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先輩の溺愛は強引すぎる!  作者: シン


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4/12

恋愛の駆け引きは難解すぎる

 部活がない日でも、私は室星先輩との約束を果たしに、部室に通っていた。

 毎日のように抱きつかれながら、撫でまわされたり、口づけられたりと、散々弄ばれた。

 今日もそんな時間になるんだろうと思ったのだが——


 「ゆうちゃん、俺とゲームをしよう」

 「……はい?」


 私は相変わらず先輩の膝の上に座らされながら、突然の提案に疑惑が拭えない。

 先輩はスマホを取り出し、アプリを開いた。


 「サイコロゲームだ。一人ずつサイコロを振って、数字が大きい方が小さい方に一つ質問できるってルール」


 先輩はサイコロを映しているスマホ画面を、私に見せる。


 「……いいんですけど。何かおかしなことを企んでいませんか?」

 「企んでない企んでない。ただ、ゆうちゃんと遊びたいって思っただけだよ。はい、どうぞ」


 先輩にせがまれ、私は戸惑いながら、画面をタップする。

 すると、サイコロが回り、最終的に『2』が出た。


 「俺の番ね……やった、『5』だ」


 先輩は「んー」と考えた後、口を開く。


 「ゆうちゃん、いつまでバスケ部のマネージャーをやっているの?」

 「何ですか? その質問。私を退部させないようにしたのは先輩じゃないですか」

 「そうだけどさ。俺、もう引退したし。ゆうちゃんが他の子の面倒を見る必要なくない? もうやめれば?」


 なんて横暴な退部理由なんだと心で思いつつ、先輩相手に真面目に考えちゃいけないと、自分を落ち着かせた。


 「……部活に美弥がいますし、案外楽しくやらせてもらってますので、しばらくはやめないかと」

 「ふーん」


 先輩は興味なさそうに相槌を打つ。


(ちゃんと答えたのに、なんなの? その反応)


 不満を感じつつ、私はスマホの画面をタップする。


 「あっ、『6』」

 「すごいね。じゃあ、ゆうちゃんが質問していいよ」


 私が勝ったのになぜか先輩は嬉しそうに目を輝かせる。

 私はしばらく考える。


 「そうですね……先輩って、今まで何人とお付き合いしたのですか?」


 何気に一番気になっている質問を口にしてみた。

 噂になるほどだから、私が想像できないほど経験豊富に違いない。

 もはや怖いもの見たさで聞いている感すらある。


 「何人? さあ、何人だろう。数えたことないな」

 「……それ、今までのカノジョに失礼じゃないですか?」

 「そう? 俺は誰とも楽しくやれているつもりなんだけど」

 「……ソウデスカ」


 もう一度サイコロを振り、今度は先輩の方が出目が大きかった。


 「ゆうちゃん、アクセサリーは好き?」

 「えっ?……嫌いじゃないですけど、あまりつけたことないです」

 「なんで? つけるのがめんどくさい?」

 「んー……どちらかというと、自分に似合わないと思ったからですかね」

 「えっ、そんなことないよ」


 先輩は私の耳たぶに触れる。


 「ゆうちゃん、イヤリングとか興味ない? かわいいと思うよ」

 「……わからない、ですけど、先輩みたいにいっぱいつけるのはいやです」

 「あはは、辛辣ー」


 そこから、サイコロゲームは10回ほど繰り返された。

 私はなぜか先輩に質問攻めされた。


 好きな色はなんだの、好きなモチーフはなんだの、行きたい場所はあるかだの……本当に色々。

 私も負けずと、先輩を質問攻めしてみた。


 「なんかゆうちゃん、俺の恋愛経歴ばかり聞いてない? 俺自身のことも聞いてよ」

 「先輩の恋愛経験は興味深いので、参考にさせていただきたいだけです(反面教師として)」


 そうして、今日のこの時間は珍しく先輩にからかわれずに終わった。


 「そうだ、ゆうちゃん。今度の土曜日、時間ある?」

 「土曜日?……確か、美弥と約束が——」

 「じゃあ、日曜日は?」

 「その日は家族と……」

 「……どこか時間、作れない?」


 いつも時間がないと言えば、先輩はすぐ引き下がるのに、今日は妙にしつこく聞いてくる。

 それでも私は頭を横に振った。


 「すみません」

 「そう……時間があったら連絡して。一時間だけでもいいから」

 「……? はい」


 その会話を最後に、私たちはこの場を去った。


 * * *


 今日もいつも通り部活をしていると、美弥が私に話しかけてきた。


 「優、今度の土曜日だけどさ」

 「ん? どうしたの」

 「私、急遽バイトが入っちゃって。ごめん!」

 「そっか……それじゃ仕方ないね」


 急に時間が空いてしまったと思いつつ、一瞬先輩の言葉を思い出す。


(そういえば先輩、しつこく週末の予定を聞いてきたな)


 でも、どうであれ、私は彼の誘いに応じるつもりはない。


(先輩はカノジョ持ちだから、どこか線引きしておかないと)


 「……で? 優は土曜日、どうするつもりなの?」

 「……? どう、とは?」

 「えっ? 覚えていないの? だって、土曜日って——」


 美弥が何かを言いかけた時、横から誰かが近寄ってきた。


 「優先輩!」

 「っ! 隼人くん、どうしたの?」


 隼人くんは何やらそわそわしている様子。


 彼は顔を引き締めながら、私に話しかけた。


 「こ、今度の土曜日、僕とあ、あ、遊びに行きませんか?」

 「えっ」


 突然の誘いに、私は戸惑った。

 隼人くんは顔を強張らせている。とても緊張しているように見える。

 その意味がわからないほど、私は鈍感ではない。


(でも……室星先輩の誘いには応じないのに、隼人の誘いに応じるのは、不公平な気がする)


 「隼人くん、ごめんなさい、私——」

 「いいんじゃない! 行ってきなよ!」


 まさに私が断ろうとした時、美弥はなぜか私に行くよう勧めてきた。


 「ちょっと、美弥、なんで——」


 彼女は私を引っ張り、隼人くんから少し距離を取ってから、私に耳打ちする。


 「せっかくだから行ってきなよ。あんた、男の子と出かける経験ないでしょう?」

 「でも、私にその気はないのに、期待させるようなことをするのは失礼じゃない?」

 「そんなことないよ。むしろ1日かけて彼との相性を確かめてから結論を出した方がいいでしょう」

 「そうかな……」


 美弥に強く言われ、私は酷く迷っていた。


(確かに美弥の言う通り……何も知らないで断るのは失礼?)


 でもなぜか心が進まない。何より、室星先輩の姿が脳内によぎる。


 「優先輩、迷惑……ですか?」


 私たちが長々と話しているせいで不安にさせたのか、隼人くんの表情から悲しさが滲み出していた。


 それを見て、心が痛み、私は一回深呼吸をする。


 「……わかった。行きましょう」

 「~~! ありがとうございます!」


 隼人くんは満面の笑みを浮かべたまま、コートに駆け戻った。

 隣に美弥もニヤニヤしながら、自分の仕事に戻って行った。


 未だモヤモヤしている私を残して。


 * * *


 土曜日の12時、私は待ち合わせ場所である駅前の公園で待っていた。

 服装は水色の肩出しワンピース。

 髪型はふんわりハーフアップ。

 化粧もいつもより頑張ってみた。


 美弥に念押しされ、精一杯おしゃれを頑張ってみた。

 後で写真を見せろと言われ、いい加減な恰好を見せたら、美弥にどやされそうで怖い。


 少しくらい待つと、駅からこちらへ駆け寄ってくる見知った姿が見えた。


 「優先輩、お待たせしました!」


 おしゃれなTシャツにズボンを着こなしていた隼人くんは、頭にわずかな汗を滲ませていた。

 私を見て、慌てて走ってきたかもしれない。


 「大丈夫。ついさっき来たばかりだから。ほら、お水」


 私はさっき早めに来て、買ってきた水を隼人くんに渡す。


 「……先輩、僕のために買ってきたんっすか?」

 「天気、暑くなってきたから……あっ、もう持ってきてた?」

 「っ! いいえ! ほしいです! いただきます!」


 隼人くんはすぐ水を受け取り、一口飲む。


 「……ごく……おいしいっす!」

 「ふふっ、普通の水だよ」


 彼のゴロゴロ変わる表情を見て、思わず音を立てて笑う。


 それから私たちは、商店街を軽く散歩し、どこか空いているカフェに入った。

 私はケーキセットを注文し、隼人くんはサンドイッチセットを注文した。

 私たちは軽食を楽しみながら、雑談を楽しんだ。


 「優先輩は甘いものが好きなんっすね」

 「好きだよ。ついつい食べ過ぎるから、普段は控えているけど」

 「へ~、他に好きな食べ物は——」


 いろんな話をしているうちに、私たち二人とも、お皿を平らげた。

 そろそろ出ようかなと思った頃、隼人くんが何やらそわそわし出した。


 「あの……先輩に1つ聞いてもいいですか?」

 「ん? なに?」


 彼は言いにくそうにするも、一回唾を飲み、口を開く。


 「この間廊下で会った室星先輩……優先輩は室星先輩と、仲がいいですか?」

 「……ただの先輩後輩だよ」


 回答に悩んだ末、導き出した答えはそれだった。

 その割には、距離が異常なほど近かったけど、私は室星先輩の恋人でもなければ、友人ですらない。


 「優先輩はその、室星先輩のこと……す、好き、ですか……?」

 「……なんでそう思うの? 私、そんな風に見えた?」

 「いいえ……室星先輩、かっこいいので、もしかしたらって思って……それに、優先輩が何も思っていなくとも、室星先輩は……」


 ここに来て、隼人くんはだんだん歯切れが悪くなってきた。

 言いづらいのだろう。特に室星先輩は“そういう”噂が絶えない人。本気になっても傷つくだけなのが明らか。


(大丈夫。まだ隠せている。本気になる前に逃げ切れる)


 「本当にただの先輩後輩だよ。それよりそろそろ出よう。隼人くん、映画のチケットを買ってきてくれたんだよね? 時間大丈夫?」

 「えっ……あっ、はい! 今から向かえば、ちょうどいいと思います」


 私たちは急いでカフェを後にし、映画館に向かった。


 * * *


 2時間の映画を見終わり、私たちは感想を言い合いながら、駅に向かった。


 「さっきの映画、面白かったっすよね! 特に主人公が夢を叶えてから、ヒロインに告白するシーン! 僕、すごく感動しました!」

 「確かに! 主人公が頑張っているのを見届けてきたこその感動があったね。原作は小説らしい。図書館で借りてみようかな」

 「いいっすね! 僕も読んでみたい!……あっ、僕、本を読むのが苦手でした」

 「あはは、じゃあ私が読んでから、隼人くんに感想を伝えるね」


 感想の語り合いが白熱したものの、駅が徐々に近づき、隼人くんの歩みがゆっくりになっていく。

 公園を通る頃には、隼人くんはいつの間にか私の後ろで立ち止まっていた。


 「隼人くん?」


 私は振り返り、少し空いた距離の向こうにいる彼を見る。


 彼は少し寂しそうに、迷っているように唇を噛む。

 しばらく待つと、彼は覚悟が決まったように頭を上げる。


 「優先輩、僕は——」


 「——ゆうちゃん?」


 突然名前を呼ばれ、私はビクっと、体が跳ね上がった。

 その低く、聞き慣れた声に誘われたように、私はその人に視線を向ける。


 室星先輩は、目を大きく見開きながら、私を見ていた。

 その隣には学校でよく見る、先輩のカノジョの姿もいた。

 そのカノジョは、困惑した目で室星先輩と私を交互に見る。


 「颯真? どうしたの——」


 しかしそんなカノジョのことを構いもせず、室星先輩は真っ直ぐ私に迫ってくる。


 「なんでゆうちゃんがここにいるかな?」

 「……先輩に関係ないかと」


 先輩の突き刺さるような視線は、一瞬隼人くんに向いた。

 隼人くんは分かりやすく、体を強張らせた。


 「……友達の女の子と出かけるって聞いたはずなんだけど。なんでその一年と一緒にいるの?」

 「……先輩に関係ないです」

 「……そう。答えてくれないんだね」


 頭上から先輩の圧に押しつぶされそうになり、私は表情を隠そうと頭を下げる。

 そうしたら先輩が突然私の手を掴み、強引に引っ張り出した。


 「ちょっ、先輩!?」

 「黙ってついてきて」


 「颯真!? どこに行くの!?」

 「優先輩!?」


 いつもより強く掴まれた手首が痛くて、私は振り払うことができず、室星先輩の後ろについて行った。


 * * *


 公園の奥に進み、ほとんど人がいない場所まで辿り着き、私は掴まれた手を思いっきり引っ張る。


 「放して、ください!」


 体全体の力を込めて引っ張ったのはいいものの、思いの外先輩はあっさり手を放し、私は後ろに倒れそうになった。


 「きゃっ!」


 衝撃を覚悟し、目を固く閉じると、背中に力強い腕が回され、一気に抱き寄せられた。


 恐る恐る目を開けると、私は室星先輩の胸元にもたれかかっていて、先輩は無表情で私を見下ろしている。


 「あ、ありがとうござい……ございます」

 「……」


 一応お礼はしてみたが、先輩は一言も返してくれず、気まずさだけが増していく。


 「……そろそろ放してもらって——」

 「今日、かわいいね。おしゃれしたの?」


 先輩は意味深に私の腰をなぞり、私の髪を一束手に乗せる。


 「いつもと違う髪型に……ワンピース。学校でしかゆうちゃんに会えないから、私服のゆうちゃんがこんなにかわいいなんて、知らなかったなー」


 いつもと変わらない口調なのに、一言一言に恐ろしいほど圧を感じる。


 「ね、このかわいい恰好は、あの一年のため? 俺とデートしてくれないのも、あの男とデートしたかったから?」


 これほど冷たい空気を放つ先輩は初めてで、足がわずかに震え出した。

 私はどんどん迫りくる先輩の顔から、目を逸らす。


 「……最初は、本当に美弥と約束があって……美弥、急遽来れなくなったから、それで——」

 「じゃあ、なんで俺に教えなかったの? 言ったよね? 一時間だけでもいいから、教えてって。俺、今日はゆうちゃんと過ごしたかったけど」


 次々と私を責め立てる言葉で、心が罪悪感に埋もれていく。

 しかしそれと同時に、さっき室星先輩と一緒にいた、カノジョの姿も頭によぎる。


(そうだ。なんで私ばかり悪いみたいに責められているの? だって、私は先輩のカノジョでもなんでもない。先輩の言うことを聞く必要なんて——)


 罪悪感の代わりにぐつぐつと湧き上がる怒りに駆られ、私は思いっきり先輩の体を押しのける。


 「……なんでもいいんじゃないですか? 私は先輩のカノジョでも、なんでもないですから。先輩の言いなりになる筋合いはありません! 遊びたいなら、今からでもカノジョのところに戻った方がいいんじゃないですか?」


 感情に任せて、思っていることを先輩にぶつける。

 少しはすっきりするかもと思い、先輩を見てみると、彼はなぜかうんざりした表情をしていた。


 「またカノジョの話? ゆうちゃんもしつこいね。そんなにカノジョという肩書きが気になるの?」

 「気になるって……普通、気にしますよね? だって、恋人でもない人に、ここまで距離が近いのはおかしいでしょう?」

 「……わかった。ゆうちゃんがそういうなら」


 やっと分かってくれたのかと、ため息が吐きそうになったその時、先輩はスマホを取り出し、電話をし出した。


 「……あー、あやひ? 俺、颯真だけど」


 電話の向こうから『どこにいるの!?』って、私まで聞こえるくらいの怒鳴り声が響いた。

 しかし、室星先輩はげんなりとした様子のまま、それを聞き流した。


 「悪い、別れるわ。じゃ」


 先輩はそれだけ言って、通話を切った。


 私は先輩の意図が分からず、驚きのあまり口が塞がらない。

 すると、先輩は私に向き直す。


 「聞いた通り、別れたから。それでいい?」

 「それでいいって……意味がわかりません。先輩は何がしたいんですか?」

 「……わからない?」


 先輩は再び距離を詰め、片手で私の顔を固定する。

 その顔が徐々に近づき、私は反射的に両手でその口元を塞ぐ。


 「先輩、何を——」

 「邪魔」


 先輩はもう片方の手であっさり私の両手を掴み、そのまま私の顔を持ち上げる。


 「んっ!?」

 「……ん……」


 唇から柔らかい感触が伝わり、自分が先輩に口づけられていることをいやでもわかる。


 「んっ、んん~!」

 「んっ……ちょっと、大人しくして……んんっ」


 何回も柔らかい唇の感触が降り注ぎ、頭が真っ白になっていく。

 このままだと先輩のペースに飲まれてしまうと悟り、私は思いっきり先輩の唇を嚙む。


 「……痛っ!」


 驚いて拘束の力が弱まった隙を突き、私は急いで先輩から距離を取る。

 手の甲で唇を擦り、さっきまでの感触を掻き消そうとする。


 しかしその甘い感触が簡単には消えず、ただ虚しさが残る。


 「ゆうちゃ——」

 「先輩、本当に最低! もう二度と関わらないで!」


 その言葉を残して、私は先輩の反応も見ずに、その場を走り去った。


 * * *


 家に戻った途端、部屋に駆け込み、扉を閉め、壁にもたれかかる。

 指で唇をなぞり、さっきまでの出来事を思い返す。


(デートとキスだけは、したくなかったのに)


 一線を越えると、勘違いしてしまいそうで、怖かった。

 でも、何もかも遅かった。


 ピロン♪


 スマホからメッセージの通知が届いた。


 アプリを開いて、届いたメッセージを確認する。


 「……隼人くん、先に帰ったんだね。後でちゃんと謝らないと」


 室星先輩からも通話履歴とメッセージが数件届いていた。

 しかし私はそれを開くことはなく、迷わず彼の連絡先をブロックした。


 美弥とのチャットルームを開き、内容を確認する。


『今日はどうだった? いい誕生日の思い出できた?』


(そういえば今日、元々美弥と一緒に誕生日を祝う約束だったな)


 私しかいない部屋の中で、私は小さく呟く。


 「——最悪な誕生日だったよ」


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