その感情の名前はー未登録の感情
自由な世界なのに、まだ分からないものがある。
それはーー
自分の心。
カイトとハナは、初めて出会った
「名前のない感情」と向き合うことになる。
その感情に、名前をつけるとしたら……?
「…これ、何?」
ハナが僕の端末をのぞき込んだ。
画面には、さっきと同じ文字が表示されている。
ーー「警告」
ーー「未登録の感情反応を確認」
「感情反応って…」
「僕にも分からない」
「この世界のAIが、分からないことなんてあるの?」
「…ないと思う」
僕たちは、顔を見合わせた。
しばらくして、ハナが小さく笑った。
「じゃあ、すごいことじゃない?」
「なんで?」
「だって、私たちが初めてなんでしょ?」
「…そうなのかな」
僕は、もう一度、画面を見る。
通知は、消えていた。
「まあ、いいか」
「いいの?」
「せっかく海に来たんだし」
「そうだね」
二人で砂浜を歩き始めた。
「ねえ、ハルト」
「なに?」
「さっき言ってたよね」
「何を?」
「一緒に、やりたいことを探してみようって」
「うん」
「じゃあ、今日は何をする?」
「それを今から考える」
「決めてないの?」
「決めてない」
「ふふっ」
ハナが笑った。
「なんか変なの」
「そう?」
「だって、何でもできる世界なのに、
何をするか決めるのが一番難しいんだもん」
「…確かに」
僕たちは、砂浜に座った。
昔の世界では、学校へ行って、勉強して。
大人になったら会社へ行って。
決められた時間に、決められた場所へ行く。
そんな暮らしが普通だったらしい。
でも、今は違う。
何をするかは、自分で決める。
だからこそーー
「自由って、難しいね」
ハナがつぶやいた。
「うん」
その言葉を聞いた瞬間。
僕の端末が、また震えた。
ーー「感情反応を検知」
ーー「対象:ハナ」
「…また?」
ハナが画面を見る。
すると、
今度は、違う文字が表示された。
ーー「感情データ:検索不能」
「検索…不能?」
僕は、思わず立ち上がった。
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
「この世界のAIは、人の感情を全部理解してるはずなんだ」
「うん」
「なのに、ハナの感情だけ分からない」
ハナは黙った。
そして、
海を見つめる。
「…もしかしたら」
「うん?」
「私、自分でも分かってないのかも」
「何が?」
「今、何を感じてるのか」
風が吹いた。
波の音が、静かに聞こえる。
僕は、ハナの横顔を見た。
なぜか、
胸が少しだけ苦しくなった。
その瞬間。
端末に新しい表示が出た。
ーー「新規感情を確認」
ーー「名称:恋」
「………………」
「………………」
二人とも、固まった。
「え?」
ハナが僕を見る。
「…これ、誰の感情?」
僕は、答えられなかった。
ただーー
なぜか、顔が熱くなっていた。
何でもAIが分かってくれる世界で、たったひとつ、
検索できない感情がありました。
それが「恋」なのか。
それとも、
まだ二人にも分からない別の気持ちなのか。
カイトとハナは、これから少しずつ自分たちの心を、
知っていくことになります。
二人の距離がどう変わっていくのか。
そして、
この世界に隠された秘密とはーー。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




