改造
「なんなの? 楓はパイルバンカーを装備していないと死ぬ病気にでもかかってるの?」
「なんなの? 陸はスラスターをふかしてないと死ぬ病気にでもかかってるの?」
何でまたアホらしい口論になっているのか。
時は少し前にさかのぼる。
「くたばれえええええええええ!!」
増設されたスラスターが暴力的な加速とGを生みだし、景色を溶かしていくようなスピードで急上昇。さらに足の側面部が展開し、補助スラスターが姿を現す。さらに加速。移動可能なギリギリの所まで上昇する。
そこから急降下、そして片足を突き出し、跳び蹴りの構え。圧倒的な質量と速度でAIが操る敵機を貫く。機体は彗星のように蒼い尾を引き金属の悲鳴がそれを彩る。
敵機を道連れにその速度のまま地面に叩きつけるが――まだ止まらない!
「どこまでグラフィックが用意されてるか確かめてやる!」
そのまま隕石かなにかのように、地面を抉っていく。フィードバックされる衝撃はすさまじく、ブース全体が激しく揺れた。フットペダルを押し込む足が衝撃に震える。
「陸、これ明らかに勝負ついてますよ! ……ってああ! 衝撃で膝掛けがぁ!」
「ここで行き止まりだな」
フットペダルを微調整。方向を変えて、上昇。哀れ敵キャラは穴の底で鉄の固まりになっていた。蹴りって怖い。
「なんなの? 楓はパイルバンカーを持っていないと死ぬ病気にでもかかってるの?」
「なんなの? 陸はスラスターをふかしてないと死ぬ病気にでもかかってるの?」
そして、これはただいまのチーム戦の感想である。お互い機体設計を見直したはずなのに、短所と呼ぶべきところがさらに悪化していたのだからこの対応も納得がいく。
ゲームルーム内に備え付けてあるソファでちょっとくつろぎながらの反省会。激しい運動の後は休憩が必要なので、当然ルーム内には疑似パイロット席以外にも、座れる場所を用意してある。ドリンクバーが廊下の方に完備してあるし、ゲームルームの居心地はかなり良い。
まあ、そういったわけで、こういう施設の宿命でアブノーマルな使われ方もされているようだった。
「改善されるかと思いきや改悪が進むなんてね……」
遥香も怪訝顔でこちらを見ている。
「良いじゃないか、スラスターを増やしたって」
「あはは……まあ、前より強くなったのは確かだよ、うん」
ある程度〈フリューゲル〉は改修を施していた。今まで一つのスラスターに頼りきりで姿勢制御が大変だったのを考え、補助のスラスターと小型のバーニアをいくつかつけたのだ。これを逆噴射するなりして活用すれば、ある程度戦いやすくなることだろう。
そのほかにも大型のスラスターを増設したからさらに高速化するのであまり解決にはならないのだが。
羽根的な形状のスラスターはさらに大型化していた。もういっそ突き抜けてしまおうというのがその理由。ただし、メインのスラスターほどの出力だとさすがに制御不能になるので、それとは別に出力調節が容易なものをもう一つ付けている感じだ。直線的なメインスラスターと違い、放射状のサブスラスターは姿勢制御にも便利。その分コントロールが難しくなったが……。
「〈アフトクラトル〉の謎の防御力を突破するのには、もうこれしかないと思ってさ。これでも致命打にならなかったとしても、敵との距離は稼げるだろ?」
「そうですね。あれで敵を掴んでフィールドの端ギリギリまでランデブーした後に、自分だけ帰ってくるというのもありですよね」
嫌なランデブーもあったものだ。けれど、そうすれば楓の援護に回ることができる。チーム戦で2対1の形を作れることは、もの凄く大きい。
「因果な改造をしたけど、明らかに初期型の〈フリューゲル〉よりも扱いやすくなっているんだよな」
「機体重量とエネルギーの消費量は少し悪くなったけど、実際の所は姿勢制御しやすくなってるからね。普段はサブスラスター使ってないんでしょ?」
「ああ。殆どお飾り。敵に突っ込むときだけフル稼働にして勢いを稼いでる」
「普段の速度は少し落ちたってことね?」
遥香の言うとおりだ。機体重量がかなり増したので、実際の所は少々速度が落ちている。最大速度はかなり向上、平均速度は微減、といったところだ。
駅近くのカフェチェーン店でまったりしながら、端末を使って機体情報を参照する。以前にも増して下手物になってしまった〈フリューゲル〉を見ながら、バニラフラペチーノだかなんだか言うのを食べる(飲む?)。
因みに、本日のゲームルームはカップルデー割引と溜まったポイントのおかげか安価に済ませられた。
そんな経緯のせいか、周りのカップルが少しだけ気にかかった。
「あれ、陸、実体剣も増やしたの?」
「そうそう。よく気づいたな」
ビームサーベルと実体剣。現在の〈フリューゲル〉はその両方を装備していた。外装を外すとバリアに弱くなっちゃうからな。こっちのほうがバランスは良い。
そんなことを話している時、偶然にも近くを葵さんが通りかかった。……休みの日らしく、彼女もアンドロイドを連れていた。
「……? あのアンドロイド、前回会ったかたと違いますね」
つばさがぽつりとそう言った。挑戦状云々の際に出会ったアンドロイドはもっと機械然とした機械だった。
レンタルのアンドロイドだったと思ってたんだけど……。
「あ、第7世代型。最新式ね、珍しい……って、前の子も第7世代だったけどね」
「凄く表情豊かですね……」
発売してそれほど時間が経っていない第七世代型であれだけの個性を持っているということは、メモリーチップ自体は古いものを使っているのだろう。メモリーチップも新しいのならば、レンタルを使う理由がない。
ジロジロとみていたせいか葵さんがこちらに気がついた。
「お久しぶりね、二人とも」
葵さんが柔らかに笑いながら、こちらにやってきた。周りの俺に対する視線が一段と厳しさを増した。『喫茶店でハーレム築いてんじゃねえよ帰れ』的な視線だろう。機械と彼氏持ちと腐れ縁だというのに。
「こんにちはー! 初めまして、〈ゆり〉です。よろしく!」
「げ、元気な子ですね」
落ち着いた葵さんと違って、ゆりさんとやらはニコニコ笑顔ですっごい元気。エネルギッシュ。不躾だが、無駄なエネルギー食ってるんじゃないかなと思ってしまうほどだ。
白っぽい短髪と、緩みきった目と頬。なんだか、優しい顔立ちだ。
「あなたがつばささん? 本当だ、持ち主と仲良しなんだね。第2世代型でまだ稼働してるなんて、そうじゃないと考えられないよ」
「……っ!?」
いきなりざっくり、つばさが気にしていることとつばさが誇りに思っていることを刺激していた。苛烈な挨拶だ。
「知ってるかもだけど、持ち主の陸だ。よろしく」
「聞いてるよ。もちろん、楓さんのことも」
楓が少し恥ずかしそうに身じろぎする。
そしてゆりさんは、また、にっこりと笑う。心が解けていく気がする。日頃のストレスが、何もかもが溶けていく……そして手の中のバニラなんちゃらも溶けていく。
「付き合い、長いのか?」
「ええ。この素体は、二代目なの。〈DA7 ピア〉評価はいまいちだけど、とっても良い素体。なんだかスッゴくイメージチェンジしたみたいで、少し新鮮ね」
「あはは。昔の素体は、表情堅かったからねー」
「…………そうですよねー」
つばさが棒読み気味に言った。表情とかは素体の影響受けやすいからな、仕方ないよ。旧型だもの。
それでも、つばさはかなり柔和な方だと思うよ。
「あのレンタルの子はどうしたんだ?」
「あの子は、輝君が借りているものだから」
「二人も連れてるのか? 珍しいな……」
アンドロイドは一般的に、一人で一家族分の家事を消化できるようにしてある。それは第一世代から最新型まで変わらない。安定性には天と地ほどのさがあるけれど。
「ARROWのためか」
「ごめんなさい」
少しだけ寂しそうだった。昨日、楓との因縁を聞いたせいか輝には嫌な印象しかなかったけれど、葵さんにとってはどうなんだろうな。
「いや、そういう関わり方だって良いんじゃないか。何はともあれ、人の役に立ってるんだからアンドロイド的にも満足だろう」
「……そう、だと良いんだけど」
葵さんは何か抱え込んでいるような様子だった。
昨日の楓に、どこか似ている。
けれど、それに踏み込んでいけるほど、俺と彼女は親しくなかった。
「ねえ、葵ちゃん。一緒にお買い物でもしよっか」
ゆりさんがそう言って笑った。
「――そうね。一緒に行こう」
葵さんもつられて笑う。全然似てないその笑顔なのに、姉妹か何かに見えるのだから不思議だ。
葵さんの抱えたものって一体何なんだろう。〈アカンティオン〉に隠れた真意を知る日は、来るのだろか。
ともかく、一つ言えることは――アンドロイドに好かれる奴に悪い人はいないってことだ。
――もうすぐ、大会が始まる。




