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8話 ノーマルスキル?

「コボルトアーチャー……だっけ? 随分と仰々しい見た目ね。どこがアーチャーなのかはわからないけど」

「遠距離攻撃だからってだけが根拠だと思うが……そんなのはもうどうだっていい。敵がもっと強くなってくれた。それがわかるだけで興奮してこないか?」

「そんなのあんただけよ。いい? 『前』は全部任せたから」

「安心しろ。最初からそのつもりだ」



 桜屋の娘からgoサインが出ると、俺は進化個体……コボルトアーチャー目掛けて走り出した。



「くっ、ふふ……わおおおおおおおおおおおおん!!」



 ――パンパンパン!!!



 それを見たコボルトアーチャーは嬉しそうに何度も手を叩いて先ほどまでと同様に空気弾を打ち出した。


 色やら形やらは相変わらずないのだが、あまりにも威力が高いせいで土や石が巻き上がってなんとなくの位置がわかる。


 回避しやすくなったという点は弱体化とも言えるが、それを補うだけの速度アップにより結局のところ回避が難しくなっているようだ。



 ――パン!!



「つっ! ふふ……そもそも俺は避けるつもりはないんだがな」


 真正面から突っ込みみわざと空気弾に当たりに行く。


 着弾した時の轟音は広く響き、走る際に前で振っていた腕はその勢いで後ろに吹っ飛ばされた。


 勢いよくやられてしまったもんだから肩にまでダメージを負った。



 そう……ダメージを負うことができたのだ。



「くふ……」



 それがうれしくなって俺はさらに近くへ進み出る。


 熱い、熱い熱い……気持ちがいい!!



 腹、腕、脚、次々に空気弾は俺の身体に打ち込まれ、俺は笑いが止まらなくなる。貪欲になる。



「全部……よこせ、ください!! 支払うから、身体で!!」


 ――すっ……。

 ――じゅる。


 俺は懇願しながら小刀で首のあたりを斬った。


 すると太い血管が傷ついたのだろう、今までよりも派手に血が流れ始めた。


 さすがにやりすぎてしまったのか、少しふらふらとするが……コボルトアーチャーの食欲は増進させてやることができたようで、舌舐めずりの大きな音が俺の元まで聞こえてきた。


 そしてそれを皮切りにコボルトアーチャーの行動は変化。

 そのあたりに転がっていたコボルトの死体からたっぷりと血をすくい上げ、それを両手でぎゅっと握りしめたのだ。



 ――パシュ!!



 風を切る音まで変わり、まるで針のように尖った血の弾丸が俺を刺す、貫く、切り裂く。


 どうやら俺のことを活きのいい間に料理してやろうというつもりなのだろう。


 通常の空気弾よりも気持ちがいい……だけど、その範囲は広く後ろにいるはずの桜屋の娘や和田さんんも当たりそうだ。


 もったいない。



「というか、全部って……言いましたよね?」

「がう!?」


 約束と違うそれに対してやや怒気を込めたその時、前方から飛んできていた血の弾丸が一つの大きい塊となった。


 そして、俺だけを目指してぶつかって……。



 ――ばしゃああああああああああああああああああんっ!!



 派手に弾けた。


 思っていた挙動をしてくれない血の弾丸にコボルトアーチャーは違和感と恐怖を感じたのか、そのまま何発も何発も攻撃を繰り出すが、そのすべてが俺の元に……。


 聞いたことがある、確かノーマルスキルの中でも比較的取得しやすいものに『デコイ』というものがあると。


 一定のダメージを受けること、一定のレベルを超えていること、これらの条件をクリアすることで取得ができるスキルで、パーティーを組み戦闘を行う際、一人はそのスキルを用いるとよい、というのが試験の参考書や問題集にも記載されていたか……。


 だが……その『デコイ』がここまでの効果を持っているなんて知らなかった。

 まさか敵の攻撃の軌道さえも操れるとは……。



『『――これは面白いのがいたもんだ』』



 正面の景色がすべて血で覆われた時、微かに二つの声が重なった。

 男性の声と女性の声……和田さんと桜屋の娘、ではない。



「今のって――」

「とった!!」


 唐突な声に気を取られていると、今度こそ知っている人間の声が聞こえてきた。

 だから俺は慌てて目にかかっていた血を払って先の光景を見ようとする。


 これだけの速度での移動、きっとおれと同じように桜屋の娘もノーマルスキルを……。



「が、あぁぁああ……」



 思考しながら目を開けると桜屋の娘の刀は確かにコボルトアーチャーの腕に当たっていた。


 当たっていたのだが、少し食い込んでいただけ。

 切断には到底及んでいない。


 大量の血によって相手の視界までも奪い、桜屋の娘が攻撃の間合いに入れたまではよかったが……コボルトアーチャーの防御力がこれほどまでとは考えていなかった。


 刃を止める筋肉、いや……だんだんと跳ね返しているようにさえ見えるぞ。



「まずい……一旦下が――」



 このままだとカウンターを食らうのは間違いない。


 そう思った俺は足を速めて、飛び込むようにして間に入ろうとした。


 しかし、その中黙っていた桜屋の娘がようやく口を開いた。



「――『下僕武器強化』」



 同時に刀は刀という武器種には似つかわしくない大きさに変化。

 さらにはコボルトアーチャーの筋肉の繊維を切断できるようにギザギザとした、のこぎりのような刃を見せたのだ。



 ――ぎこぎこ。



 そうしてコボルトアーチャーが反撃することもできないまま刀が数度前後すると、刃は骨までも簡単に切り裂き……ついにはその腕を切り落とした。



「――がああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 激痛がコボルトアーチャーを襲ったのだろう、その口からは絶叫が流れ……絶命。


 血で汚れた地面にはコボルトアーチャーの死体と膝をついた桜屋の娘、そして……。



「勝った……勝った勝った勝った――」

「ああ。だがすまん、止まれそうにない」

「は?」



 出血の影響もありおぼつかなくなっていた俺も、脚を止まることができずその中に加わったのだった。

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