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7話 至高の餌役

――ビリ!


 桜屋の娘が満足する仕事をこなすために、俺はまず着ていた服を引き裂いて上半身を生まれたままの状態にした。


「が!?」

「は?」


 すると突然のことにコボルトたちも桜屋の娘もぽかんと口を開け、間の抜けた声を漏らした。


 すでに隙ができたのだからすぐさま攻撃してほしいところだが……この行動の本線はこれではないからいいか。


「お前たちの大好きな血肉……ほら、そんな女なんかよりもうまそうだろ?」

「が、ああ……」


 攻撃を受けたところに手を当て血を拭い取ると、俺は胸から腹にかけて絵を描くように手を滑らせた。

 できるだけ淫靡に、コボルトの耳をくすぐるような声で。


「変、態……」

「こんな後輩嫌かも」


 桜屋の娘や少し遠いところにいた和田さんは口の端を下げて、引いてしまっているがコボルトたちはそうではない。


 ――ぼと、と……。


 というのも次の瞬間には明らかに呼吸を荒く変え、よだれを溢し始めたのだ。


 これは最初に血でおびき寄せた時と比べると、より大きい反応でありもはや催淫といってもいいくらいの効果。

 この様子だと仲間のコボルトが頭を粉砕されて殺されたことさえもう忘れていそうだ。


「が、あ……。ああっ!!」

「でも、これだけじゃ足りないよな。それにあんまり後ろを待たせてやるわけにもいかない。だからお前たちには俺を食い散らかしてもらうぞ」


 コボルトたちが我慢できずに再び襲い掛かってくるよりも先に、俺は小刀を取り出してコボルト……ではなく自分の身体にその刃を当てた。

 そしてすーっと自分の皮膚を切り裂き、力を込めた。


 そうすることで傷口からは血が流れ出て地面に垂れ始めた。


 先頭のコボルト数匹は俺の身体を直に舐め、2列目以降はこの垂れた血を舐める。


 さらに下品に歯牙をあてがって肉まで食ってしまおうとしてしまうことで、血はよだれと混じって飛沫。


 より奥のコボルトたちはこれを吸い込もうと必死になった。



 戦場……というより、コボルトたちからすれば俺という獲物を用いたパーティーみたいな感覚なのだろう。

 緊張感を持つものはその場から消えた。



「これでやりたい放題できるだろ?」

「……薄ら笑って気持ち悪い奴。コボルトになめられて自傷して、よがってんじゃないわよ。でも、結果は及第点ね」

「それはどーもっ――」


 ――ぼと。……ぷしっ!!



 大量の血を流しているっていうのに辛辣な言葉を吐いた桜屋の娘。


 その言葉に背筋がぞくりとするのを感じていると、桜屋の娘は自分の役目を遂行するべく刀を振った。

 


 飛沫する血を吸い込もうと胸を膨らませるコボルトたち、まずその中の2匹が即死。


 刎ねられたそれは地面に落ちて血が湧いた。



 しかしさっきまでとは違い、コボルトたちはそんなことお構いなしに血を舐めたり……邪魔だと言わんばかりに桜屋の娘にも視線を向けた。


 きっとご馳走を狙うライバルみたいに思って睨んでいるだけだから危険は薄いはず。


 とはいえ、桜屋の娘が暴れるほどその視線は集まってコボルトタイのフラストレーションは高まってしまうのではないだろうか。



 ――ぷしっ!! ぷしっ!! ぷしっ!! ぷしっ!! ぷしっ!! ぷしっ!!



「うふふ、あはははははははははははははははは!!! いい!! 捨てられた、けど……こんなに楽しいのは初めて!!」

「姉御……2号、か? うっ、胃がきりきりする」



 そんな俺の心配とは裏腹に桜屋の娘は危険な視線を向けたコボルトたちから順に首を刎ねていく。

 もうどっちがモンスターなのかもわからないその表情に和田さんは顔を引き攣らせ、俺は心を躍らせながらさらに自分を苛め抜く。


「ぐあ……。あがああああああああああ――」

「ほら、追加の餌だ」


 ついに桜屋の娘に抵抗すべく動き出そうとしたコボルトの前に血を撒く。

 そうするとコボルトは途端に地面に頭を落とし……首を刎ねられる。



 俺が血を流し、囮になって歩くだけでコボルトは近寄り、抱き着き、頭を下げ、首を刎ねられる。



 完全にパターンに入った俺たちは先輩探索者ではしえなかった蹂躙を開始したのだ。


「これ、最高」

「ああ。餌役ってのは悪くない。……それにしてもコボルトの攻撃を無効にしたこの身体でも自傷ができたのはよかった。ただ出血多量でもふらふらもしてくれないのはマイナスだが……」

「まったく、それのどこがマイナスなのよ。ドМ過ぎて心配になるわ」

「じゃあ一度休ませてくれるとでも?」

「……こんなに楽しい時間なのよ。休ませてなんて上げるわけないわ。……。それに私ね、なんだか今ならなんだってできそうなの。きっとあんたもそうじゃない?」


 一通りコボルトたちを片付けると、桜屋の娘は恍惚の表情で息を漏らした。


 そして質問にこれでもかと、求めているもので返しながらそっと俺の身体を撫でた。


「つっ!」

「傷口、染みるでしょ? でも、この辺り……あんたのその黒い痕がもっと濃くなってるのよ。きっとここが一番……この力の源になっているそれが取れるのね」

「黒い汚れはやっぱり俺の……」

「私は鑑定士じゃないから詳しいことはわからない。でも、この黒いのが私の中に染みていく度にね、強くなっているような気がするのよ。って、これ以上はとれないのかしら」


 桜屋の娘は傷口を強くこすった。


 そうすることで痛みが走り……あれだけの出血がぴたりと止まった。



「これって……」

「残念ながら回復しているようだな。それと俺も今のでなにか――」



 ――くちゅぺちょくちゅじゅるにちゅ。ごくん。……どんっ!!!



 自分たちの身体に起きた異常と感覚を触れ合い、確かめ合っている時だった。


 静観に徹していた進化個体が辺りに散った仲間の血肉を口いっぱいに頬張り、下品な食事音と通常では存在しないであろう筋肉の膨張音を鳴らし始めたのだ。

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