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第15話 魔王のやり方2

「上手くいかなかったなあ……」


「人族を従えるのは中々難しいのですね……」


 伯爵との話し合いが終わり、レイとシルヴィは反省会だ。結局レイの出した要求は一つも受け入れられず、簡単に言えば交渉決裂という形で終わってしまった。


「魔王というのは偉大だと改めて感じました」


 上手くいかなかった理由は大きく分けて二つだ。


 まず、レイが魔王でなかったこと。レイは魔族にしては交渉ができたのは間違いないが、背後に魔王の絶大な武力と、レイが実現していた平和という実績があってこそだった。

 今までは対等か、レイの庇護下の相手に交渉していたが、今回は魔王の威光が届くはずもない、上位者である父が相手だ。すんなり進むはずもない。


 二つ目は事前準備が何もなかったこと。交渉は両方の陣営に一定の納得感がないとまとまらない。今までは上奏なり、配下が調べるなりで下準備をして、お互いがある程度納得できるように進めるのがレイのやり方だったが、今回はクラリスとシルヴィの意見を聞いただけで進めた。反発があるのは当然である。


 シルヴィがその辺りを説明するとレイも納得できた。


「仲間が少なくて、魔王でもないとこんなものなのか。自信なくすなぁ」


「使用人が全く味方してくれないのは意外でしたね」


 シルヴィの知っているざまぁシーンのモブたちは、正論を振りかざせばそちらに靡くものだ。そういった効果も狙って配置してみたのだが、あまり上手くいかなかった。


 使用人たちの内情はいろいろあった。

 レイの言っていることは正しいが、雇い主である伯爵を否定できないと沈黙する者。

 伯爵のイエスマンであり、それ以外の考えを完全に放棄してしまっている者。

 あとは暗殺騒動で徹夜で仕事をしていたのに、なぜ今関係ない話題を持ってくるのかと猜疑心を持つ者も。


「それで、向こうの反応はどんな感じだった?」


 顔色や態度で人族の判別ができないレイは、シルヴィに反応を探ってもらうために同席してもらった。シルヴィとて得意というわけではないが、レイよりは人族としての経験の蓄積がある。


「クラリス様の言っていることは全て正しいとみて間違いないです。伯爵も、昨日現場にいて眠らせた使用人もレイ様の言葉に焦っていました」


「父上がクラリスを第二夫人にしようとしているのは本当ってことかあ。それでクラリスと結婚した僕を暗殺しようとしたと」


「暗殺者の件は確実ではありませんが、レイ様が誰かに恨みを買うようなことは少ないはずですし、伯爵の可能性が高いとみてよいと思います」


 レイはため息をつく。


「僕は平穏に暮らしたいだけなんだけどなあ」


 魔族から見たときの人族の暮らしは平穏に見えた。個々の力は魔族に劣っても、協力して足りないところを補いながら上手くやっているように見えたのだ。

 だが実際には暗殺されかけたり話を聞いてもらえなかったり、人族には人族で平穏な暮らしを妨げる者が存在していることを知った。


「レイ様だけなら暗殺者など何とでもなるかと思いますが、このまま放置しているとクラリス様も危険でしょう」


「はぁ……。仕方ないか」


 力がモノをいう魔族は、全員が魔王に従っているというわけではない。魔王が介入したところで、必ずすべての問題が解決すると言うほど甘くはなかった。

 そのときのためにある、言わば『プランB』。レイはなるべく取らないようにしている手段。


「じゃあ、プチっとやってくるよ」


 武力行使である。


「お待ちください」


 だが、そこにシルヴィが待ったをかける。


「レイ様。人族にとって殺しはかなりの重罪です。伯爵が殺されたとなると調査が入って困ったことになるかもしれません。私に考えがあります」


 * * *


「くそっ! なんだあのレイの態度は! 父親に向かってふざけてやがる!」


 サマルグ伯爵は、朝のレイの態度に悪態をつく。生きているのも何故だか分からないし、伯爵のやっていることに難癖をつけているのだ。そもそも好みの女を自由にできないのに伯爵なんかやってられるか、というのが伯爵の弁だ。


「旦那様……やはりお戻りになられては……」


「なんだ、視察をとりやめろってか」


 サマルグ伯爵領の領民は、だいたいサマルグ伯爵の顔を知っている。なぜかと言うと視察の回数が異常に多いからだ。目的は女漁りで、領地が改善されることなどないのも領民の知るところだが、まあ来たらある程度お金を落とすので来てくれる分にはありがたい。


「しかし、あのようなことがあった後ですし……」


「文句ばっかりだな。クビになりたいのか?」


 息子が暗殺されかけた翌日に、女漁りの視察にいくのはどうかと執事長がたしなめるが伯爵は聞く耳を持たない。


 伯爵が一番癪に障っているのは愛人を追い出せと言われたことだ。

 伯爵にとっては気に入っている愛人を屋敷に住ませるのは当然の権利だと思っているし、シルヴィが戻ってきたことで肩身の狭い思いをさせて申し訳ないと思っている。視察に出たのは、愛人のことで指図される謂れはないという、当てつけのようなものだ。


「わああ!」


「危ない!」


 その時、外から悲鳴が聞こえてきた。それ以外にも何かが砕けるような音や風を切る音が聞こえてくる。


「なんだ! 襲撃か!」


「い、石です」


「石だと!?」


 馬車の外は大変なことになっていた。

 空から大量の石ころが雨のように降り注いでいる。()()()に人には当たっていないが、これでは護衛がいてもどうしようもない。


「落石か? そんな危険な道だった記憶はないぞ!」


「ええ、私もです……」


 馬車の中にいる伯爵と執事長。落ち着かないが、まあ外に出ては危険だということは分かる。この道は伯爵が視察に出る時は良く通る道だ。危険な道ならあえて選んだりはしないはずだった。


「まあ、馬車の中にいれば安全だぐわぁ!」


 しかし一際大きな破裂音が響き、馬車が大きく揺れる。拳サイズの大きな石が馬車にぶつかり、屋根を貫通していた。


「あ、あぶねええええぇ!」


 急いで、馬車の中を屋根のある場所に移動しようとした伯爵だが。


「があ!」


 人の顔程ある大きな岩が、屋根を貫通して伯爵に直撃した。


「ぎゃああああ!」


 執事長の悲鳴が響く。伯爵は岩が背中に直撃し、そのまま重要な臓器もろとも潰されていた。


 少しして、落石の勢いが徐々に弱まり、完全になくなった。いつ降ってくるか分からないと、なんとか形の残った馬車を護衛が押して落石地帯を抜けたが、すでに伯爵はこと切れていた。

 視察中に不運な落石事故に見舞われた、なんともあっけない最期であった。



「ふぅ……こんなに狙いを定めて《メテオ》を使うのは初めてだったよ。さすがに疲れるなあ」


「やはりレイ様の魔術の精度は神がかっていますね。伯爵(ターゲット)以外に大きな怪我はなさそうです」


 それを上から見ている二人組がいた。

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