第九話・夜中ふたりで
夕食をいつもより早めに切り上げ、部屋に戻り、俺たちのこれからについてダラダラ話し合ったり。
気分転換にクイズ番組見て答えあったり(体感だが正解率は二人とも三割ほどだったはず。互角)したり。
一旦下に降りて、ポットとカップ麺とおにぎり持ってきてゆららさんに振る舞ったり。
俺は俺でドーナツ持ってきたら、ゆららさんの『食後のデザートが欲しい』という無言の訴えに負け、しぶしぶ半分こしたり。
そんな感じで面白おかしい時間はあっという間に過ぎ去っていく。
「……なあ、ヨッシー」
気だるげにベッドの上を占拠している、けしからん身体の持ち主が俺を呼んだ。
くつろぎ方が板についている。
我が家に招待してからまだ一日も経過してないのに、ずっと前からこの部屋の住人だったかのような態度だ。
ちなみに俺はどこにいるのかというと、クッションを枕にして床の上に寝転がっている。普通逆じゃね。
「なんすか」
「眠いかい?」
「眠くないっちゃ眠くないかな、うん」
「そうか、それは良かった」
「どゆこと?」
何だまた急に。
またおかしなことを勝手にやる気か?
ホントこの人(見た目は人間そのものだが、中身はかなり怪しいものがある)って、言葉の意味がいまいち伝わりにくい喋りするな。
「ハハ、そんな身構えなくていいってば」
どうだか。
「先に言っとくけどさ、もう生きるか死ぬかのパワーアップイベントは懲り懲りだぞ」
「違う違う、アハハ、そうじゃない。眠くないなら、暇潰しに真夜中のお散歩にでも誘おうかなってね。そんな警戒した顔しなくていいよ。ただの思いつきさ。深い理由はないよ」
「夜の外出ね」
「そうさ。嫌かい?」
「んー……」
今日は金曜だしな。
明日も明後日も土日休日だから、夜更かししてもそこは問題ない。
眠気もこれといって感じない。
いや、むしろ目が冴えてる。
命がけの強制イベントを終えた余波で、まだ精神が高ぶってるのかもしれない。
「……いいよ。付き合おう」
乗ることにした。
断る理由も別にない。
夜のこの町を気ままに歩き回りたいんなら、地元の地理にそこそこ詳しい俺がエスコートしてやればいいだろう。見せてやりたい名所はないけどな!
「なら善は急げだ」
「どこに善の要素が」
「いちいち細かいこと言ってないで、さあ行くぞ」
先陣を切って部屋から出ていく、青色の薄いネグリジェ一枚だけの美女。
「ちょっ、気配隠してくれよ頼むから。見られたら家族会議だ」
聞こえているのか聞こえていないのか。
無視するように何も言わず、背を向けたまま階段を下り──あ、右手上げて親指立てた。
なら、聞こえてるし、わかってるってことだな。安心した。
俺もその背中についていこう。
その前に。
何も言わずに出かけるのもあれなんで、一言母さんに言っておく。
茶の間のドアを開ける。
「あははは……あら、どうしたの?」
「今頃ここに顔出すなんて珍しいな。何か言わないとならん話でもあったか?」
母さんだけでなく、父さんもビール缶片手に笑いながらテレビを見ていた。やってるのは芸能人たちの対決企画らしい。
父さんはもう寝てるもんだとばかり思ってたけど、どうやら明日の土曜は休みらしいね。
「いや、ちょっとさ、散歩がてらジュース買ってこようかなと思って」
「こんな夜中に? いいけど、気をつけなさい。春先は変なのが現れやすいんだから」
うん、玄関にいるよ。
「くくっ、母さんは心配性だなぁ。そうそうそんなのと出会うわけないだろうに」
いや、もう出会ったよ。
「まあ、あそこのさ、スマイル公園の自販機に行くだけだから。大して危なくもなんともないよ。んじゃ行くわ」
「早く帰ってきなさいよ、できるだけ」
「はいはい」
話を終わらせ、茶の間から出てドアを閉め、待ち人のところへ。
「何を言いに行ったんだ?」
「ああ、外に出かけてくるってね。こんな夜中に何も言わずいきなり出たら、後からうるさそうだからさ。そしたら気をつけろって」
「なるほどね。親だから、子供に対して心配くらいはするか」
「変なのがいるかもしれないから用心しろって、母さんに言われたよ。父さんは、そんなのに出会うことなんて滅多にないだろって言ってたけどね」
「ふぅん……それについては、父親の意見に賛成かな。私も、これまであちこちふらついていたけど、顔をしかめたくなるようなおかしな者に遭遇したことは一度もなかったよ」
「ご本人だからね」
「え?」「いやなんでもない」
つい口が滑った。
更に突っ込まれないよう、無理やり話を終わらせて食い止める。
「そう。ならいいけど……しかし、母親の気持ちはわからないではないね。ひと気も少ない夜中だ。いるかいないかは別として、何をしでかすかわからない、素っ頓狂な者に会わないよう警戒しろと言いたくもなるさ」
手遅れだけどな。
もう目の前にいるし、がっつり関わってしまってる。
──これは口には出さなかった。
同じ失敗はあまり二度としないのが俺だ。
「フフッ、本来なら、私も警戒すべきなのだろうね。この美貌にこの華麗な装い。存在を気取られなくする力を用いてなかったら、血迷った者たちに群がられていたのかな」
「どうだろ。遠巻きに携帯で撮影されまくったりする中で、チャラ男とかヤンキーが面白半分に声かけてきたりするくらいじゃないの? もしくはお巡りさんに事情聞かれるか」
「それはつまらんね」
「でもそうなると思うよ。だから変な気起こして興味本位でやらないほうがいい」
「わかってるよ。追われる身だからね。──いや、追われてるかもしれない身か」
そうなんだよな。
そこが不安だったりする。
最悪、夜の公園とか路上で、追っ手相手に異能バトル始めたりするハメになるのか。
この身体。
強くなった実感はあることはあるが、どのくらい強くなったのかは、さっぱりわからない。
「……ステータスオープン」
ないとは思うが言ってみた。
何も起きない。何も出てこない。何もアナウンスされない。ダメでした。
「なにそのかけ声」
「いや、もしかしてワンチャンあるかなと」
「?」
現実はラノベのようにはいかないか。
──なら、自身の実力をより明確にするには、やはり実戦でぶっつけ本番やるしかないようだ。
溢れる力のこの感じからしても、おそらく負けはしないだろう。 まず勝てそう。
でも、勝つのも、それはそれで困ったことになる。
負けて死ぬのは当然嫌だけど……勝った場合、俺は人殺しになる。
つまり、一線を越える。
死なない程度に手加減したらいい──なんて問題じゃない。顔を見られたら生かして返せない。殺すしかないのだ。
面が割れて、いつ刺客が来るかわからない生活なんかやってられないからね。
……あんまりやりたくないなぁ、実戦。
でも、やらなきゃいけない状況になる可能性も、ちょっぴりあるんだよな。
人の命を奪うって、どんな気分なんだろうな……。
……ま、そうなったらその時は、俺は悪くない、俺にそんなことをさせるまで追い詰めた方が悪いの精神でいこう。どうせろくな奴らじゃない。それでよしだ。




