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先輩の溺愛は強引すぎる!  作者: シン


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8/12

俺以外に向ける笑顔が、憎らしすぎる(彼目線)

 部室の中で、俺とゆうちゃんは二人っきり。

 俺はカノジョを膝の上に乗せ、後ろからカノジョを強く抱き寄せる。


「思った通り、ゆうちゃんのサイズはちょうどいいね。なんか、すっぽり包んでしまえる感じ。癒される~、抱きまくらにしたい~」

「……ソウデスカ」


 俺はゆうちゃんの肩に頭を置き、すりすりと頭を擦りつける。

(ゆうちゃんの体、柔らかくて暖かい。癒されるー。それに、いい匂いする。ずっとこのままでいたい)


「先輩、カノジョいるのに、そんなことしていいんですか?」

「ん? なーに? やきもち?」

「純粋な疑問です」


(やいてくれたら嬉しいんだけどなー)


「まあ……俺も相手も、半分遊び感覚で付き合っているだけだし、別に気にしなくてもいいよ」

「そういうものですか……?」


 ゆうちゃんの温もりを堪能しながら、俺は思いを馳せる。

(ゆうちゃん、いまいち俺に懐いてくれていないんだよなー。触れるのはいつも俺からだし)

 それでも、こうして抱き着いてもそんなに抵抗してこないのは、少なからず心を許してくれているのかと考える。

 そう思えば、多少ツンツンしていても、かわいく思える。


 愛しさに駆られ、ゆうちゃんの頭上に音を立てて口付けを落とす。


「っ! せ、先輩、何をして――?」

「ちゅっ……ん? キスしているよ~。ゆうちゃん、かわいいから、つい」

「なっ……なっ……」


(あっ、口をパクパクさせている……かわいい)


「つい、じゃないです! こんなこと――」

「ああ、ゆうちゃん、耳まで赤くなっているね。かわいい……んっ」

「ひゃっ!?」


 耳に口付けを落とすと、大袈裟なくらい体が跳ね上がった。

 その反応と声がかわいくて、いじらしくて、もっといじめたくなる。


「かわいい反応。ゆうちゃんは耳が弱いんだね」

「やめっ……ちがっ……」


 口付けが続くにつれ、俺にもわかるほど、ゆうちゃんの体が火照っていく。

(もう、こんなにかわいい反応して……俺をどうしたいの? 放してあげられなくても知らないよ)


 一通りゆうちゃんの反応を堪能して、空が暗くなってきた頃、流石にこれ以上引き止めるのが忍びなくて、名残惜しいものの手を放す。

(学校がある日は毎日くっついているのに、全然足りる気がしない……もっとゆうちゃんとくっついていたいなー、一日中くらい――)


 そこまで考えて、閃いたかのようにゆうちゃんに振り返る。


「そうだ、ゆうちゃん。週末時間ある? 遊びに行かない?」

「……先輩は受験勉強とか、しなくていいんですか?」

「へーき。俺、こう見えて、勉強はできる方だから」

「はあ……」


 彼女はスマホを取り出した。予定を確認しているようだ。


「……家族と出かける予定です」

「そっか。じゃ、また誘うよ」


(予定があれば仕方ない。また誘えばいい)

 残念と思いながら、俺はすぐ部室を後にした。

 後ろで胸を撫で下ろすゆうちゃんに、気づくことなく。


 * * *


 部活のある日は放課後でもすぐにゆうちゃんに会えないから、よく教室で時間を潰している。

 今日はなぜか彩陽とその友人も教室に残っていた。


「ねえ、颯真。勉強教えてよ」

「えー」


 カノジョたちは勝手に机を並べ、俺の周りに座り込んだ。

 机の上には教科書とノートが並べられていた。


「いいでしょう? 暇そうにしているし。一応彼氏なんだから」

「……少しだけだよ」


 どうせ部活が終わるまで何時間も待つことになるなら、せめて何かをしながら暇を潰したい。

 それが勉強であっても別にいい。


(教えるのはめんどくさいけど)

 授業の内容なんて、聞いていればわかるから、どう勉強すればいいのって聞かれても答えられない。


(あっ、でもここで勉強を教えられるようになれば、ゆうちゃんの勉強も見てあげられるかな)

 正直頼られるヴィジョンは見えないけど、こう考えれば少しやる気が出る気がする。


「ていうか颯真、最近よく教室でぼんやりしているよね? 暇なの?」

「別にいいでしょう?」

「あー、なにその態度? カノジョに対してこんな態度取っていいの?」

「どうせ偽だろう。ていうか、いつまで付き合っているふりをするの? もう元カレを見返しただろう?」

「それがねー、最近、復縁しようってしつこくて」

「復縁すればいいじゃん」

「いやだよ! 浮気っていうのはね、一回あれば必ず二回目があるの。だから一回でも許しちゃダメなの」

「ふーん」


 ぼんやりと聞きながら、頭の中ではゆうちゃんのことを思い浮かべる。

(ゆうちゃんも、カレシとか欲しいのかな)

 あの子の美弥ちゃんと春翔を見る目からして、まったく興味ないっていうわけじゃないらしい。


(ゆうちゃんがカノジョになったら、どんな感じなのかな?)


 いつもはツンツンしているけど、心を許した相手にはデレデレするかな。

(自分から甘えにいったり、逆に甘やかすほうだったり?)


 想像してみただけで、口角が上がりそうになる。

(いいな、それ。楽しそう)


 でもすぐ、心が沈んでしまう。

(半年以上付き合える自分が想像できないな)

 俺自身、長い間付き合えた経験がない。

 俺だけじゃない。親だって、友達だって、何年も付き合えるやつは珍しい。

 それほど、人の心って、すぐ移ろいていくものだ。


(それに、俺が別れたくなくても、もしゆうちゃんに拒絶されたら――)

 そう考えるだけで、心臓が締め付けられる。


「だからね、颯真とは、元カレが諦めてくれるまで付き合って欲しいの! ……ねえ、聞いてる?」

「はいはい、聞いているよ」


 差し出された問題を、適当に解いていく。


 それなりに時間が経ち、喉に渇きを覚え始める。


「……俺、飲み物を買ってくるわ」

「私もちょうど買いたいと思ったところ、付き合うよ」


 彩陽は席を立ち、俺の腕に手を絡めてきた。


「学校ではいつ誰に見られるのかわからないからね。元カレに偽カレってバレたら面倒だからね」

「……好きにしなよ」


 この態勢のまま、俺たちは教室を後にした。


 買った飲み物を手に持ち、夕焼けに照らされた廊下を渡り、窓の外を見やる。

(……そろそろ片付けに入る時間だよね)


 ぼんやりと思考を巡らせ、廊下に視線を戻すと、向こうから近づいてくる人の影が見えた。


 段ボールを抱えているゆうちゃんと……知らない男子生徒。

 2人はどうやら楽しくおしゃべりをしている様子だった。


 男の方は目を輝かせながら、ゆうちゃんに話しかけている。

 ゆうちゃんは彼に……ほんのり笑みを浮かべながら、応じている。


 一瞬、ゆうちゃんと目が合って、彼女は気まずそうに頭を下げた。


(――何それ)


 頭の中に、黒いモヤが浮かび上がる。


(あの男子とは楽しく話しているのに……俺とは目も合わせてくれないの?)

 頑なに俺を見てくれないその瞳に、珍しく苛立ちが湧き上がってくる。

(俺と話す時、そんな顔してなかったじゃん)


 徐々に近づいてくる彼女に、俺は声をかける。


「お疲れ、ゆうちゃん。まだ部活?」

「……はい」

「そっか、頑張っているね~……そっちの彼は一年?」


 俺はゆうちゃんの隣に立つ彼を、頭を下げず上から見下ろす。

 それだけで怖がらせられたのか、彼は体を強張らせた。

 彼は助けを求めるような目を、ゆうちゃんに向ける。

(……やめて、彼女を見ないで)


「……新入部員の鈴木隼人くんです。そちらはバスケ部OBの室星颯真先輩」

「っ! 鈴木隼人です! よろしくお願いします!」

「そうなんだー。頑張ってね、一年」

「うっす……」


 湧き上がった苛立ちを抑えきれず、笑いながらも圧がこもる口調になってしまう。

(でも仕方ないよね……ゆうちゃんが、他の男と楽しそうにしているから)


 俺たちの間にほんのり気まずい空気が漂っていると、彩陽が腕を引っ張ってきた。


「……ねえ、颯真、まだー? 私、そろそろ帰りたいんだけど」

「……ん、ごめんね。教室に戻ろう」


 俺は彩陽に引っ張られたまま、教室に戻ることにした。

 ゆうちゃんの隣を通り過ぎる際、わざと隣にいる彼にも聞こえる音量で言う。


「それじゃ、ま(・)た(・)ね(・)、ゆうちゃん」


 教室が近づき、後ろにもゆうちゃんたちの姿がいなくなった頃、彩陽は俺に話しかけてきた。


「ねえ、颯真」

「ん?」

「あんた、もしかしてさっきの子のこと……」


 なんとなく彩陽が何を言おうとしているかわかる。

 それでも俺は答えるつもりはない。


 俺は夕焼けの光に背を照らされながら、指先を口に当てる。


「……余計なことは言わないでね」

(俺はこの気持ちを、ゆうちゃん以外の誰かにぶつけるつもりはないから)


 * * *


 部活が終わるであろう時間に近づき、俺は誰もいない部室に入って、スマホを取り出した。

 視線はじーっと時間を見つめ、ただ時が過ぎるのをいまかいまかと待っていた。


 外から足音が響き、それが大きくなっていくにつれて、心が冷えていく。


 やがて音が止み、部室の扉が開かれる。


「あ、来たね」


 不安な表情を浮かべるゆうちゃんが、扉の前で立ち止まる。


「どうしたの? おいで」


 俺は彼女が来やすいように、手を広げた。

 それでも、彼女は歩こうとしない。

(……どこまで俺をイライラさせるの?)


「……いい子だから、おいで」


 声をさらに低くしてやっと、ゆうちゃんは歩き出した。

 手の届く位置まで着き、俺は逃がさないように彼女の腰に手を回す。

 バランスが崩れた彼女は、椅子の背もたれに手をつき、俺を見下ろす。


 その目は、恐れと不安に満ちていた。

 それが、すごく気に障る。


「あのっ、先輩、近いです」

「……あの一年と楽しそうに話してたね。仲いいの?」

「えっ、仲いいというほどじゃ……ただ、よく手伝ってもらっただけです」

「ふーん」


(手伝ってもらっただけ、か……それなのにゆうちゃんは、あんなかわいい顔を彼に見せるんだね)

 あの一年の、もじもじしながらゆうちゃんと話しているところを思い出すと、腹が煮えくり返る。


 俺はゆうちゃんの頬に手を添え、なぞる。

 彼女はくすぐったそうに触れられたところを震わせ、顔を逸らそうとする。


(――ダメ、俺を見て)


 彼女の瞳にもっと自分を映してほしくて、顔を逸らされないように固定する。


「……俺といる時、すぐ逃げようとするのに」

「それはっ」

「ねえ、笑ってみてよ」


(さっきの彼と話している時よりかわいいのを、俺だけに見せてよ)


 しかしゆうちゃんが見せてくれた笑顔は、どこまでもぎこちなくて、心がこもっていない。

(愛想笑いより心がこもっていないじゃないか)


「……全然楽しそうじゃないね」

「楽しいこと、何もないので」

「なんで? 俺といるのは楽しくない?」

「どちらかといえば、楽しくないです」


(なにそれ)

 ゆうちゃんの言葉が鋭い刀と化し、俺の心を突き刺す。

(じゃあ、俺だけ毎日ゆうちゃんとの時間が楽しみで仕方なくて、会うだけで浮かれ上がって……バカみたい)


「じゃあ、俺よりあの一年といる方が、楽しい?」

「えっ」


 俺の質問に、ゆうちゃんはわけがわからないかのように目をまん丸にする。

 しばらく待っても答えが返ってこず、苛立ちだけ募っていく。


「……答えないんだね」

「っ……きゃっ!」


 ゆうちゃんを抱き寄せ、弱点である耳元で囁く。


「俺はこんなにゆうちゃんを可愛がってあげているのに、ゆうちゃんは俺になついてくれないんだね」

「っ……耳元で話さないで、くださいっ……くすぐったい」

「ああ、でも……こんな顔を赤くしているかわいいゆうちゃんが見れるのは、俺だけだよね」


 よっぽど敏感なのか、耳元で軽く吐息を吐きかけるだけで、ゆうちゃんはかわいい声を上げ、耳が赤く染まる。

(かわいい)

 頭は苛立っているというのに、ゆうちゃんを見て、もっと触れたい、愛でたいという衝動だけは抑えられない。


(もっと思い知って……俺がどんだけ、ゆうちゃんのことがかわいいのか。どれだけ、欲しいのか)

 衝動に身を任せ、ゆうちゃんの頭に手を置き、唇に視線を向けながら引き寄せる。


 もう少しで唇が触れるところで、彼女は手で遮ってきた。


「なに? この手は」

「……先輩、それはダメです」


 これは明確な拒絶だ。

 ゆうちゃんは俺と、これ以上のことをする気がない。

 それだけで、心がこれまでにないほど痛む。

(いったいどうしたら、ゆうちゃんは俺に懐いてくれる? 俺を求めてくれる?)


 行き場を失った衝動は、代わりにゆうちゃんの手に口づけることで発散していく。


「先輩、放して……」

「手を差し出したのはゆうちゃんでしょう……んっ」


 心のモヤモヤが消え去るまで、俺はゆうちゃんの手を掴み、口づけを繰り返した。


(ゆうちゃんのかわいい表情を全部、俺だけに見せてほしい……お願い、他の誰にも見せないで、知られないで、俺だけに見せて――)


 いつまでも発散しきれない衝動を抱えたまま、俺はゆうちゃんの耳元で囁く。


「ゆうちゃんは他の人になついちゃダメだよ。わかった?」

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