第八話・今後の大事な話
「アハハハ、そうカッカしなくてもいいだろヨッシー。パワーアップも無事に済んで、爆発もしなかったんだからさ。ハハッ、万々歳だよ万々歳。そうじゃないか?」
笑って肩をパシパシ叩いてくるゆららさん。
俺はどうしたかというと、笑えねえよとばかりにジト目で応対した。
「……いやぁ、どうかと思うよ俺は。危ない橋どころか地雷の埋まってる道を強制的に通らせといて、それはないんじゃないの」
なかなかの鬼畜だぞ。
強くなるか四散するかってめちゃくちゃハイリスクハイリターン過ぎるだろ。
ラスボスが手下を強化するやつじゃん。力に耐えられず苦しんで死ぬとか、欲張って力を貰いすぎて身体が崩壊して死ぬとかそんなやつ。
……ひとつ間違ったら、俺もそうなってたんだよな……。
「終わり良ければ全て良しの精神だよ。細かいことは気にしない。済んだことも気にしない。人生、そのほうが幸せさ」
そんな簡単に水に流せる一件じゃないよ。
これが、一ヶ月さまよってようやく見つけた同胞にやることか?
実際に爆発する可能性がほとんどなかったにしてもさ、せめて一言くらい事前に言っておくべきだろ。こんな唐突にやられたらモルモットでも苦情言うぞ。
覚えてろよ。ここぞというところで無茶振りしてやるからな。
「それはそうと」
もうこの話はこれで終わりとばかりに、
「他の大事な話をしようか」
「これまでも大概な話や酷い出来事ばかりだったけど、まだあるの?」
「そうだね。数時間後に迫ってる話さ」
「数時間後か。切羽詰まってるってほどではないけど、そんなに余裕があるわけでもないね」
「だから今のうちに話し合おうと思ってね。──私の晩御飯について」
「え?」
「だから、今日の夕食だよ。私の分も用意してもら」「無理」「無理ってそんな」「無理」「話を最後まで聞い」「無理」
無理無理ラッシュで話をさえぎる。
こんなアホな話聞いてられない。
裸にネグリジェ一枚しか着用してない大人の女性を食卓に招くとか、できるかそんなこと。母さんになんて説明すんだよ。俺の身にもなれ。
「取りつく島もなしか。酷くないかい」
デッドオアパワーアップを無理やりやらせた奴に言われたくないなぁ。
「考えるまでもないからね。そんな格好した女性をどうやって親に会わせられる? 確認のためお聞きしますが、ご自身の姿わかっていますよね?」
「服は一応着てるぞ」
「悪いけどそれじゃ必要最低限のラインすら超えてないよ。パンツすら無いじゃん」
「パンツがあれば良かったのか。だったら、やはりあの死体から脱がして穿くべきだったね」
「そういうことじゃない」
駄目だ。
常識はあるが羞恥心が少なすぎる。会話のズレが酷い。
──で。
後からカップ麺とおにぎりを持ってくるってことで落ち着いた。
それが妥協点。
やはり俺には、この女性を親に遭遇させるのはためらわれた。できねえ。
ゆららさんには便利な能力がある。
スッ……と穏やかに平常心でいると、注目を浴びたり明確な意識を向けられたりしなくなるのだ。ステルスゆららである。
それを使えば母さんに認識されることもないだろう。
紹介する必要もない。
けど、夕飯の食卓にしれっと混ざれるかどうかと言われたらそれは怪しい。そこまで馴れ馴れしくやっちゃうと流石に意識されてしまうのではないか。
そしたらどうなるか。
これは容易に想像がつく。
もしもしポリスメン案件だ。
美人の変態が家の中にいますと母さんに通報される。
十四歳の未成年男子にちょっかいかけて部屋にまで入り込む、二十代前半から半ばくらいの年齢の痴女。
うん、法が許さない。
ゆららさんはステルス起動して逃れられてるけど、俺は逃げ場がないので警察や親にこってりとお叱りを受けるだろう。
学生の本文は勉学~~みたいなウザい説教を延々と聞かされた挙げ句、小遣い減らされるかもしれない。嫌すぎる。
だからやめさせた。
「せっかくだから出来立てのごはんを食べてみたかった」なんてゆららさんはボヤいていたが、どうしてもという程でもなかったのか、割とすんなり納得はしてくれた。
飯の話はそれで終わり。
で、次はどこで眠るかだけど……これはあっさり決まった。
「私の寝床は押し入れか」
「狭くて悪いね。だけどさ、もし父さんや母さんが不意に入ってきたら言い訳できないからさ。そこなら見つからないんで、まあ我慢してよ」
居候は押し入れをベッド代わりにするってのは、国民的人気の青狸もやってる定番だからな。そういうわけだよゆらえもん。
「別に構わないよ。公園や林の草むらに寝転がって朝を迎えるのもいいが、これはこれで良いしね」
アウトドア派か。
……派というか、それしかなかったんだろうね。
戸籍すらないかもしれない人間をただで寝泊まりさせてくれる場所なんて、あるわきゃないからな。刑務所くらいか?
「廃墟や廃屋は?」
一ヶ月もふらふらしてたんだ。
なら、使われてない建物を見つけたことくらいあるだろ。
すんなりとそこで寝泊まりできたかどうかはわからないけどさ。
下手にそういうところに入ると、実は警備装置がついててセ○ムの人が乗り込んでくるってケースがあるみたいだし。
俺の勝手な想像だけど、その人らって懐中電灯で中を照らしつつ、もう一方の手で警棒持って肩をトントンしながら不審者探しするのかな。
「ああ、来たよ。制服着た奴ら。潰れたドライブインだったかなあそこ。ハハッ、そんなこともあったねぇ」
やっぱ経験済みでしたか。
「二人組でね。どちらも中年の男性だったよ。全くいらんことしやがって……とか愚痴をこぼしながらさ、中をくまなく探してた。結局、私を見はしても、見つけることなく帰ったけどね」
「つくづく便利な能力だね」
「そのまま居座ろうかなとも思ったけど、また警報とか作動して警備員が来ても嫌だしね。何の意味もない繰り返しなんて真っ平だもの。朝まで寝てから、お暇したってわけ」
そうしていたら、ついに俺が見つかったんだな。
「寝泊まりについてはわかったけどさ……追っ手はどうなったわけ? あんたを液体に浸けて保管っていうのかな、とにかくそんなことしてた連中や、そこに殴り込みをかけた連中がいたよね? そいつらの仲間に出会ったりとかは……」
「なかったね。何も。一切なかった。一度や二度はあるものとばかり思ってただけに、肩透かしを食らった気分さ」
「ゆららさんのことを、そもそも探してないのか……それとも」
「探す余裕がないのか」
どっちなんだろうな……。
その研究所とやらにも内部に監視カメラくらいあったろうし、ゆららさんがどっか行った映像が残ってると思うんだけどね。
って言ったら「私の気配を消す力なんだけど、カメラとかセンサーとかも反応しなくなるみたいなんだよね」と返された。
そりゃそうか。
そうじゃなければ、そこらの建物やお店とかの監視カメラにとっくに引っ掛かって、変質者がうろついてるって騒ぎになるよな。
なら廃ドライブインの時になぜ警報が作動したかだが、ゆららさん曰く、扉の開閉などに引っ掛かるセンサーだったんじゃないかとのことだった。
「それなら気配関係ないからね」
有能すぎる便利能力の思わぬ落とし穴だったってことか。過信は禁物なんだなぁ。
で。
追っ手が現れない件だけど。
やはり──あのまま、研究所ごと燃え尽きたと判断されてるかもしれないのだろうか。
「可能性として、そういう線もあるってくらいの認識に収めておくべきかな。何事も思い込むのは危険だから」
確かにね。
その言葉に、俺は黙って頷いた。




