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先輩の溺愛は強引すぎる!  作者: シン


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6/12

子猫みたいな後輩がかわいすぎる(彼目線)

 誇張ではないが、俺はとんでもなくモテる。

 中学校の頃からカノジョが途切れたことはほぼないし、そのほとんどは女子から告白してきた。


 でもその関係は、長く続いたことがない。

 三ヶ月くらいすれば、なんか飽きたなーってなって、また次へ切り替えていく。

 たまに別れたくなくて、泣き喚いてくる女もいた。

 俺はただただ、うざいなとしか思わなかった。


 それ以来、俺と同じくらいのノリで恋愛ごっこしてくれる女の子とだけ、付き合うことにした。


「お前のその癖、本当に最悪だな」

「それは世間の意見でしょう? 結局恋愛って、当事者が楽しければいいんだよ」


 実際、俺の親も小さい頃に離婚してたし。

 その後、母はいろんな男と付き合って、別れて、その繰り返し。

 所詮男女の付き合いって、そういうものだ。

 最初は新鮮さを求めて、その新鮮さがなくなればすぐ次に乗り換える。


「理解に苦しむな。そんなんじゃ、いつか本命が現れた時、振り向いてもらえないぞ」

「そんなの、春翔がカノジョをできてから言ってよ」


 目の前の男、相宮(アイミヤ)春翔(ハルト)は机に教科書とノートを広げ、課題をこなしながら、俺の恋愛談を聞いている。

 きっかけはなんてことない、俺につい最近新しいカノジョができたからだ。

 そのことを、春翔の家に遊びに来たついでに報告していた。


「でか、学校始まったばかりなのに、もう勉強しているの? 真面目すぎない?」

「今年から先輩になるんだぞ。後輩のいい模範にならないとな」

「うわっ、引くほど真面目。そんなんだから、部活の部長を押し付けられるんだよ」

「押し付けられるなんて、言い方が悪い……期待されている証じゃないか」

「あっ、そう」


 春翔とは高校に入ってからの付き合いだが、部活が一緒ということもあって、よくつるんでいる。

 こいつは俺の話に飽きずに付き合ってくれるし、反応も面白いから結構気に入っている。

 真面目すぎる点だけは、どうしても分かり合えないが。


「そういえば新入りのマネージャー……林美弥ちゃんだっけ? 結構手こずっているみたいじゃない? この間、失敗しちゃって泣きそうになっていたよ。部長としてフォローしてあげなよ」

「もちろんしているさ。でもやはりマネージャーは一人だけだと、どうしても負担が大きくなってしまう……もう一人入ってくれればいいんだが」

「募集すればいいじゃん。入部希望者自体はたくさんいるだろう?」

「誰のせいで無闇に女子を入部させられない事態にしていると思う?」


 そういえば去年、俺がバスケ部に入部した頃、同級生のマネージャーや先輩マネージャーもいたっけ。

 まあ、その中の数人と付き合っていたら、とんでもない修羅場になって、全員退部したけど。


「そういえば林さん、友達を助っ人にしたいって言ってた」

「……女子?」

「颯真、手を出すんじゃないぞ」

「わかってるって」

 (可愛い子だったらいいなー)


 ニャー。


 その時、春翔のうちの金色の猫が、扉の隙間から入ってきた。


「おお、ムギちゃんじゃん。おいでー」


 その猫を誘うように、手を伸ばすと――


 シャー。


 なぜか俺に威嚇してきた。


「ほら、ムギ。こっち来るんだ」


 春翔が呼びかけると、ムギはあっさり春翔の膝に上がり、自分の体を擦り付ける。


「春翔はいいな。ムギちゃんに好かれて。なんで俺は嫌われているんだ?」

「お前の人となりが見透かされたのではないか?」

「何それ、遠回しに性格悪いって言ってる?」

「結構悪いだろう……まあ、それは冗談として。ムギはそもそもそんなに人に懐かないんだ。懐いた人にはとことん甘えるがな」

「ふーん」


 その時、俺は何も言わなかったけど。

 春翔にだけ心を許しているその猫を見て、俺は密かに、春翔のことを羨ましいと思った。


 * * *


 部活の時間に、部員全体が集められた。

 俺と春翔は最前列に立ち、何事かと俺はぼんやりと考えていた。


 春翔は部員たちに向け、声を張り上げた。


「みんなに伝えたいことがある。しばらくの間、新しいマネージャーを受け入れることになった」


 その言葉を合図に、マネージャーの美弥ちゃんは体育館に入ってきた。

 その後ろには、美弥ちゃんより少し小さい女の子が入ってきた。


「しばらくマネージャーの仕事を手伝うことになりました、宇佐野優と言います。よろしくお願いします」


 一目見た瞬間、かわいいっと思った。

 ふんわりとした亜麻色の髪が、頭が動くたびに揺れる。

 耳や口は小さくて、いじらしい。

 この子はどんな目をするんだろうかと気になって、いつの間にかその顔を覗き込んでいた。


 目を開き、俺と目が合った彼女は、びっくりしたのか目をぐりぐりって丸く見開いた。

 目元が少し垂れていて、そこもまだ弱々しい感じで、保護欲をそそられる。

 まるで子猫みたいだ。


「君、ゆうちゃんって言うんだね。結構かわいいじゃん」

「は、はあ……」


 思っていることを口に出してみると、彼女は困ったような声を上げた。

 今まで俺が褒めれば、女の子は大体恥ずかしがるか、あからさまに喜ぶのに。

 (まぁ、そのほとんどはお世辞だけど)

 この子はそんな素振りを見せない。

 逆にちょっと冷めた目で見てくる。


 こういうタイプの女の子は初めてだ。

 もし懐いてくれたら、どんな顔を見せてくれるんだろう。

 彼女の姿に、春翔の家で見たムギちゃんの姿を重ねる。

 (……興味あるな)


 そんな好奇心に駆られ、俺とゆうちゃんがじゃれ合う日々が始まった。


 * * *


 (……ガードが硬いなー)


 ゆうちゃんを懐柔すべく、水を飲ませようとしたり、弁当を褒めたり、さりげなくスキンシップしてみたりしてみたけど、一向に懐かれる気配なし。

 それどころか、警戒心だけ増していった気がする。


(まあ、そのかわいい顔で睨まれても、子猫に毛を逆立てられたみたいで、かわいいだけだけど)


 それはそれとして、案外攻略に手こずってしまっていることに、新鮮ささえ覚える。

(次はどんなこと仕掛けてみようかな――)


「おい、颯真。昼飯はいいのか?」

「うん……何も持ってきてないからいいや」

「ったく……購買部で何かしら買え。午後が持たんぞ」


 そう言って、春翔は弁当箱を抱えて、教室から出た。

(そういえば部活のミーティングがあるとかなんとか言ってたな)

 俺は割と部活を楽しむ勢いでやっているから、行政的なことにはまったく関わっていなかった。

 春翔も俺の性格を察して、大して強要してこなかった。

 おかげで、俺は結構のんびりやれている。


 教室に人気が溢れ、騒がしい雑音が嫌でも耳に入る。

(……どこか静かな場所行こうか)


 俺は席を立ち、ゆらりと教室から出ていく。

 そしてなんとなくたどり着いたのは、学校の裏庭だった。

(そういえばこの間、ここでゆうちゃんと美弥ちゃんを見かけて……)


 つい記憶を頼りにそこにあるベンチに視線を向けると、亜麻色の髪が視界に入った。

 その隣には誰もいなかった。

(今日は一人なのかな)


 俺は気配を消して、後ろから近づく。

 背もたれに手をつき、話しかける。


「今日は一人?」

「っ!?」


 突然後ろから声をかけられて、よっぽど驚いたのか、ゆうちゃんは肩を大きく跳ね上げた。

 その反応が面白くて、つい笑ってしまった。


「あっは、ごめんごめん、驚かせて」

「……本当ですよ。何のご用ですか?」


 彼女は拗ねたようにそっぽを向く。ちょっぴり膨らんだ頬が柔らかそうで、つつきたくなる衝動を抑える。

 視線を下に向けると、彼女の膝の上には食べかけの弁当が置いてあった。


「今日は一人寂しくご飯を食べているんだ」

「……美弥は部活のミーティングとかで、部長と食べるそうです」

「へー」


(そういえば春翔、最近よく弁当を持ってくるな)


 春翔は元々俺と同じ、コンビニ弁当か購買で済ませることが多かった。

 でも最近ミーティングがある度、弁当を持ってくるようになった。

(これは美弥ちゃんを意識しているなー。後でからかってやろ)


 俺は空いているゆうちゃんの隣に座る。


「ゆうちゃんのお弁当、おいしそうだね。手作り?」

「そんな大したものじゃないです。冷凍食品を詰めただけですし」

「でも早起きして作っているんでしょう? 偉いね」

「それは、まあ……先輩はもう、お昼食べたんですか?」


 褒められたのか恥ずかしいのか、ゆうちゃんの頬にわずかな赤みが差した。

 初めての手応えに、心が弾んだ。

(もっとからかったら、もっと赤くなってくれるかな)


「んー。今日は何も買ってきてないから、食べていない」

「……それ、午後からしんどくならないですか?」

「春翔と同じことを言うんだね」


 そう言っていると、ゆうちゃんは弁当を食べる手を止め、横にあるレジ袋を探り出した。

 そこから出てきたのは、エネルギー補給ゼリーだった。

 ゆうちゃんは手に持ったそれを、俺に渡す。


「今これしかないんですが、少しだけでも胃袋に入れてください」

「……くれるの? っていうか、ゆうちゃんがこういうの買うとか意外なんだけど」

「普段は買わないんですが、最近美弥、部活で大変なので、差し入れにと」

「へー、友達思いなんだね」


 俺はゼリーを受け取ると見せかけて、ゆうちゃんの手を握った。

 その時、ビクッとゆうちゃんの手が弾んだのを感じた。


「いつも思ってたけど、ゆうちゃんはよく周りのこと見ているね。いつもさりげなく親切心を見せて……勘違いする男子もいっぱいいたでしょ」

「……そんなに親切心を振りまいていないし、そこまで親しい男子もいません」

「へー、じゃあ俺が第一号になっちゃうというわけだ」


 軽く手の甲をなぞり、ゆっくり指を絡める。

 それだけで、ゆうちゃんの体は強張り、頬がどんどん赤く染まっていく。

(……かわいい)

 いつもツンツンしていた子猫が、やっとデレを見せてくれた時くらいの満足感に満ちていく。


 俺は髪が触れるか触れないかの距離まで、頭を近づけさせる。


「俺、ゆうちゃんのお弁当がいいな。その玉子焼き、冷凍食品じゃないでしょう? 1つ頂戴?」


 甘い声で囁き、ねだるように手を握る。

 それだけでゆうちゃんは耳まで真っ赤に染まり、その様子を俺は心を弾ませながら眺める。

(かわいい……もっと見たい――)


 突然ゆうちゃんは体を後ろに倒れ、俺たちの間に距離を開けた。

 そしてゼリーを俺の手に置き、てきぱきと弁当箱を閉めた。


「……玉子焼きは塩味なので、あげません」


 そう言って、彼女は早足でここから去った。


 呆然とその後ろ姿を眺める俺は、手に持っているゼリーのぷにゃっとする感触を感じながら、ぷつりと糸が切れたように、笑う。


「あっは……あはははは! 塩味って……くくくっ、ゆうちゃんは期待を裏切らないね」


(一応俺が甘党なのを覚えてくれているんだ……本当かわいいな)


 俺はゼリーを大事にポケットにしまい、前髪を搔き上げる。


「……こんなかわいいとこ見せられると、ますますちょっかいかけたくなるじゃん」


 手を空に伸ばし、亜麻色の髪の後ろ姿を思い浮かべ、拳を握りしめる。


「……そういえば、ゆうちゃんが臨時マネージャーとして入ってから、もうすぐ三ヶ月……」


 元々三ヶ月だけの約束で、入ってもらっていることは春翔から聞いている。

 でも――


「春翔に言って、引き留めてもらおっかなー」

 (こんなにかわいい子猫を、みすみす逃がしたくないからね)

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