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先輩の溺愛は強引すぎる!  作者: シン


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7/12

会えない時間が、愛を育てすぎる(彼目線)

 ゆうちゃんが退部するのを阻止し、俺はめでたく部活中でもあの子に構うことができたが……。


(いまいち、懐いてくれない)


 部活中、俺はボールばかり触っている。

 あの子はあの子で、正式にマネージャーになったことで、あっちこっち忙しなく駆け回っている。

(あんなに必死に走り回らなくてもいいのに……俺のプレイを見ている方が面白くない?)


 こんなことを言っていると、春翔にナルシストって言われそうだけど、あまりにも俺に興味なさそうだから、こっちが拗ねてしまいそうだ。

 そんな意味深な視線を送っても、なぜか彼女からはあまり視線が合わず、恐らく意図的に避けられている。

(退部を引き留めたのは間違いだったのかな……部活で会えるのはいいものの、絡む機会がなければ意味ないし)


 そんな距離感のまま一年近く過ぎていき、春休みに突入してしまった。


「暇だなー……あの子に会いたいなー」

「颯真……お前、カノジョがいるんだろう? なんでここでだべっているんだ?」


 春翔の部屋のベッドに寝転がりながら、ゆうちゃんの姿を思い浮かべていると、春翔が上から俺を覗き込んできた。


「だって、カノジョと出かけても大して楽しくないんだもん。それなら寝転がっていた方が、まだ有意義だろう」

「お前な……ここはお前の家じゃないんだぞ。寝転がるなら自分の家でやれ」

「えー」


 そんなことを言っていると、ムギちゃんがまた部屋に入ってきた。


「ニャー」


 その子は真っ直ぐ春翔の懐に入り、甘えるように鳴いた。

 春翔はあまあまな目でムギちゃんを見つめ、撫で回す。


「よーしよしよし……ムギはいい子だなー」

「ムギちゃん、本当に春翔にしか懐かないね。好かれる秘訣でもあるの?」

「秘訣……たくさん構ってやることとか?」

「嘘だ! 俺、ムギちゃんにたくさん構っているのに、懐かれていないじゃん」

「そこはもう、人柄だな」

「酷ーい」


 俺は上半身を起こし、ベッドに座り直す。


「春翔、最近美弥ちゃんと付き合い始めたんだっけ? 遊びに行かないの?」

「行っているさ。誰かさんがここに入り浸っているせいで、ろくに連絡も取れないがな」

「なにそれ。自分の奥手を俺のせいにしないでよ」


 正直、春翔から付き合い始めたという報告を聞いた時、結構驚いた。

 この朴念仁にカノジョができる日が来るとは。

(まあ、美弥ちゃんとはずっといい雰囲気だったし、いつかはこうなるんだろうなーとは思ったけど)


「ね、美弥ちゃんに聞いて、ゆうちゃんの連絡先をもらえたりしない?」

「お前、まだ宇佐野さんに絡んでいるのか? 彼女は控えめな子だから、いつかウザがられるんじゃないか?」

「むっ、余計なお世話。美弥ちゃんに聞いてみてよ」

「個人情報だから、勝手にもらうわけにはいかない。自分で聞け」

「ケチー」


 春翔に軽くあしらわれて、ここに居座ってやるって、ふてくされているその時、スマホから通知が来た。


「……あっ、カノジョからだ。『本命ができたから別れよう』だって」

「それは……ご愁傷様。好きなもの買ってやろうか?」

「別に気を遣わなくていいよ。いつものことだし。すぐ次の子ができるでしょ」

「お前、よくそんなんでカノジョができるな」

「相手の子もいつも遊び半分で付き合っているし、なんとなく一緒にいるだけだよ」


 スマホを投げ捨て、まだベッドに寝転がる。

(あー、早く学校に行けないかなー。ゆうちゃんと会えないのはつまんないなー)


 * * *


 休みが明け、教室で椅子に座り、窓の外を眺めながらホームルームの時間を待っていると、隣から女子の雑談が聞こえてきた。


「ねえ、聞いてよ! 私、彼氏に浮気されたけど」

「えー、マジ? 最低じゃん、その男」

「そうだよね! 本当、許さん。よりにもよって、浮気相手は年上の人だよ? ありえなくない?」

「うわっ、ありえない。男って、ちょっときれいなお姉さんを見ただけで、すぐ靡くよね」


(何、その偏見にまみれた意見。俺は相手が年上だろうと年下だろうとどうでもいいけどなー)


 聞き耳を立てながら、遠目で校門を眺め、あわよくばあの子が見つけられないかと、淡い期待を浮かべる。


「彩陽も、すっっごくかっこいい彼氏を作って、見返してやれば?」

「それ、いいね! やろうよ!」

「やろうって言っても……そんな都合よくかっこよくて、こんな理由で軽く付き合ってくれる人なんて……」


 話が不自然に途切れ、隣が静かになった。

 なんとなく嫌な予感がして、恐る恐る振り向くと、やっぱりそこにいる女子三人組が、俺を見ていた。


「——いるじゃん! 顔がムカつくほどよくて、チャラくて、都合のいい男!」


(今、とんでもなく失礼なこと言われた気がする)


 クラスメイトの高橋彩陽が、俺のデスクの前に来た。


「話聞いてたんでしょう? 付き合ってよ!」

「聞いてたんじゃなくて、聞こえてきたんだけど……」

「どうせ今フリーでしょう? 休み中で別れたって聞いたよ」

「誰に聞いたんだよ……」

(女子の情報網って、相変わらず侮れないな)


 そんなことを考えていると、彩陽が手を合わせながら、お願いしてきた。


「お願い! しばらくでいいから! 彼氏に見返せたら、それでいいから!」

「まあ……別にいいけど」

「本当? やった!」


(春翔よ。カノジョってのは、こんな軽いノリでもできるものだぞ)


 * * *


 放課後、俺は彩陽に引っ張られ、校門前で待ち伏せしていた。


「お前の元カレ、別のクラスにいるっけ?」

「そっ! 彼の姿を見た瞬間、イチャイチャしているところを見せつけてやるのよ!」

「……そうですか」

「あー、来た来た!」


 彩陽は俺の首に手を回し、強引に俺を屈めさせる。

 俺は力を抜き、彼女に合わせて、親しくいちゃつくカップルを演じる。


「……本気ではしないからね」

「……分かっている。早く済ませなよ」

(あー、早く終わらないかなー……そういえば今日、部活初日だっけ。俺、もう引退したけど、顔を見せに行ったら、ゆうちゃんは驚いてくれるかなー……)


 そう考え、思わず体育館がある方向に視線を向けると、こちらを見ているゆうちゃんの姿が見えた。

 ゆうちゃんは目を見開いていた。視線が合った途端、彼女はそっぽを向いて、美弥ちゃんを連れてそこから離れた。


(あー、まだ逃げられちゃった。せっかく会えたから、もっとちゃんと顔を見たいのに)


 やがて彩陽は手を放し、俺の腕に絡んできた。

 彼女はある男子生徒を見ていた。


「おい、どういうことだよ、彩陽! その男はなんだよ! 最近まで俺と付き合ってたんだろう!」

「あんたには関係ないでしょう! もう別れたから、きれいなお姉さんに慰めてもらえば? それとも悔しいの——」


 2人は俺の隣で、挑発し合っていた。

(俺、もういらないじゃん。放してくれないかなー)


 あれこれ30分ほどかかり、俺はやっと、2人の喧嘩から解放してもらえた。


 * * *


 部活が終わるだろう時間を見計らい、俺は春翔の後ろについて行き、部活の様子を見に行った。

(本当はゆうちゃんと話したいだけだけどね)


 体育館に入った途端、美弥ちゃんは嬉しそうに春翔のところに駆けつけてきた。

 2人はあまあまな空気を漂わせていて、隣にいる俺まで火傷しそうだった。

 俺はそんな2人を横に、ゆうちゃんの姿を探す。


 まさに体育館の壁際にあるベンチで、彼女は部室に返すであろう書類を抱えていた。

 彼女はうらやましそうに、春翔たちを見ていた。

 その目が俺にも向けられたその時、俺は手を振ってみせた。

 でも彼女は頭を軽く頷くだけで、すぐそっぽを向いた。


(……相変わらずツンツンしているなー。でもやっぱりかわいい)


 もっとこっちを見てくれないかなって思ったその時、美弥ちゃんはゆうちゃんのところに駆け込み、何やら話し込んでいた。

 しばらくすると、美弥ちゃんがこっちに戻ってきて、ゆうちゃんはもう一つの出入口から出ていった。


「颯真、俺と美弥はこのまま帰るんだが、お前は——」

「2人で帰って。お邪魔虫は退散するよ」


 俺は熱々の2人をこの場に残して、ゆうちゃんの後を追うように部室に向かった。


 部室の扉は開いていて、ちょうどゆうちゃんはデスクに持ち物を置いて、背伸びしているところだった。


「ねえ、二回も無視するのは酷いじゃない?」


 早く振り返ってほしくて、とにかく何かを話したくて、自分の不満をぶつけてみる。


 そうしたら、ゆうちゃんのぐりぐりっとした丸い目が、俺の方を見てくれた。


(……かわいい)


「室星先輩は帰らないんですか?」

「いっぱいアピールしたのに、かわいい後輩が構ってくれないから、こっちから構いに行こうかなって」


 ゆうちゃんは素っ気なく、すぐ俺から目を逸らして、書類の片付けを始める。


(なにそれ。せっかく会えたのに、じっとも俺を見てくれないんじゃん。こっちはずっとゆうちゃんに会えなくて、つまんなかったのに)


「ねえ、ゆうちゃん。連絡先教えて」

「えっ、いやです」

「あはは、即答は酷いなー」

「私の連絡先を知ってどうするんですか? 部活以外のことで、先輩と話せることなんてないんでしょう……」


(話したいこと、いっぱいあるのに……休みの間何をしてたとか、俺に会えなくて、寂しかったのかとか。ゆうちゃんはツンツンしているから、意地でも会いたいって言わなさそうだけど)


「えっ、普通にゆうちゃんを遊びに誘いたいなーって。休みの間、ゆうちゃんに会えなくて、寂しかったから」

「カノジョさんを誘えばいいんじゃないですか?」

「ん……ゆうちゃんとも遊びに行きたいなー」


(最近、カノジョと出かけても楽しくないんだよね。ついゆうちゃんのことを思い浮かべてしまって。ゆうちゃんなら、どんな顔をするかなーって)


 そのせいで、毎日のように春翔の部屋に転がり込むことになったけど。


 書類の片付けがほとんど終わったのか、ゆうちゃんは最後のファイルを持って、棚の高いところに置こうと踵を必死に上げた。

 でもどうしてもギリギリのところで届かず、彼女は何かを探し始めたように辺りを見回した。


(何それ、必死に背伸びしちゃって、可愛すぎるんだけど)


「届かないの? 手伝ってあげようか?」

「いえ、椅子を使うので――」


 俺は部室の扉を閉め、逃さまいと棚に手を置き、ゆうちゃんを腕の間に閉じ込める。


「あの、先輩、邪魔っ」

「手伝ってあげようか?」

「……お願いします」


 やっと頼ってくれたことに、心が悦で満ちていく。

(せっかくだから、もっと近づきたいな)


 そう思って、俺は思い切って、彼女の足に手を回し、持ち上げる。


「きゃっ!」

「よいっしょ……ほら、これで届くんでしょう?」

「な、何をしているんですか! 怖いです! 早く降ろしてっ――」


 持ち上げられたのが怖いのか、ゆうちゃんは俺の肩に手を置いて、しっかり掴んでいた。

 そこから心地良い熱が広がった。

(初めてだな、ゆうちゃんから俺に触れたの)


「ん? でもゆうちゃん、まだファイルを戻していないでしょう? ほら、早く戻して~」


 ゆうちゃんは素早くファイルを棚に戻した。

 そして俺を見下ろした。


「も、戻しました……あの、早く降ろしてください」

「……」


 いつもより間近にある、ゆうちゃんの顔はほのかに赤くなっていた。

 その少し垂れている目の奥に、俺の姿を映していた。

(かわいいな……何をどうしたら、こんなにかわいく育つんだ?)


 体が小さくて、軽くて、本当に猫を抱きかかえているみたいだ。


「なんか……この態勢、いいね」

「何がいいんですか」

「抱き上げたままでいれば、ゆうちゃんは逃げられないし、それどころか俺にしがみついてくれる。俺は間近でゆうちゃんのかわいい顔を見られる。最高じゃない?」

「何が最高なのか、わからないです」


(こんなかわいい生き物……放してしまったら誰かに攫われそう)

 ま、そうはさせないけど。


「……降ろして欲しい?」

「はい」

「じゃ、連絡先教えて?」

「いやです」


 頑なに連絡先を教えてくれないゆうちゃん。

 ツンツンしているところもかわいくはあるけど、たまにはデレも見せてほしい。


 俺はゆうちゃんを膝の上に乗せ、密着するように抱き寄せながら、彼女のスマホを勝手に借りて、アプリを開いた。

 足をバタバタさせているところも、必死にスマホを取り返そうとするところも、じゃれている猫みたいでかわいく思いつつ、取り返される前に素早く俺の連絡先を入れた。


 ピロン~♪


「はい、どうぞ」


 彼女からのメッセージが届いたのを確認してから、スマホをkの手元に返す。


「あの、何ですか? この『颯真先輩大好き♡』って」

「ん? この名前に変えた方が、見つけやすくない? ゆうちゃんも俺のこと、颯真先輩♡って呼んでいいよ」

「呼びません」


(名前で呼んでほしいんだけどなー。距離が一気に縮まった感じがして、いいと思うけど)


「連絡先はもう知ったでしょう? そろそろ降ろしてもらえませんか?」

「んん……でもゆうちゃんから渡してくれたわけじゃないから、ダーメ。もう一つ約束してくれたら、放してあげる」


(俺はもう部活がないから、ゆうちゃんと会える時間が欲しいな)


 俺はわざと真正面で彼女を見つめ、笑ってみせる。


「放課後と部活後、一人でここに来て」

(もっと近づきたい、くっついていたい……もっと構ったら、いつかは懐いてくれるよね?)


「いいね? ゆうちゃん♡」

(早く俺に懐いて……俺だ(・)け(・)に懐いて)

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