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先輩の溺愛は強引すぎる!  作者: シン


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11/12

エピローグ かわいいの真相

 室星先輩の勢いに押されて、思わずお付き合いを承諾したその日。

 私は部活の後、数日ぶりに部室の扉を開いた。


 その中には室星先輩の姿があり、彼は私を見た瞬間、目を輝かせながら手を広げた。

 「おいで、ゆうちゃん」


 私は反射的に中へ入り、先輩に近づいていく。

 そして先輩に手を掴まれ、いつも通り抱き寄せられそうになる瞬間。


 「——ちょっと待ってください。先輩にお話があります!」

 「……お話?」


 私がそう切り出すと、先輩はきょとんと目を丸くした。


 そう、私は勢いに押されて、つい先輩のカノジョになることを承諾してしまったから、色々すっ飛ばしている。

 その色々を、今はっきりさせたい。


 そう思いながら、いつの間にか私の背中に先輩の手を回され、抱き寄せられ、膝の上に乗せられてしまった。


 「……あの、先輩? 話聞いてました?」

 「うん、聞いているよ。お話があるんだよね?」


 そう言っている間も、先輩の私の頭を撫でる手が止まらない。

 この態勢のまま話せってことだろう。


 この態勢では、いまいち締まらない気がするけど、先輩の前では何を言っても無駄だろう。

 そう思い、私はこのまま話を切り出した。


 「——さっきは思わず了承してしまいましたが、お付き合いする前に踏むべき手順があると思います!」

 「うん。それで?」


 先輩は微笑み、頭を撫でながら、私の言葉を待つ。

 私は先輩と目線を合わせて、深呼吸をする。


 「先輩の過去の関係は知りませんが、恋人というのは好き合っている者同士で成立する関係だと思います」

 「そうだね」

 「でも、私……正直、好きって感情がよくわからないです。本当に、先輩に恋愛感情を抱いているかどうかも」


 先輩の反応が怖くて、視線を逸らす。

 私の頭を撫でる先輩の手は、ピタと止み、しばらくすると私の頬に添えられ、軽く上に向かせる。

 先輩は珍しく真剣な目で、私を見つめる。


 「ゆうちゃんは俺のこと、嫌い?」

 「嫌い……というわけではないと思います。マイペースな人だな、とはいつも思いますが、先輩に触れられるのは、嫌いじゃないです……恥ずかしいですが」


 言葉が続くにつれ、頬が熱くなっていく。

 (うう……今、絶対顔が赤くなっている)


 「——かわいい」


 そんな私の顔を見て、先輩はうっとりと熱がこもった目で私を見つめながら、頬に口づけた。


 「っ! 先輩、今、真面目な話を——」

 「んっ、分かっているよ。ゆうちゃんは俺への好きの気持ちを自覚していないって話でしょう」

 「……なぜこんなに前向きに解釈できるんですか?」

 「ん? だって——」


 先輩は私に額を合わせる。先輩の瞳が間近から真っ直ぐ私を見つめ、恥ずかしさで頬から熱が伝わっていく。


 「俺がいる限り、ゆうちゃんには他の男を見ている暇をあげないから、最終的に俺しか好きになれないでしょう?」


 何やらとんでもないことを言われた気がするけど、それより顔が近すぎて頭がまともに回らない。


 「あの、先輩っ……顔が、近すぎ——」

 「大丈夫、ゆうちゃんが好きって言ってくれるまでちゃんと待つよ。でも……」


 先輩は私の手を取り、にぎにぎしてから、指をゆっくり絡ませていく。


 「俺、ゆうちゃんのことになると、気が短くなるみたいだから、なるべく早く好きって言ってもらえるように俺が頑張るよ。だから、ゆうちゃんも頑張って♡」

 「が、頑張ります……?」


 何をどう頑張ればいいのかわからないけど、とりあえず返事をする。

 そうしたら先輩は満足したかのように笑い、そのまま軽く私の唇に触れるようにキスをする。


 「んっ……あ、そうだ。ゆうちゃん、これあげる」


 先輩はポケットから包装された箱を取り出し、私の手に乗せる。


 「……これは?」

 「開けてみて」


 私は言われた通り、包装を解き、箱を開ける。

 その中には、花のモチーフをしたイヤリングがあった。花の真ん中にはめられたピンクの石が光を反射して、キラキラと輝いていた。


 「ちょっと遅くなったけど、誕生日プレゼントだよ」

 「……私、先輩に誕生日教えましたっけ?」

 「ない。だから春翔の口から知った時はショックだったよ。ゆうちゃんの誕生日を祝いたかったのに」


 先輩は拗ねたように口を尖らせる。

 私は先週のことをよく思い返す。


(あの時の先輩って、もしかして——)


 「先週、先輩がしつこく私の土曜日の予定を聞いてきたのって、私の誕生日を祝いたいから?」

 「そうだよ。それなのにゆうちゃんは、俺を置き去りにして、他の男とデートなんかしたりして……思い出しただけでムカついてくる」


 そう言って、先輩は一気に抱きしめる力を強める。


 「ねえ、あの時鈴木くんとは何をしたの?」

 「えっ? えーと、商店街を回って、カフェで軽食を食べて、映画を観に行きました」

 「ふーん。楽しかった?」

 「……楽しかったです」


 多分先輩の望む解答としては不正解だろうけど、嘘をつきたくないと思い、素直に答える。


 「そう……今週末、俺とデートして?」

 「えっ」

 「それで、鈴木くんと出かけた時の水色のワンピースを着て来て。同じところを回るよ」


 私はしばらく、思考を巡らせた。

(まあ、一応今は先輩と付き合っているし、断る理由もない……かも?)


 「いいんですけど、なんで同じところに?」

 「同じところを回って、鈴木くんの時よりゆうちゃんを楽しませて、思い出を上書きする。水色のワンピースを見るたびに鈴木くんを思い出されたくないからね」


 先輩は目の奥をぎらつかせる。

 そこからわずかな圧を感じた。


 「あと……ゆうちゃんに二度と、俺といる時は楽しくないって言わせたくない」

 「先輩、私の言ったこと、根に持っています?」

 「持っているよ。今でも思い出すたびにいらだつ」


 隼人くんと差し入れを運んでいる時のことを先輩に目撃され、先輩と隼人くん、どっちと一緒にいた方が楽しいって聞かれた。

 比べるようなことでもないけど、私は素直に、先輩といるのは楽しくないって答えてしまった。


(あの時、先輩の雰囲気が怖かったから、聞かれたことしか答えられなかったけど……)


 「その……楽しくないって言うのは、楽しさより緊張が勝つからっていうか——」


 そう言うと、さっきまで尖っていた先輩の口角が、ニヤリと吊り上がった。


 「へー、つまりゆうちゃん、かなり俺のことを意識しているってこと?」

 「それはっ! 異性とこんなに距離が近かったら、誰でも——」

 「俺以外とでも?」


 先輩は私の耳元で囁く。


 「っ! ……そ、それにあの時! 先輩は彩陽先輩とも付き合っていますし。その罪悪感も強かったっていうか」


 私はくすぐったさから逃れようと、先輩の胸元を軽く押した。


 「あー……ゆうちゃん、かなり気にしていたよね。俺と彩陽は本当に半分遊びで付き合っているだけで、お互いも別に特別な感情を抱いていなかったよ」

 「……そうなんですか」


(先輩は特別な感情を抱いていないとしても、付き合えるんだ)


 そう考えると、少しモヤモヤする。


 私は先輩のシャツを掴み、彼の顔を見上げる。


 「……私は? 先輩は私のことが……す、好き、ですよね……?」


 恥ずかしさを必死に抑えながら、心に浮かんだ疑問を口に出す。

 先輩は息を呑んだようだけど、すぐにはにかむように微笑んだ。


 「——さあ、ゆうちゃんはどう思う?」

 「……どう思うって?」

 「ゆうちゃんが好かれているって感じたら、そうかもしれないし、そう感じられなかったら、そうじゃないかもしれない」

 「……先輩は思ったより意地悪です」


 (普段の先輩のスキンシップから、好かれているって考えたいけど……先輩は恋愛経験豊富だから、誰にでも同じように接しているかもしれない)


 素直に答えてくれない先輩に対して、私はモヤモヤしながら、下校時間ぎりぎりまでこのことについて考えていた。


 * * *


 室星先輩と付き合い始めた次の日、私は学校の裏庭で美弥と昼ご飯を食べながら、このことを報告していた。


 「へー、意外かも。優、本当に室星先輩と付き合っちゃうんだ」

 「うん……」

 「その割には、浮かない顔をしているね」


 私が曖昧に返事をしていると、美弥は弁当を頬張りながら私を覗いてきた。

 かく言う私は、未だ先輩の考えが分からず、この関係に納得できていない節がある。


 「……私、本当に室星先輩に好かれているのか、いまいち確信できていないの」

 「ふーん。あんなにかわいいって言われているのに?」

 「室星先輩なら、誰彼構わずかわいいって言ってそうじゃん」

 「確かに」


 肉団子を口に含み、甘酸っぱい肉汁を堪能しながら、私は思いを馳せる。


 「そもそも先輩はいつから、私に興味を持ったのだろう」

 「結構初対面から絡まれてたよね?」

 「流石にあの時はただのからかい相手として絡まれたと思うんだよね」

 「あー……言われてみれば、そんな気がしなくもない……」


 「——なに? 誰の話?」


 私と美弥が共に首を傾げていると、後ろから先輩の悠々とした声が聞こえてきた。


 「っ!」

 「あっ、今日も玉子焼きあるね」


 先輩は後ろから手を伸ばし、フォークを私の手を掴んで、玉子焼きを刺した。

 そして、自分の口に運んだ。


 「あーん……ん~今度はちゃんと甘い玉子焼きだね」

 「せっ、室星先輩! いきなりなにを——」

 「颯真」


 先輩はベンチの後ろから私と美弥の間に頭を割り込み、私に顔を近づける。

 「颯真って呼んで」

 「——~!」


 美弥の前で顔を近づけられ、恥ずかしさで顔から火が吹きそうになる。

 そんな私の声なき悲鳴に気づいてくれたのか、誰かが後ろから先輩を後ろへ引っ張った。


 「こら、颯真。人前で彼女に絡まない」

 「えー、せっかく付き合ったのに、人前でイチャイチャしたーい」

 「お前な……」

 「春翔もイチャイチャしてていいよ」

 「しない。お前じゃあるまいし」


 そんなやりとりをしている二人に、私と美弥は気まずく目を合わせた。


 「……春翔先輩たちはなんでここに?」

 「ついさっき先生に呼び出されてな、その帰りのついでに散歩で遠回りしてみた」

 「あわよくばゆうちゃんに会えるかもって思ってたよ」


 美弥と部長がお話していると、室星先輩が後ろから私に抱きついてきた。

 「っ!」

 付き合ったばかりの事実と、美弥と部長が前にいる状況に緊張し、体がガチガチに強張る。


 「あっ、耳が赤い、かわいい」

 そんな私の気持ちに気づいてくれず、先輩は二人の前で私をからかい出す。


(うう……穴があったら入りたい——)


 「おーい、室星! 先生が呼んでんぞー!」


 突然遠くから室星先輩を呼ぶ声が響き、そちらを見ていると男子生徒と先生がこちらを見ていた。


 「また!? せっかくゆうちゃんに会えたのに……」

 「先輩、早く行ってあげてください。大事な用かもしれないですよ」

(じゃないと私が恥ずかしさで死にそう!)


 「えー、じゃあ行ってくるよ。ここで待っててね」

 そう言って、室星先輩は先生のところに行った。


 「宇佐野さんも大変だな」

 「はい……毎日振り回されています」


 部長から労いの言葉をかけられ、わずかにホッとした。


 「でも優、まだ不安だよね」

 「そうなのか? 確かに颯真は女性関係がだらしなかったから、気持ちはわかるが……」

 「いいえ、そこではなく——」


(室星先輩の女性関係に思うところがあるのは事実だけど)


 「優、好かれている実感がないんだって。あんなにかわいいって言われているのに」

 「だって、誰でもそう言ってそうな気がして」


 美弥が私の代わりに悩みを打ち明けると、部長は考える素振りを見せた。


 「……いや、颯真は滅多にかわいいって言わないぞ」

 「……えっ?」


 私と美弥は目をまん丸にして、部長を見つめる。


 「俺の知る限り、あいつ、元カノにも芸能人にも滅多にかわいいって言わないんだ。それで元カノと喧嘩になって別れたことがあるって聞いたぞ」


 あまりにも衝撃的な事実に、私は唖然としてしまった。

 代わりに美弥が、私が思ったことを口にしてくれた。


 「そうなの! あんなにいろんな女の子と付き合ってたのに?」

 「そうらしい。俺も気になって、なんでカノジョたちに言ってあげないって聞いたことがあるが、その時あいつは——」


『だって、思ってないのに言えないでしょう』


 部長の言葉と私の中の先輩の人物像が乖離しすぎて、頭がカオスになってきた。


(女の子にかわいいって言わない??? あの先輩が???)


 「俺が唯一聞いた『かわいい』は、うちの猫に対してだったな」

 「ムギちゃんのこと? 確かにかわいいけど。なんか、意外すぎる……あっ!」


 ここで美弥は何かを思いついたかのように、大きな声を上げた。


 「ねえねえ、優。私、思ったけどさ、もしかして——」


 美弥は私に耳打ちをする。

 彼女の言葉を聞いて、私はざーっと、顔が熱くなった。

(えっ!? だって、そんな、それって、つまり——)


 「ねえ、美弥ちゃん。たとえ友達でも、俺のゆうちゃんにこんなかわいい顔をさせちゃダメだよ」

 「きゃー、すみませーん」


 いつの間にか戻ってきた室星先輩は、再び後ろから私に抱きついた。

 先輩の言葉を聞いて、美弥はニヤニヤしながら野次馬のように悲鳴を上げた。


 私はすでにいっぱいいっぱいだった。


 「美弥、俺は先に戻るよ」

 「うん! 放課後にまた!」


 部長は美弥にあいさつし、室星先輩の肩を掴む。


 「ほら、行くぞ」

 「えー、ついさっき戻ってきたのに——」


 先輩はブツブツと不満を口にしながら、ゆっくり私から離れた。

 私は顔にわずかな熱さを残したまま、目で先輩の姿を追った。


 「じゃあね、ゆうちゃん。放課後は一緒に帰ろうね」


 頭の中に、美弥の言葉が繰り返しこだまする。


 「今日もゆうちゃんは、世界一かわいいよ」

『室星先輩にとって、かわいいは好きと同義かも』

ここで、優ちゃんと颯真先輩の物語が完結しました!

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

今後はいろんなシチュエーションで番外編を書こうかと考えています。

その際も読んでいただけると嬉しいです。


リアクション・ブックマーク・コメントをいただければ、大変執筆の励みになります。

今後ともよろしくお願いいたします!

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