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ラスボスのオマケになりまして~極東に聖邪は集う・外伝~  作者: まんぼうしおから


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第六話・同胞探し

「──と、いきさつはこんな感じさ」


 言い終えたゆららさんが、なぜかこちらに手を伸ばす。

 その手は、俺の皿にまだ一個残っていたドーナツをためらうことなく摘まむと、そのままさらっていった。現行犯である。


「なんだか難しいね。だいたいの出来事は俺にもわかったけど、でも、核心に迫るような大事なことは何一つわかってないような……」


「ような、じゃなくて、実際何もわかってないに等しいよ。あの施設の装置やパソコンとかをくまなく調べたら、詳しいことを知れたかもしれないが……今更だね。後の祭りさ。全く、なんなんだろうね、私」


 聞きようによっては、自分の正体や存在理由がわからないことへの悲壮感ありありな言葉だ。


 当の本人がモシャモシャとドーナツ食ってるせいで雰囲気ぶち壊しだが。


「その逃走劇って、いつのこと?」


「んー……確か、一ヶ月くらい前のはず……」


 一ヶ月前。

 たった一ヶ月前に、そんなとんでもないことが、どこかで繰り広げられてたなんて……。



(……って、あれ?)



「待てよ……一ヶ月前って、なんかあったよな。テレビでもやってたはず……」


 そうだ。


「…………あのさ、ゆららさん、これ見てよ。もしかしてこれのこと?」


 スマホを操作して、動画サイト内を検索し、あるニュースを見せる。


「どれどれ……」


 こちらに身を乗り出すゆららさん。

 その赤い眼を、スマホの画面に向け、


「あ、これだ。間違いない。建物の形もこうだったよ。こんなに派手に燃えてはいなかったけど、でもここだね。……ここにいたんだよね、私は……」


 どこか懐かしそうに、そう言った。



 スマホに映し出されていたのは、今から一ヶ月ほど前に起きた、二つ隣の県での火災事故。

 山の斜面に沿って建てられていた、とある製薬会社の工場であり研究施設。

 深夜の大事件。


 燃えてる。

 めっちゃ燃えてる。


 火災の原因は、おそらく装置の誤作動による発火と、間の悪いことに漏電が重なったことによるものではないかと、そう報道されていた。

 死人もかなり出た。

 まずいことに山林に飛び火して、山火事にまで発展したらしいが、どうにか最小限の被害で食い止められたみたいだ。

 近隣住民の避難がどうだとか、テレビでやってたな……。


 流石に一ヶ月も経つと続報はあまり入らなくなったけど、それでも、これがここ最近で一番の惨事であることには変わりない。



「証拠隠滅ってやつかな」


 話を聞いた限りだと色々とヤバそうなことをやってそうだしな。

 人体実験とか違法な薬物をいっぱい保管してたりとか、そのくらいは朝飯前だったのではないか。

 この飛びっきりの美人さんを謎の液体漬けにしてたくらいだ、まともじゃない。

 きっと悪の組織の隠れ蓑だ。


 実際どこまで非合法なことをやってたかは今となっては謎だが、とにかく表沙汰にできない事柄がありすぎたのだろう。

 だから、全部燃やしたと。


 思い切ったことをするもんだ。


「だろうね。何もかも灰にして無かったことにしたらしい。私が逃げ出したときは、まだここまで燃え盛ってはいなかったよ。侵入者どもが暴れたのか、煙が上がってボヤみたいなのが起きてる区域はあったけどさ」


「悪いことやってた連中と、それを阻止しに来た連中の激突か……。ありがちっちゃありがちだけど、リアルにあるとはね」


「事実は小説よりも奇なり─ってことさ」


「で、そこから徒歩で、うちの地元まで地道に歩いてきたと」


 金もクレカも何もないなら交通機関は使えないし、それしかないよな。仕方ないね。


 ヒッチハイクは……いや、無理か。

 変質者がいるって通報されるか、もしくは、受け入れる代わりにエロい交換条件出されるか。

 あんたを車に乗せるから、俺もあんたに乗らせろとか……スケベ根性出してそんなこと言い出してくる奴は絶対出てくる。

 そんなのいちいち相手にしてられないよな。


「でも、わからないな」


「何がだい?」


「なんで俺の地元の、あんなところで、着の身着のままなホームレスみたいなことしてたのさ? その理由がどうしてもピンとこないんだけど」


「深く考えなくていいよ。私もなんとなくしていただけだから」


「なんとなくだったんだ」


「だって、記憶もなければ説明書もないからね。そうなると、直感や本能を重視するしかない。今、何をしたいのか、ぼんやりとしたものでいいから、その思いつきに従おうってね」


「同胞がどうとか言ってたよね」


「そう! それそれ、それさ。ほら、結局私は自分のことについて一切わからないし、わかりそうな連中を捜そうにも、そのアテがないだろう?」


「あったとしても、自分のことについて教えてくれる保証もない。それどころか、捕まえられるか殺されるか……」


 わざわざそんな奴らのところに聞きに行ったら、まさしく、飛んで火に入る──だよな。


「なら、似たような者に訊けばわかるんじゃないかと。自分と同じ種族──同胞を見つければいいのではと。昼間の公園でベンチに座って一休みしてる髪の薄いサラリーマンから拝借したサンドイッチを食べつつ、そんな考えに思い至ったわけさ」


「なんて気の毒な」


 サラリーマンのおじさんかわいそう。


「思いついたら即実践さ。腹ごしらえを済ませてから、そこらの店先にあったダンボールを中身のジュースごと譲り受けて」


「ひどい」


 お店の人かわいそう。


「何日か同じ場所に居座っては、成果が無いとみなしては別の場所へを繰り返して一ヶ月──ついに」


 ゆららさんが、右手の人差し指を俺に突きつけた。


「──見つかった。もっとかかるものかと思ったけど、案外早く、こうして出会えた。本当にいるのかどうかも定かではなかった同胞に、私について理解してるかもしれない者にね」


 いやいやいや。

 知らんがな。


「期待させて悪いけど、俺、あんたのことなんてさっぱりだよ。あんたがどこの誰で、何のために存在してるのか、どんな力を持ってるのか、どんな食べ物や音楽が好きなのか──知ってることは一つもないんだから」


「そこはまあ、これまでのやり取りでわかってるから。キミは私のことを知らないし、私の仲間だという自覚すらない。がっかりしたのは確かだね」


「すいません。なにもかも初耳で」


「いいよ、キミが悪いわけじゃない。私が勝手に期待して勝手にがっかりしただけさ。だから気持ちを切り替えて、ここは素直に、仲間が見つかったことを喜ぶべきだと思うんだが……どうかな? そうすべきじゃないか? そうだろう? 我が同胞よ」


「そ、そうかもね」


 そんなにまくし立てられてもな……。

 そっちはそうかもしれないけどさ……俺はそんな感動的な物語じゃなく、トラブルメーカーと変な繋がりができたなってくらいの認識なんだけど……。


 こんな人と知り合って、今後どうなるんだ俺。不安しかないぞ。

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