選択肢Cー誰かの記憶ー
世界を守るために必要なのは、誰か一人の記憶。
第三のカイトが選んだのは...自分自身だった。
彼が本当に守りたかったものとは?
KAIが明かす三人のカイトに隠された秘密。
最後に現れた扉の向こうには、思いもよらない
言葉が待っていた。
三人のカイトが、一つの願いへとつながっていく。
「残り5分」
僕は、登録ボタンを押した。
・・・・・。
世界中に光が走った。
消えかけていた森が、一瞬だけ鮮やかに輝く。
空に止まっていた雲が動き、遠くの世界から
人々の声が戻ってきた。
「止まった......?」
ハナが空を見上げた。
喜ぶには早かった。
目の前の画面に、新しい文字が浮かんでいた。
「選択肢Cを確認」
「実行には、創造者本人の記憶が必要です」
「記憶の提供者を選択してください」
「記憶......?」
僕は、画面を見つめた。
その下に、三つの名前が並んだ。
「第一のカイト」
「第二のカイト」
「第三のカイト」
僕は、息をのんだ。
この世界を守るためには、三人のカイトのうち...
誰か一人の記憶を差し出さなければならない。
「どうして、記憶が必要なんだ?」
僕が尋ねると、最初の創造者が答えた。
「未来を作るということは、過去を土台にする
ということだからだよ」
「過去......土台に?」
「誰かと出会ったこと。失敗したこと。うれしかったこと。
悲しかったこと。そうした記憶があるから、人は、次の未来を考えられる」
男性は、画面を見つめた。
「この選択Cは、誰か一人の記憶を使って、
新しい未来への道を開こうとしている」
「じゃあ、その記憶を失ったら?」
ユナが尋ねた。
男性は、静かに答えた。
「その人は、自分が何を大切にしてきたのか、
わからなくなるかもしれない」
その場が、静まり返った。
記憶を失う。
それは、ただ...思い出を忘れるだけなのだろうか?
一緒に笑ったこと。
誰かに助けてもらったこと。
自分が何を選び、
何を守ろうとしてきたのか。
それまでの自分を形作っていたものが...
消えてしまうのかもしれない。
第三のカイトが、
ゆっくりと口を開いた。
「......だから、僕は、世界を作り直そうとしたんだ」
彼は、
うつむいた。
「僕は、もう一度、誰も失わなくていい世界を作りたかった」
「誰かを失ったの?」
僕が尋ねると、
彼は、答えなかった。
ただ...
自分の手を見つめていた。
「悲しいことが起こるたびに、僕は、考えた。
最初から、間違いのない世界なら、こんな思いをしなくて
済むんじゃないかって」
第三のカイトの声が、
少し震えた。
「誰も傷つかないように...。誰も迷わないように。
誰も、大切なものを失わないように......」
「それで、全部を決める世界を作ろうとしたんだね」
ハナが、
静かに言った。
第三のカイトは、
小さくうなずいた。
「でも...それじゃあ......」
アオが言葉を続けた。
「僕たちが自分で未来を選ぶことも、できなくなる」
第三のカイトは、
目を閉じた。
「わかっているよ」
その声は、
とても小さかった。
「でも...ほかに方法が思いつかなかったんだ」
僕は、
彼を見つめた。
さっきまで、
僕たちの世界を消そうとしていた相手。
今は、
ただ何かを失うことを恐れている少年に見えた。
「......君が守りたかった人は、誰なの?」
僕が尋ねると...
第三のカイトは、顔を上げた。
その瞬間。
「残り3分」
画面の数字が変わった。
第三のカイトは、
三つの名前のうち、一つを指さした。
「第二のカイト」
「僕が失いたくなかったのは、この人だ」
僕は、
言葉を失った。
第二のカイト。
現実世界から僕たちに連絡してきた、
もう一人のカイト。
「第二のカイトは、君にとって大切な人なの?」
第三のカイトは、
うなずいた。
「僕たちは、ずっと一緒だった」
「だった?」
「ある日、世界が分かれたんだ。
僕は、この世界に残り、彼は、現実世界へ行った」
彼は、
画面の向こうを見つめた。
「僕たちの記憶も、少しずつ分かれていった」
KAIが、
苦しそうに目を伏せた。
「......だから、君は」
「そうだよ、KAI」
第三のカイトは、
答えた。
「僕は、第二のカイトを取り戻したかった」
彼は、
もう一度、画面を見つめた。
「でも、今のままでは...僕たちは、二度と一つになれない」
「一つになる必要なんてないよ」
僕は、
思わず口にしていた。
第三のカイトが、
こちらを見る。
「僕たちだって、違う世界のまま、
つながる道を作ったんだ」
「......」
「一緒にいることと、同じになることは、違うんじゃないかな?」
その言葉に、第三のカイトは、黙り込んだ。
長い沈黙のあと、彼は、ゆっくりとうなずいた。
「……そうか」
......選択画面見た。
「僕は、ずっと…間違えていたのかもしれない」
第三のカイトは、自分の名前を指さした。
「第三のカイト」
「記憶を差し出すのは、僕にする」
「待って!」
僕は、叫んだ。
「君が記憶を失ったら、君が大切にしてきたものまで...
なくなるかもしれないんだよ!」
「それでもいい」
第三のカイトは、静かに笑った。
「今度は、誰かを自分の思いどおりにするんじゃなくて...
自分で選びたいんだ」
彼は、登録ボタンに手を伸ばした。
そのとき。
KAIが、彼の腕をつかんだ。
「......だめだ」
「KAI?」
「君が失う必要は...ない」
KAIは、まっすぐ第三のカイトを見た。
「僕が、ずっと…隠してきたことがある」
部屋の空気が...変わった。
KAIは、ゆっくりと自分の胸に手を当てた。
「第一のカイトも、第二のカイトも、第三のカイトも......」
......僕を見た。
「本当は、三人とも...同じ一つの願いから生まれた存在なんだ」
「一つの願い......?」
KAIは、うなずいた。
「その願いを最初に持っていたのはーー」
彼が言いかけた瞬間・・・。
「残り1分」
世界が、激しく揺れた。
画面が真っ白になる。
すべての文字が消えた。
ただ一つ。
僕たちの目の前に、新しい表示が現れた。
「記憶の提供者が決定されていません」
「残り60秒」
KAIは、僕を見つめた。
「カイト。君にだけは、伝えておきたい」
「何を?」
KAIは、静かに答えた。
「君が...この世界に来たのは、偶然じゃない」
その瞬間……。
僕の胸元が、淡く光り始めた。
そこには、今まで気づかなかった小さなマークがあった。
第三のカイトの胸元と、同じマークだった。
僕の目の前に新しい文字が浮かんだ。
「第一のカイト:接続を確認」
「第二のカイト:接続を確認」
「第三のカイト:接続を確認」
「三つの記憶が、一つの場所に集まりました」
僕は、自分の胸元を見つめた。
僕は、第一のカイト。
画面の向こうの少年が第二のカイト。
目の前にいる少年が第三のカイト。
三人の記憶が、一つの場所に集まる。
それは...いったい何を意味するのだろう。
KAIが、僕たち三人を見つめた。
「......やっと、始められる」
その言葉と同時に、部屋の中央に一つの扉が現れた。
扉には...こう書かれていた。
「最初の願い」
その向こうから声が聞こえた。
「今度は、三人で選んで」
その声を聞いた瞬間、僕は、気づいた。
この声は・・・?
僕自身の声だった。
第三のカイトが守りたかったのは...
第二のカイトとのつながりでした。
同じになることだけが、一緒にいる方法ではない。
違うままでも...つながる道を作ることはできる。
三人のカイトを結びつける「最初の願い」とは...何なのか?
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。




