↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜は無慈悲なぼくの女王~再会したぼくの恩人は、クラスの深窓の令嬢で、死んでいて、吸血鬼だった~  作者: 雪車町地蔵
第四章 サメと約束と夜遊びと

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/28

第三話 反省しなさい恩義ちゃん

 鶴屋(つるや)恩義(おんぎ)が幼い日、心の底から救われた約束がある。

 忘れずに覚えていてくれるという言葉。

 代わりに、彼女が消えたらぼくが探すという誓い。

 それが、美叶木(みかなぎ)夜目(よるめ)に執着した、最初の理由。


 ぼくはただ、彼女に恩義を返したかった。

 それだけで、彼女の問題へ首を突っ込み、それこそ〝度し難い〟真似をやってしまったのだ。


 これをありのまま語ることは、決して難しくない。

 いくらいまの美叶木さんと、過去の美叶木さんの間に断絶があるとしても、問われて答える分には、その尊厳(そんげん)を害するには当たらないだろう。


 だから、むしろおかしいのは、ぼくの連続性、一貫性のなさなのだ。

 恩について言えば、すでに返している。

 約束にしたって、最早果たしている。

 いまもなお、美叶木夜目と関わり続けていることは、奇妙だ。


 異常とまでは言わないが。

 奇妙ではある。

 合理性がない。


 けれど、そんな疑問を思い浮かべたとき、いくつもの美叶木さんが脳裏を過るのだ。

 怒っている彼女。

 不機嫌そうな彼女。

 ふてくされている彼女。

 すまし顔の彼女。

 そして、嬉しそうに笑う、美叶木夜目。


 ぼくは、彼女のことをもっと知りたいと思った。

 もっとそばで見ていたいと。

 だから友達になろうとしたのだろうか?


 ……唯一解であるようには思えない。

 そんな単純に割り切れる感情を、ぼくが断定できないなんてことがあるだろうか。


 何もかもが、曖昧模糊(あいまいもこ)としていて。

 胸中は、ずっと嵐のようで。


 だから、美叶木さんの質問。

 彼女を何故神聖視しているのかという問い掛けに、ぼくは上手く答えることが出来なかった。


 そもそも、神聖視したつもりなどないのだから。


 だから答えを提示できないまま、曖昧に濁して、ちょっとばかり気まずい雰囲気で打ち上げを終え。

 帰途につき。

 夕食を食べて。

 ほんの少し眠る。


 ぐしゃぐしゃな頭を整理したかったから。


 吸血鬼に睡眠はほとんど必要ない。

 日中より夜間の方が、幾分頭の廻(めぐ)りがいいぐらいのデメリットだ。

 再生能力や怪力も夜の方が強い。


 ……控えめに言って、あまり人間的ではない。

 家入(いえいり)さんはよく、受け容れてくれているものだと思う。

 或いはそれが、親友関係というものなのだろうか?

 だとしたら、ぼくと美叶木さんは――


 あったぼこしゅもない考えがぐるぐると頭の中で回る。

 寝付けないまま、時間だけが過ぎていた、そんなときだ。


 コツ、コツと。

 音が聞こえた。

 窓に、何か小さくて硬いものがぶつかる音。

 コツ、コツ。

 同じ音がする。


 気になって、起き上がる。

 窓を開けて、原因を探そうとして。

 ぼくは。


「美叶木、さん?」


 敷地の外から、ぼくを見つめている少女と、目が合った。


「ああ」


 困った。

 ぼくは。

 彼女が訪ねてきてくれたことが、嬉しいらしい。



§§



 さすがにぼくの部屋で話をしようとすると、正攻法なら家族会議、搦(から)め手(て)を取ると妹に嗅ぎつけられて詰む可能性があるので、そのまま美叶木さんのアパートへ移動することになった。

 道すがら、彼女は一言も口をきかず、ぼくも喋らないままだった。

 けれど、決してその時間は不快ではなく。

 ただ夜道を歩くのが、楽しくて。


 アパートへ付き、いつものちゃぶ台を囲んで座る。

 目の前には、紅茶が置かれていた。

 カップに口を付けようとしたところで、美叶木さんが切り出してくる。


「で?」


 ……何万言もの感情が含まれた「で?」だった。

 これで済ませてくれているだけ、彼女は優しいのかも知れない。


 ……そんなことはないな。普通に美叶木夜目は苛烈だ。

 だって、射貫くように今も見詰められている。

 逃げることをよしとしない眼差し。

 己の人生を、己で定めてきた強いひとの双眸(そうぼう)。


 ぼくは、紅茶を飲むのを諦めて。

 素直に頭を垂れた。


「ごめん」

「なにがかしら」

「……はぐらかしたこと?」

「この期に及んで疑問形」

「ホントごめんってば」

「だったら」


 そう、だったら。


「話してくれるわね? おまえの恩義と約束を」

「……怒らない?」

「さあ、どうかしら?」


 彼女は。

 勝ち気に微笑んだ。


「それは聞き終えて、私が決めることよ」


§§



「反省しなさい、恩義ちゃん」


 洗いざらい全部話したところで、そんな言葉が飛んできた。

 美叶木さんは怒っていなかった。

 ただ、至って真面目な様子で、


「それ、引っ張るような話じゃないでしょ」


 と、冷静に詰められる。


「そ、そんな」


 ぼく的には人生を変えた瞬間オールタイムベストなのに!


「おまえの人生がどう変わったかなんて興味はないのよ」

「ぐ」

「あと、結局聞いても私は思い出せなかったし、人違いってことは?」

「ない、はず、です……」


 きみの右手の人差し指の傷がその証拠かと。


「……まあ、この傷にまつわる私の残ってる記憶は、両親からめちゃくちゃ怒られて将来結婚するときどうするの!? みたいなヒステリーをぶつけられたことなんだけど」

「まったくもう申し訳ない限りで」

「けど、いいわ。解った」


 彼女はこくこくとひとり頷くと。

 こう、切り出したのである。


「おまえ、私の夜遊びに付き合いなさい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。