第六話 黄金のような日々
「ちょっと見なさいよ、恩義ちゃん!」
キラキラがどうやって運ばれてくるのか。
誰が持ち込んでいるのか?
近づけば床が軋むアパートで一体どうやって接近を成立させているのか?
この謎は、酷く呆気なく、とても単純に解けてしまった。
美叶木さんの許可を得て、ためしに監視カメラを設置してみたのだ。
といっても、極めて安価なものである。
正直期待薄だったのだが……犯人は映し出されていた。
昼休み、我慢できなかったらしい美叶木さんがぼくを呼びつけて、カメラのデータを確認したところ、何もかもが判明した。
「か――鴉!?」
素っ頓狂な声を出す美叶木さん。
ぼくもだいたい同じような気持ちだった。
なぜなら映像には、一羽の鴉が登校時間の些か前、アパートの窓辺に降り立ち、真珠のイヤリングを置いていくところだったのだから。
「盲点だった……そりゃあ、鳥類なら、床の音を立てずに移動できる」
「恩義ちゃんが帰って、私が仮眠してるときに持ってこられたら見つからない訳よね……絶妙なタイミングだわ」
「でも、なぜキラキラを?」
確かに、鴉は光り物が好きで、集める習性があると聞いたことはあるけれども。
「あー、それなんだけど……」
バツが悪そうに、美叶木さんが頬を掻く。
「私って、吸血鬼でしょ」
「そうだね、ぼくはその眷属だ」
「そう、眷属。まえに言ったと思うのだけど、使い魔を作ろうとした時期があって」
「鴉を助けたとかなんとか……あ」
さすがのぼくでも理解が及んだ。
つまり、この鴉は。
「覚えてたのね、私のこと……」
これまで幾度となくキラキラを運んできた、そんな鴉の映像を眺めながら、美叶木さんは感慨深そうに呟く。
「なるほど。こういうことも、あるのか」
もしかすれば、これは美叶木夜目の死が撤回されたことと関係があったのかも知れない。
鴉はぼくと同じように、恩返しの機会を窺っていたのかも知れない。
あるいは、鶴屋恩義が美叶木夜目を、約束に従って見つけ出したからこそ、なにかが変化したのかも知れない。
……確証はないけれど、三つ目だったら、少し嬉しい。
とはいえだ、深く考えるべきことではないだろう。
なにせ、この一件は〝おまじない〟ではなかったのだから。
こうして、美叶木邸キラキラ連続持ち込まれ事件は、ただただ呆気ない事実とともに、解決を見た。
事件が解決して、ぼくにはもう彼女の家を訪ねる理由はない。
恩義を返すためならばともかく、すくなくともいま、美叶木夜目は別段の問題を抱えているわけではないからだ。
にもかかわらず、ぼくは彼女と、相変わらずマジックアワーを一緒に眺めていた。
何かを語り合うわけではない。
夜更かしの背徳感に酔うのでもない。
ただ並び合って。
ビー玉を翳して、その一瞬を記録するようにお互いに視線を交わす。
そういう日々が続いていた。
約束だから?
解らない。それだけではないような気がしている。
喫茶店にもときどき顔を出して、ウェイトレスに専念している彼女を横目にしながら紅茶を飲むというのが、最近の贅沢だ。
コーヒーは……まだブラックでは飲めない。
彼女だって、同じく。
「いつかお客様とコーヒーをご一緒できればと思います、なんてね」
そう、嘯いたりもした。
日々は何も変わらず続く。
今日も今日とて、ぼくは登校する。
……いや、変化はしていたのだろう。
ときおり、学校で美叶木さんと言葉を交わすこともあった。
以前は皆無だったのに、一緒に休み時間抜け出したりもした。
不思議な感覚が、ぼくの中に満ちているのが解る。
思えば鶴屋恩義は、さほど――言い方としては大変語弊があるけれど、それでもさほど――美叶木夜目という人物が好きではなかった。
嫌いではなかったし、隔意があったわけでもない。
ただ興味がなかった。
そこにあったのは、恩義を返し、約束を果たさなければという使命感だけ。
けれど、今は、違う。
やはり嫌いではないが――興味を持っている
それ以上に、一緒にいることを心地よいとすら感じているのだ。
「美叶木さんがどう思っているのかは、解らないけれど……」
というか、ぼくが人の気持ちを類推できた試しなどないのだが。
それでも同じ気持ちでいてくれると嬉しいと、正直にそう感じる。
だからだろう。
彼女と時間を共有する日々は。
ふたりぼっちでいる時間は。
ぼくにとって価値があった、朝焼けに染まるビー玉の色。
黄金の価値。
何物にも代えがたい、それこそ恩義そのものとつり合いが取れてしまうほどに、もしかしたら傾いてしまうほどに重大な価値を。
鶴屋恩義は。
「マジックアワー……? なにそれ?」
これから、失うことになる。




