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夜は無慈悲なぼくの女王~再会したぼくの恩人は、クラスの深窓の令嬢で、死んでいて、吸血鬼だった~  作者: 雪車町地蔵
第一章 吸血鬼は二度死ぬ

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第六話 ここにいる

「ば、馬鹿にするな鶴屋(つるや)恩義(おんぎ)! わた、私だって……!」


 ぐいっとぼくの胸ぐらを掴み。

 思いが先走って声にならない様子で、美叶木(みかなぎ)さんは怒りをぶつけてくる。


「生きてるって、証明しようとした! 私のおつむがちょっとだけおかしいのはみとめるけど、そんなことにも思い至らないアホとして、おまえの目には映っていたのっ?」

「違うよ。違う上で、何を試したの?」

「動画で私の存在を訴えようとしたわよ!」


 けれど、その姿はカメラに写らなかった。

 吸血鬼は、鏡に映らないから。


「あと、役所に直談判(じかだんぱん)しようともした。でも、そのたび〝アレ〟が襲ってきて」

「アレ」

「黒い影。私の姿をした、なにか。それがずっと追いかけてくるのよ、たぶん、学生としての生活を逸脱(いつだつ)しようとすると、やってくる。私はアレに勝てない、力でさえ、不死性でさえ。下手を打てば、今度こそ……殺されちゃう」


 殺す。

 怪異を殺せるほどの力。

 それは。


「たぶん、それが〝おまじない〟で呼ばれたものだ」

「なんですって?」


 戸惑った拍子に、ぼくの首を締め上げる力が緩んだ。

 二三度咳き込んでから、息を整え。

 ぼくは、頭の中を整理する。


「きみのお母さんは、絶(た)えずきみを甦らせようとした。その方法は、来い来いメール。自分のところにやってきてくれるように頼むもの」


 一方で、本人である美叶木夜目(よるめ)はどうしていたかといえば、家に寄りつけなくなっていた。


「吸血鬼の有名な逸話に、招かれないと家には入れないというものがあるよね。本来なら来い来いメールの力できみは招かれるはずだった。けれど、先客がいたなら? きみより先に、招かれてしまったものがいたら」

「それが、影?」


 おそらくはそうだろう。

 あるいは影は、美叶木夜目の人生が投影されたものなのかもしれないし、だから彼女の代わりに家の中にいるのかもしれない。


「学生の本分をきみが忘れると引き戻そうとする……そういう類いのもの、という可能性もある。逆に言うと、きみがいない場所を常にうろついて探しているとか」

「……迷惑。心の底から迷惑だわ」

「同意するよ。ただ、それだけ強く、きみの復活が望まれていることは確かだ」


 彼女がすでに試しているとおり、動画配信サイトで訴えかけて、行政を動かすという手段は使えない。

 家に入って、美叶木母に〝おまじない〟をやめるよう説得することも難しいだろう。

 死を取り消す手段なんて、まったく皆無のようにすら思える。

 けれど。


「……声」

「なによ」

「声は、届くのかい?」

「……言ったはずでしょ? ここで叫んでもお母さんには」

「いや、電話をかけたことは、あるのかい?」


 彼女が面食らう。

 そんな発想ははなからなかったという様子だ。


「だって、私の携帯はお母さんが持っていて」

「それだ」


 頭の中で、線が走る。

 点と点を結んだ線は、やがて一つの形を取った。


「きみは死んでいるのに、携帯端末は解約されていない。名義人は?」

「私だけど……それって、お母さんの手続きが杜撰(ずさん)なだけじゃ」

「学校にだって通えていた。きみは家に帰れないだけで、学生としての生活しか送れないだけで、死者では受けられないサービスと遭遇(そうぐう)してはいない」

「待って、それは、まさか」

「そう、きみのお母さんは」


 美叶木母は。


「まだ、死亡届を提出していない可能性がある。あるいは、その可能性をたぐり寄せる方法がある」


 あとは言わずもがなだ。


「きみが、きみこそが、おまじないの力を利用するんだ」


 ぼくの、おそらく状況を打破しうる策に対して。

 美叶木さんは。


「……嫌よ」


 悩んだ末に、そう答えた。


「いまさら、お母さんを頼りたくなんてない。私は家族が嫌いで、私の家は、もうなくなってしまったの」

「違うよ、美叶木さん。きみは、思い違いをしている」

「まだ私をこき下ろす気?」


 状況をジョークにしてしまいたいらしく、呆れたように笑う彼女へ、ぼくは真剣に訴えかける。


「きみに必要なのは、決別だ」


 ぼくは懐から携帯端末を取りだして。

 彼女の手に、握らせた。


「お母さんへ、伝えるべきだ。言いたいことを、全部ね」

「……そんなの、いまさらじゃない」

「そうだね」

「都合よく、家庭が戻ってくるわけないじゃない」

「うん」

「私は今がいい。いまのままがいい」

「聞いたよ」

「でも」


 携帯のダイヤルナンバーをプッシュして。

 3コール。

 疎通状態になった瞬間。

 彼女は、叫んだ。


「私――」


 ――ずっと、心の内側で凝(こ)り固まっていただろう想いを。


「私、ここに居る! ここに、居るからっ!!」


 電話口から返答があるよりも早く、変化が起きた。

 美叶木さんは感極まっていて、対応できなかった。

 だから、動けたのはぼくだけで。


「……え?」


 美叶木夜目が、唖然(あぜん)と目を見開く。

 彼女の眼前で崩れ落ちるぼく。


 咄嗟(とっさ)に飛び出したぼくの腹を、黒い拳が、貫いていた。


 影法師(かげぼうし)。

 美叶木夜目のニセモノ。

 〝おまじない〟が呼び寄せたイツワリが……いま、牙を剥く!


 自らこそが、美叶木夜目だといわんばかりに。


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