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夜は無慈悲なぼくの女王~再会したぼくの恩人は、クラスの深窓の令嬢で、死んでいて、吸血鬼だった~  作者: 雪車町地蔵
第一章 吸血鬼は二度死ぬ

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第九話 吸血鬼は二度死んで、前へと進む

 それから数日経(た)って、状況は色々と変化した。

 美叶木(みかなぎ)夜目(よるめ)の死亡届は、公式になかったことにされた。

 いや、そもそも提出されていなかったことになった、というべきだろうか?


 美叶木母は、娘の死を受け容れられなかった。

 役所に死亡届を出してしまえば、娘の不在が確定してしまうようで、だから思いとどまっていた。

 そういう風に、〝おまじない〟の力が作用した。


 ドッペルゲンガーという影が美叶木さんへ戻ったことで、それまで歪(いびつ)になっていた、阻害されていた、よく解らない状態になっていたものの辻褄(つじつま)と帳尻(ちょうじり)が合わされたのだ。


 なぜなら〝おまじない〟は、願いを叶えて怪異を成り立たせるもの。

 そう、美叶木母の、社会的には歪な、けれど親心としてはわからなくもない躊躇(ためら)いが、今回の一件を、最後の最後で前向きに転じさせてくれたのだ、おそらく。


 ……しかし、家庭環境は元には戻らなかった。

 〝おまじない〟に、そこは含まれていないのだから。


 或いは、こうも考えられる。

 ぼくはドッペルゲンガーの正体を、学生生活以外の人生全てだと考えた。

 けれど、それは間違いだったのかもしれない。


 あれは、もっと単純な祈り。

 美叶木母の、娘に学園生活を最後まで送って欲しいという願いと、おまじないの力、なにより美叶木さん本人の、いまのまま留まりたいという思いが複雑に絡み合ったものだったのではないだろうか?


 だからこそ、怪異は消えたのではなく、美叶木さんの影へと戻ったのだ。

 家族から死んだ娘として扱われること。

 吸血鬼になったことよりよほど辛く、文字通り彼女の心へ影を射していた事柄。

 それが、解決しなくとも。

 どれほどままならない現実だとしても。

 美叶木さん本人が、全て抱えて生きていくと決めたのだから。


 その強固な意志が、死してなお忘れ去られることを拒(こば)み、ぼくが間に合ったというのなら、本当に大した人物だと、美叶木さんのことを思う。


 さて、そんな美叶木さんは、一人暮らしをはじめたらしい。

 美叶木父が金銭的な支援をしたとも聞いたので、心中は複雑かも知れないが。


 などなど、よしなしごとを考えながら帰宅だったぼくは、


「てい!」


 待ち伏せをしていた美叶木さんに見つかり、紙切れを投げつけられた。


「おまえ、ここに来なさい」


 見遣ると、喫茶店のチラシ。


「生活費の足しにするため、バイトをはじめたの。ほら、今の私って、身体だけは丈夫でしょ?」

「なるほど?」

「だから、客としてこい」

「十割間違った客引きだね!?」


 驚いていると、彼女はまたそっぽを向き。

 やや頬を赤くしながら答えた。


「おまえに恩義なんて感じてないし、恩返しなんてまっぴらごめんだけど……客としてなら、サービスしてあげられる。だから、来なさい」

「…………」

「なんとか言いなさいよ、おまえ、私の眷属でしょ!?」


 なるほど、そういえばそうだった。

 ぼくは色々と考えて、結局気の利いた言い回しは思いつかず、単刀直入に、こう答えるのだった。


「楽しみにしているよ」

「ええ、お待ちしているわ、お客様」


 ぼくは。

 嬉しそうに笑う彼女を。

 十数年ぶりに、やっともう一度見られた。

 そんな気がした。





第一章はここまでです。

もし引き続きお読みいただけるようでしたら、ブクマなどしていただけると大変有り難く思います。

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