ったから」


「ふぅん」



 ……14回目が始まった。

 興味なさげな声まで、完全にさっきと同じ。

 このあと紅は部活を辞めると言い出す。会話をどう脇道にずらしても、遮っても、必ず同じ結論──私が風見鶏で、風を操って生きてきたことを、咎められる。


 この地獄のループを、どうしたらいいのかわからなかった。



「……ちょっと限界」



 心は紅をその場に残して走り出した。

 周りに座っていた客が、すこし驚いた顔で見てくる。フードコート内を走り回っていた親子さえ、ふたりしてこちらを見てきた。


 ──どんなに、走っても。



「風が……生まれない……っ!」



 歩く、座る、持ち上げる、ひねる。

 どんな動作でも必ず風が生まれる。静かな空気とぶつかって渦を巻く。上へ下へと流れができて、また別の風と衝突しあう。

 それが、起きない。


 時間がループするよりも、紅に責められるよりも、風が読めない方が深刻だ。正しい時間の流れも紅の感情も、なにもわからない。


 なにも。



「なんもわかんないぃぃ!!!」

 


 髪を振り回し、半ば半狂乱になりながらモールの外へ飛び出した瞬間。


 目の前で、ひとりの女子高生がトラックに轢かれた。



「──ッ?!」


「クソ、またかよ……!」



 道路の反対側で、煙草を咥えたまましゃがみ込んでいる男性が、苦々しく言った。



「け……ぶ、やま、先生……?」


「あ?」


烟山(けぶやま)先生、どうしてここに?!」


「おぉ、風見(かざみ)じゃん」



 目の前で広がる惨事を気に留めず、(しゅん)が片手を挙げた。



「わかってると思うけど、ネムリケだ。最悪な時間の記憶を巻き戻して遊ぶ、高尚なご趣味をお持ちのクソ鳥」

 


 瞬はいつもよりも目を細めて、煙草で道路を指した。

 市内の、別の高校の女子生徒。白いワイシャツが、チェック柄の制服が、みるみる血で赤黒く染まっていく。

 


「何度やってもアイツが死ぬ」


「えっ、た、助けないと、」


「放っとけ。また勝手に時間が戻って、アイツはまた……てか、本当は死んでるからな、去年」



 ざわざわと人が集まる。悲鳴が響き、ロングコートを着た誰かが駆け寄ってきて視界が覆われて──



「いた、烟山先生ーっ!」



 明るく活発な女の子の声。

 さっきまで血濡れで横たわっていた女子高生は、いつの間にか道路の向こう側に立っていた。



「どうやったって過去は変えられねえ」


「そこにいてね先生っ、私だってネムリケに──」



 駆け出した女子高生が、横から来たトラックに撥ね飛ばされる。

 風もないのに、血飛沫が舞う。



「ほら」


「ほら、って……」


「"桃花鳥戻(トキモドシ)"」



 瞬は吸い殻を投げ捨てると、騒ぎを聞いて駆けつけた人々の隙間から、脚がありえない方向にひん曲がった少女を見下ろした。

 


「……あの子が、先生が死なせちゃったっていう」


「そ」



 短く。

 無表情だった瞬の顔が、少しだけ歪んだ。



「知ってたんですね、あの子も。ネムリケのこととか」


「……だから嫌なんだよ、お前に首突っ込まれんのも」


「……ごめんなさい」



 関わるな、どっか行け──

 自分を遠ざけていた理由は、これだった。

 これがネムリケの仕業で、見たくも聞きたくもない過去のループ再生を、強制的に見せられているだけだとしても。


 嫌すぎるし、辛すぎる。



「アイツを殺さねえと、コイツは何度も死ぬことになる。お前のココもな」



 瞬は胸をとんとんっと叩いた。

 叩き潰され、砕かれそうになっていた心。

 守るには──進むには。



「…………殺しましょう、一緒に」


「だぁからよ、そういうのが嫌なんだって」


「私だって」



 心は一歩大きく前に進むと、瞬の目を覗き込んだ。

 無表情で生気がなくて、灰色にくすんだ瞳。



「私だって、風をどう使えばいいのか、これから風見鶏としてどうやって生きていけばいいのかわからないまま、こんな場所にいたくないんです。だから、先生」



 少しだけ背伸びをすれば、瞬は距離を取るように軽くのけぞった。

 だから、心は背伸びしたままもう一歩、瞬に近づいた。

 


「教えてください。風と生きる方法を」

 

 

「黒歴史」的なタイトルにしたかったんですけど、うまい英文が思いつきませんでしたの巻。

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