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夜は無慈悲なぼくの女王~再会したぼくの恩人は、クラスの深窓の令嬢で、死んでいて、吸血鬼だった~  作者: 雪車町地蔵
第三章 想い出イレイザー

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第一話 美叶木夜目の変質

 夜、何気ない夜更(よふ)かし。

 けれどぼくにとっては、すっかり習慣になった夜更かし。

 美叶木(みかなぎ)さんとマジックアワーを一緒に見るため、ぼくは彼女のアパートへ向かう。

 足取りも軽く。

 夜の街をひとり。


 アパートへ辿り着き、吸血鬼特有の身体能力で屋根の上へと登って。

 ぼくは、はて? と首をかしげることになった。


 いつもなら先に来ているはずの美叶木さんが、いなかったからだ。

 文字通り、影も形もない。

 すでに影を取り戻しているし、この場に鏡なんてものはないにもかかわらず。


 とにかく、しばし待つことにした。

 けれど、いつまで経っても彼女は現れない。

 下の部屋をノックしてみるけれど、応答はない。

 再び屋根の上へと戻り、空の色合いが変わっていくのを独り見詰めながら、ぼくは仕方がなく帰途へ着いた。


 朝食を済ませ、学校へ向かう中、考える。

 美叶木夜目(よるめ)は約束を反故(ほご)にするタイプではない。

 覚えていないということはあるだろうけど、今回は違う。

 では、急用で出かけていたのだろうか?

 携帯端末を未だに所持していない彼女だ、連絡が取れなかっただけ、というのは十分にありえる。


 色々と考えていたら、教室へ着いてしまった。

 入り口を潜(くぐ)る。

 最前列に、美叶木夜目がいた。


 ああ、よかったと。

 そう感じた。

 なにか、大変なことが起きたわけではない。

 少なくとも、彼女に危機が及んでいたわけではないのだ。

 もしそうだったなら、どんなに悔(く)やんだだろう。


 とはいえ、一言欲しかったので、珍しくこちらから挨拶をすることにした。


「おはよう、美叶木さん」

「……恩義(おんぎ)ちゃん、ここ学校」


 深窓の令嬢という処世術(しょせいじゅつ)をかぶっている彼女からすれば、確かにぼくが話しかけてくるのは困るところだろう。

 もっとも、最近の美叶木さんは、随分とアグレッシブにぼくを引っ張り回していたので、そこまでデメリットもないはずだ。


 なので端的に用事を済ませよう。


「マジックアワーは、何か用事があったのかい?」

「マジックアワー……? なにそれ?」

「なにって、夜明けの」

「よくわかんないけど、おまえ、いい加減に喫茶店来なさいよ。お客としてなら歓迎してあげるっていったでしょ?」

「――――」


 言葉を失う。

 なにか、何かがおかしい。

 噛み合わない。

 言語化できない違和感。

 解らないまま立ち尽くしていると、美叶木さんの友達たちが登校してきたので、ぼくは自分の席へと向かうしかなかった。


 ……このときには、まだ想像さえしていなかった。

 それが、美叶木夜目と鶴屋(つるや)恩義の〝これまで〟をなくしかねない事件になるなんて。

 解るはずも、なかったのだから。



§§



「キラキラが積み上げられるのよ」

「は?」


 放課後、美叶木さんがバイトしている喫茶店を訪ねると、そんな相談をされた。


「また鴉(からす)の仕業(しわざ)かい?」

「鴉? なんの話?」

「このまえ、一緒に謎を解き明かしたじゃないか。それは〝おまじない〟じゃなくて」

「そう! おまじないの可能性があると思って」

「――――」


 奇妙だ。

 確かに違和感がある。

 けれど、ぼくはそれを言葉に出来ない。


 そこからは、上手く彼女と会話が出来ず、せっかく頼んだ紅茶の味もわからないまま、話を切り上げて帰宅するしかなかった。


 家族と夕食をとり。

 勉強と、〝おまじない〟や怪異についての研究を行い。

 夜明け頃、アパートへ向かったけれど、また美叶木さんの姿はなかった。

 部屋に押しかけようかとも思ったけれど、どうにも気力が湧かず、帰宅する。


 結局一睡もしないまま、また登校。

 ルーチンワークの乱れから来る釈然としないものを抱えたまま教室へ行くと、やはり美叶木さんは先に来ていて。


 一言。

 本当に、ちょっとこの内心の不安を掻き消すために話がしたくて、ぼくは彼女に話しかけた。

 だが、それは間違いだったのかも知れない。


「……おまえ、鶴屋恩義だっけ。なにか用?」


 それは、あまりに他人行儀な呼びかけ。

 これまでの彼女とはあまりに違う。

 いや……これまで以前、ぼくらがまっとうに会話をするよりもっと前の段階の彼女のようで。


「用がないならかかわらないで。無事に卒業したいなら、そうしなさい」


 ……言語化できないと、以前は考えた。

 けれど違う。

 ぼくは、言葉にするのを怖れていた。


 彼女は。

 美叶木夜目は。


 ぼくとの思い出を、忘却していた。


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