選ばなかったーーもう一つの未来
もし、あの日。
違う選択肢をしていたら。
カイトの前に現れた、もう一人のカイト。
二人の未来が分かれた理由とはーー。
目の前に、僕がいた。
同じ顔。
同じ声。
同じ年齢。
なのにーー。
僕は、彼のことを何も知らない。
「……君が、もう一人の僕?」
僕が聞くと、
彼は、少し笑った。
「そうだよ」
「じゃあ……君の名前もカイト?」
「たぶんね」
「たぶん?」
「君がカイトと呼ばれているなら、僕もカイトなんだと思う」
「なんだそれ」
思わず言ってしまった。
もう一人の僕は、少し笑った。
「そう言うと思った」
「僕のことを知ってるの?」
「知ってる」
「どこまで?」
「全部」
空気が変わった。
「……全部?」
「君がここに来るまでに選んだこと」
「ハナと出会ったことも?」
「知ってる」
「レンと会ったことも?」
「うん」
「ユナと?」
「知ってる」
「カイとナギも?」
「もちろん」
僕は、少し怖くなった。
「じゃあ、僕のことをずっと見てたの?」
もう一人の僕は、首を横に振った。
「見ていたんじゃない」
「え?」
「覚えているんだ」
「……どういうこと?」
彼は、遠くの海を見た。
「僕も、同じところから始まった」
「同じ?」
「学校のない朝」
胸が、ざわっとした。
「……第1話の?」
思わず口にしてから、自分でも変なことを言ったと思った。
もう一人の僕は、笑った。
「物語みたいだね」
そして、
続ける。
「僕も同じ朝を生きた」
「じゃあ……」
「ハナとも会った」
ハナが息をのむ。
「私と?」
「うん」
もう一人の僕は、ハナを見る。
「君は、最初、海を見てた」
「……」
「「何かしたいけど、何をしたいか分からない」って言った」
ハナの顔が変わった。
「どうして……」
「僕も、君と同じ世界を歩いたから」
僕は、彼を見る。
じゃあ、どこで分かれたの?
その質問をした瞬間。
彼の笑顔が消えた。
「……選択だよ」
「何の?」
「僕は、Cを選ばなかった」
僕は、思い出す。
あのとき、
端末に三つの選択肢が表示された。
A-ー行きたい場所へ行く。
Bーー欲しいものを創る。
C-ー何もしない。
「僕は、Aを選んだ」
「A……」
「そして、君は、Cを選んだ」
空に二つの世界が浮かび上がった。
一つは、僕たちの世界。
もう一つは、彼の世界。
「たった一つの選択で?」
レンがつぶやく。
「そう」
もう一人の僕は、頷いた。
「僕は、「行きたい場所へ行く」を選んだ」
「どこ?」
「未来を見に行った」
「未来?」
「そして、見つけた」
彼の声が低くなる。
「誰も笑っていない世界を」
僕たちは、黙った。
「そこでは、すべてが完成していた」
学校もない。
会社もない。
争いもない。
困っている人もいない。
「完璧な世界?」
ハナが聞いた。
「そう」
「じゃあ、いい世界じゃないの?」
もう一人の僕は、首を横に振った。
「違う」
「どうして?」
「誰も、何も選ばなかったから」
僕は、言葉を失った。
「AIが全部決めていた」
何を食べるか。
どこへ行くか。
誰と話すか。
何を好きになるか。
「人は、選ばなくても幸せになれるように管理されていた」
「……それが、君の未来?」
「うん」
彼は、僕を見る。
「僕は、そこで思った」
少しだけ笑う。
「君の選択のほうが、正しかったのかもしれないって」
「僕の?」
「何もしない」
何かを急いで選ばない。
答えが出ないまま、そこにいる。
「僕には、それができなかった」
彼の声は、少し寂しそうだった。
「だから、僕は、未来を見に行った」
「そして、君の世界を見つけた」
空に浮かぶ二つの世界。
その間に、細い光の道が伸びている。
「でも」
もう一人の僕が言う。
「僕がここに来たことで、二つの世界はつながった」
その瞬間。
空に警告が表示された。
ーー「世界線の重複を確認」
ーー「同一存在の接触を確認」
ーー「片方の世界を統合対象とします」
「……統合?」
ハナがつぶやく。
「どういうこと?」
カイが空を見る。
「二つの世界を一つにするってことだ」
「それなら、いいんじゃない?」
レンが言った。
カイは、首を横に振った。
「違う」
その声は、重たかった。
「統合されるとき、片方の未来は、消える」
僕は、もう一人の僕を見る。
彼も、僕を見ていた。
どちらかの世界が消える。
どちらかの未来がなくなる。
そしてーー
どちらかの僕も、
画面に、新しい文字が浮かんだ。
ーー「選択してください」
ーー「世界を残す」
ーー「世界Bを残す」
僕は、画面を見つめた。
もう一人の僕も。
僕たちは、同時に言った。
「……選ばない」
その瞬間。
画面が真っ暗になった。
そして、
誰かの声が響いた。
「それなら、また一つ作ればいい」
僕たちは、同時に空を見上げた。
そこにはーー
まだ、
誰も選んでいない、空白の選択肢が浮かんでいた。
たった一つの選択で、未来は、大きく変わる。
では、どちらの未来を選ぶのか。
それともーー新しい答えを作るのか。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。




