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14話 ありがと

「――ふぁあ……。結局もう一日寝ちまった。しかも……」

「くあぁあぁぁがぁあっぁあ!!」

「女と一晩明かすなんて思わなかったな。俺が起きたのって夜だったのか」



 満足そうな顔でいびきをかく真衣さん。

 俺をびっくりするぐらいの剛腕で抱きしめてるのはあくまで寝相、だと思う。


 俺も真衣さんも盛り上がりすぎていつ寝たのか覚えてないから真実は闇の中だが……だ、大丈夫だよな俺。


 知らない間に卒業したなんて笑い話にもできないぞ。



「それにしても……痕、か。これはかなり使えそうだ」



 昨日真衣さんから聞いた俺のスキル。


 自分が強くなるのはもちろん、味方を強くさせるって効果はいろんな人やモンスターを呼び寄せることができる。



 そうなればより強い奴と出会うことはもちろん……。



「母さんのような理想の嫁をもらえよ、か……。はは、父さん唯一の遺言もかなえてやれるかもな」



――コンコン。



「ん? 誰だ?」



 一人言を呟くと玄関から扉の叩く音が聞こえてきた。



 確認したのだが、この建物はかなりボロい。


 スマホのマップで見た限りだとここは世田谷区の給田辺り。


 そんなに古い建物の多いイメージはなく、むしろ家族で暮らすようなある程度収入が安定している人が多い豊かな街並みのはずだが……。


 モンスターが現れた後の有り様は公表されていないこともあって、外に出るのが怖いな。



 道中はそこまで荒廃していたようには見えなかったが……人の暮らすようなところくらい治安は良くあっていて欲しいところだ。



「はい。なんでしょう……ってお前か」

「なんだはないでしょなんだは! この私が折角迎えに来てあげたんだから嬉しそうな顔をしなさい!」

「なんというか……元気そうで良かった」



 インターホンも壊れ、中から外の様子も確認できないくらいドアスコープは汚れている……そんな玄関の扉を開けるとその大きな膨らみを誇張するように胸を張った桜屋の娘の姿があった。


 寝起きにはなかなか辛い大声だが、いつまでもめそめそされるよりは良さそうだ。



 それに……。



「それとその髪……可愛くてかっこいいな」

「!? きゅ、急になんなのよ! お世辞言ったところで全然嬉しくないんだから!」



 お世辞でもなんでもなく、素直な感想だったのだが……あまり触れない方が良かったか?


 だが似合ってるというのは勿論、雰囲気もがらっと変わってこんなだけど接しやすくなったような気もするんだよな。



「まぁでも……。ありがと。なんか色々吹っ切れたかもだから」

「……そうなのか? 俺はなにもしてないと思うが?」

「それはそうなのかもしれないけど……。ほら、ライバルがいると燃える?って感じで、変態なあんたが活躍するとこっちもやってやろう……みたいになったり、ね?」

「そういうものなのか?」

「そういうものなの」



 朗らかに笑い合う。

 こうして人と話すのはあまり得意ではないが、悪くないと思える。



「――うるさいと思ったらお前か。歩、こいつはこうやってつんけんしているがずっとお前の様子を気にしてくれていたんだぞ。礼の1つくらい言っておいた方がいい」



 玄関で話していると、さっきまで寝ていたはずの真衣さんが割って入ってきた。


 しかもいつそれに着替えたのか、だるだるの寝巻きで胸元から白い下着が丸見えの状態で。



「……。そうだったんですね。ありがとう桜屋の――」

「千咲! 私の名前は千咲! それとお礼言って誤魔化したでしょ!ふ、2人はその……そういう関係になったの?」

「は?」



 そういえば名前を聞いてなかったな、と思っていると千咲は予想外のことを聞いてきた。


 唐突に変なことを聞くもんだから変な声が出たぞ。



「お前何を誤解しているか分からないがな――」

「だとしたらどうする?」



 俺に最後まで言わせないとばかりに真衣さんが意地悪く質問を切り出した。


 誤解を生むから本当に止めて欲しい。



「私は、あなただって越えるわ」

「そう。楽しみにしているわね。でーも、私たちの声を盗み聞きして楽しんでいるようじゃまだまだ――」

「な!? なななななななな、何言ってるのよあんた!! 別に私はエッチなことしてないから!」

「エッチなこと? 私はそこまで言ってないけどまさか――」

「あああああああ!! そういえばお腹が空いたわね!!」



 千咲は顔を真っ赤にしながらお腹を押さえた。


 確かに俺もお腹は空いたが……なるほど、真衣さんの方が一枚も二枚も上手ってことか。



「そうね。それじゃあ、『施設』内の話をしながら朝御飯にでもしましょうか。食堂はランクとかチームとか関係なく共通の場所があるから。仕事も……しばらくこれをやれっていうのはないでしょうしね」



 そう言うと真衣さんは眠そうに口を開けて一伸び。


 まるで自分の部屋なのかと感じていしまうくらい自然と俺の部屋に戻っていった。



「……。俺も準備をしてくる。ここのサービスなのか服とかタオルとか諸々は用意されているからな」

「分かったわ。一応朝食の時間は決まってるみたいだけど、まだ時間はあるから慌てず準備なさい。それくらいは待てるから。……お邪魔します」



 俺を避け、俺よりも早く俺の部屋に入っていく千咲。


 どうやらこの人たちに俺のプライバシーを尊重する意識はないようだ。

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