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15話 歓迎会

「――ここが私たちの本拠地となる探索者ギルド世田谷支部。当たり前だけどここも国が資金を出して運営してくれているわ」

「あっちの装備屋さん凄いイケてるのよ!最近の防具はお洒落から!あんたもそんな国がただでくれる生活ギリギリの服なんてさっさとやめちゃいなさい。というわけでまずは……」



「ギルド!」

「装備!」



 オンボロアパートから徒歩数分、そろそろ地区が変わるんじゃないかと思うくらいの距離を進むと、俺たちの前には豪邸がずらっと並ぶ通りが現れた。


 その中でも一際目立つギルドは他と比べても新しく、やけにデカい。


 死の区なんて言われながらいいところで仕事してるんじゃないか。


 モンスターの気配もなくて、他の家は今ではお店として利用されているのか幟が立っている。


 歩いてきたところに開いているスーパーもあったから、一先ずここでの暮らしは大丈夫そうだな。



「ただ……ビックリするくらい活気がない。いや、俺の前はうるさいんだけど」

「ねぇあなた、今なんて言ったの?」

「私のことうるさいって言った?変態のくせに」



 ポツリと呟くと、2人はぐるんと頭を動かして鋭い視線を俺にくれた。


 そしてその手は俺の腕を掴んで……胸が当たってしまった。



「……。真衣さんの勝ち、かな」

「ふふふ」

「? ……。あっ!? あんたって変態はどこまでも……」



「――朝からモテモテはいいけどさ、あんまり目立つのは良くないと思うぜ」



 真衣さんの微笑に視線を奪われながら千咲の拳骨を受け入れる。


 そんな楽しい楽しい朝の1ページに思わずにやけそうになっていると、俺が心配していたもう一人の人間が俺に話しかけてきた。



「和田さん……。聞いてはいましたけど、本当に生きていたんですね」

「おいおいおい堪平、ドМなのにドS発言すんのやめてくれよ。俺これでも先輩なんだぞ」



 俺の背中をポンと叩いて姿を見せてくれた和田さんは飛び切り明るい顔から渋い顔に変わった。


 なんというかこの人は不憫なほうが似合うような気がする。


「怪我、大丈夫ですか?」

「ああ、きついのをもらってはいるが受け身は間に合ってたからな。骨に入ったひびもポーションでほぼも元通り」

「薬でこんなに早く治るってやっぱりすごいですね。……でも高かいんですよね、それ」


 ポーション。

 このモンスターの現れた世界になってから生まれた強力な液体。


 正式名称は別にあるらしいが、その効果やファンタジーな要素を含む世界になってしまったことを受け一般にポーションと呼ばれるようになったらしい。


 ちなみに効果は瞬時に全回復……とまではいかないものの、自然治癒力を極限まで向上させて不治の病とされていたものまで直してしまったという事例があるほど。

 ただし、材料である『竜の牙』や『連命草』などは入手が非常に困難であり、大量生産の目途が立っていないという。


「……1つ50万。探索者保険が利いてるからまだいいけど、普通に手に入れようと思ったら……ぞっとしてしょうがないぜ」

「でも問題なく払えたのね。あんたのことだからそんなお金は貯めていないと思っていたわ」


 両手で自分の身体を包み込む和田さんを前に真衣さんは意外そうな顔をした。


 和田さん、見た目的に軽い感じだとは思っていたけど……イメージ通りお金の使い方も荒いっぽいな。


 千咲に渡した刀もかなりよさそうなものだったし、もしかしたらギャンブルとか風俗とか……そんなものにもお金を突っ込んでいるかもしれない。

 そもそもここにそう言った娯楽があるかは謎だけどな。


「ないですよ。すっからかん。だーかーらー、今日は姉御たちに飯を奢ってもらおうと思ってですね」

「まったく……。あんたくらいよ、そうやって私に近づく男なんて」

「いいじゃないですか! こんなでもチームの一員なんですよ、俺」

「チーム……」


 ため息を漏らす真衣さんを横目に、智咲がポツリと呟いた。


 そういえば俺も真衣さんのチームについてあまり聞いてはいなかった。

 勝手に加入させられていることだけはなんとなく知っているが、いったいどんな方針でどんな人がいるのか……。



「……」

「……」

「新人たちは興味津々って感じですね。それじゃチーム加入の歓迎会と題してギルドで飯でも食べましょうよ! こんなところで話してるのもなんですし!」

「そうね。でも当然奢るのは主催者。お金は貸してあげるけど、色を付けて返しなさいね」

「あ……。あの、やっぱり――」



「ということでまずはご飯でいいかしら? 千咲ちゃん」

「何をするにしても食事は大事ですものね。いいですわよ」



 怯える顔をした和田さんを無視してギルドに一直線の二人。



 うん。やっぱり和田さんはこの感じがベストだ。



「はぁ……。また借金かぁ……。この前あそこに金借りたばっかだってのに……。それに刀だってほとんど使い物に……」

「和田さん?」

「いや、何でもないから! 大丈夫! 君たちが頑張ってくれれば問題なしだから! ささ、今日は何を食べようかな!」



 そう言って和田さんは俺の背中を押した。


 そしてそんな俺たちを見て、他の探索者たちが嘲笑しているように感じた。


 このチーム……本当に大丈夫なんだろうか。





「では僭越ながらこの和田が乾杯の音頭を……乾杯っ!」

「かんぱーい」

「「乾杯」」



 そんなこんなでギルドにある食堂の暖簾をくぐった俺たちは適当に注文を済ませて歓迎会を開催。


 俺と千咲はお茶で、あとの二人は魔昼間からビール。しかも大ジョッキ。


 この後に仕事をするって考えはないみたいだ。



「でもこうやって二人も入ってくれるなんて本当にありがたいですよね、姉御」

「まだまだひよっこっ二人。和田より強いけどあんまり無理させちゃだめよ」

「……はーい。了解です」



 真衣さんたちは嬉しそうに酒を飲みながら悪どく微笑み、視線を合わせた。


 この人たち俺たちをめちゃめちゃ働かせるつもりだ。

 俺はそれでいい、というかうれしくもあるが……千咲のほうは本当にこれでいいのか?



「千咲、このチームを抜けるなら今のうちかもしれないぞ」

「……ううん。ここでいいわ」

「……そうか」


 俺が心配して声をかけると千咲は神妙な面持ちで即答。


 意外な反応だっただけについ驚いてしまった。

 文句ばかり言ってもっと金のあるチームに移動したいとか言い出すことも予想していたんだがな。


 この数日で起きた出来事、それによって考え方が変わりつつあるのだろう。



「私、今までは全部周りのみんながしてくれて、欲しいものが手に入らなかったことはなかった。でもそれじゃ駄目だって……。誰かに頼って強くなって……それだけじゃああの人たちはあざ笑うだけだと思うの」

「そうか」

「でも協力は大事よ。あなたも歩君の力を利用しなさい。ま、今のままじゃそれにも限度はあるでしょうから、私みたいにもっと積極的にね」



 真衣さんは俺の下半身にそっと手を伸ばし軽くまさぐると、思い切りその爪で引っ搔いてきた。


 痛、気持ちいい。



「な!?」

「真衣さん外では流石に……」

「あら、いやそうな顔はしてないみたいだけど? 本当に変態なんだから――」



「こんな時間からお盛んだなあ!! 縄島と和田……それとこっちが噂の新人、ね」



 食堂の入り口あたりから響いた低い男の声。


 その声の主を見ると真衣さんは眉間にしわを寄せたのだった。

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