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薄着でさまようラスボスに捕まって同類認定された件~極東に聖邪は集う・外伝~  作者: まんぼうしおから


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第五話・ゆららひめ

「……威勢の良さは一流だったけど、実力は二流だったよそいつら。寝起きの私に遅れをとるくらいだからね。自分が何者で、どんなことをやれるのかさえもロクにわかってない、起きたばかりの私に」


 ククッと、ゆららさんが笑う。

 その二人を小馬鹿にした思い出し笑いなのだろう。


「自分の力を手探りしながらの戦闘だったから、多少グダついたりはしたけど──二人とも殺したよ」


 殺した、か。

 手持ちに何も武器がないうえにチュートリアルなしの本番。よく勝てたもんだ。

 そいつらが弱かったのか、この人が強すぎたのか、どっちもか。


 具体的にどうやったのか聞きたいが、なんか聞くのも怖い。

 「こうやったんだよ」とか言って、この美貌が鋭い牙だらけの大口開けた凶悪で巨大な顔に変化したら、膀胱の栓が緩んでしまうかもしれない。

 聞くのやめとこ。


「そいつらの顔に見覚えとかは……」


「ないね。どちらも若い男だった。生意気な銃使いが高校生くらいで、日本刀持ってた男が二十代前半くらいだったかな。実際の年齢はわからないが、あくまで見た目はね」


「なんで殺しに来たんだろ」


「無論、聞こうとしたよ。何もわからないまま死んだりしたら嫌だから、そうならないよう、冥土の土産でももらっとこうかなと思って」


「抜け目ないね。で、なんて言われたの?」


「そいつらは、私のことを『ゆららひめ』って呼んでいたね。『ひめ』は……まあ、漢字の『姫』なんだろう。もしかしたら『媛』のほうかもしれないが。愛媛の媛」


 ゆららさんが、右手の指で、宙に姫の字を、次に媛の字を書いた。

 細くしなやかな指。

 ……この指のどこに、あんな握力が眠っているのやら。

 わからん。

 あれもこれも、わからないことだらけだ。


「そこまでは予想のつく範囲だけど『ゆらら』のほうは……ちょっと無理だね。聞く暇もなかったし、聞いたとしても素直に教えてくれたかどうか」


「だから俺に名乗ったとき、ひらがなの『ゆらら』と言ったんだ」


「漢字を断定しようがないし、それに、なんとなく私にはそのほうが似合ってる気がしてね。そして、姫でもなければ媛でもない、ただのゆららでいい──と、そういうことさ、ヨッシー」


「それについては、俺も同感かな」


 プリンセスって感じがないもんな。どこにも。


「あいつら、なぜ私を殺そうとするのか訪ねても、真面目な顔で『無垢なフリをしても無駄だ』とか『おとなしく滅ぼされろ』とか言うだけで、そこから先に進まない。いや、あれは困ったね」


「もらい損ねたんだ、冥土の土産」


「だから、私の代わりにその二人を地獄に送っておいたよ。手ぶらであの世に行きたくなかったからね」


「──で、そいつらの息の根を止めたあとは?」


「当然、逃げることにしたよ。戦闘音がどこから聞こえてくるのかまではわからないけど、まだやり合ってるみたいだからね。話の通じない奴らの相手なんかもうしたくない。この機を見過ごすのは悪手だと、そう判断したのさ」


 ゆららさんは、とりあえず二人の男が入ってきた扉から部屋を出て、どこかにある出入口を探すことにしたらしい。


 その最中。


 隠れようがない一直線の廊下の先から、警備員らしき数名が前方から慌てて走ってきたそうだ。

 手にはマシンガンらしき銃器。


 まともにやり合えば、ハチの巣になるかどうかはともかく、銃弾の雨を浴びることになる。

 一応、ゆららさんは研究所の所有物みたいなものだからそう簡単には撃たれないとは思われるが、絶対の確信はない。

 逃がして行方知れずになったり、侵入者たちに連れ去られるくらいなら、あるいはカプセルから出ていたら──処分してもいいという命令が下されているかもしれない。


 まずいと思ったゆららさんは、とっさに後方に戻ると、通路に置きっぱなしにされていた台車に身を隠し、素っ裸のまましゃがんで息を潜んだのだとか。


「そうやってその場を凌ごうとしたんだ。でも、それはちょっと無理じゃない?」


「わかってるって。ダメ元さ、ハハッ。私だってそれが不可能なのは百も承知だったよ。だから一戦交えるつもりでいた。おとなしく動かないと見せかけておいて、不意打ちする腹積もりでね」


 ところが。


「……凌げたんだ」


「凌げたのさ。何事もやってみるものだね。そいつら、私に銃口を向けることもなく、通路をそのまま走り去ってしまった。何の迷いもなくね。私の姿が見えてないなんてこと、あるはずがないのに。我ながらびっくりだよ」


「で、それを、その特殊な力を、あの路地裏でも使っていたと……そういうことなのかな」


 ゆららさんが、ニコリと笑う。

 肯定の笑みなんだろう。


 なんで俺に効かなかったのかな。


「逃げてる間、迷路をさまよっている気分だったよ。なにせ、勝手が全くわからない建物の内部だ。地図でもどこかの壁に表示していてくれたら良かったんだけど」


「あるわきゃないでしょ」


「そうだね。それについては私の高望みではある」


 警備員が露骨に銃刀法違反してる非合法な建物に、地図なんてフレンドリーなものがご丁寧に備え付けられてるはずがない。

 デパートじゃあるまいし。


「ただ、そこから先は逃げるのは容易だったね。なにせ気づかれないわけだもの。途中、二人組の仲間らしき者に遭遇したんだが、バレるのを承知の上で、試しに普通に歩いてみたんだけどね。やはりスルーされたよ」


「身を低くしなくてもいいんだ……」


「どうも気の持ちようの問題らしいね。私が平常心で静かな精神でいると、あちらも気にしてこないみたいだ。見えてないのではなく、見えてるけど関心を持たない……持てないという様子だったね」


 すげー便利な能力だなそれ。

 無敵の潜入能力じゃん。


「そのときに、この服を見つけてね」


「よくあったねそんな服。研究施設なんかに」


「誰にも気にされないのだから、どうしても必要ってこともないんだが……だとしても、やはり裸のままというのもどうかと思ってね。あちこちの部屋を調べていたら、仮眠室らしき個室で見つかったよ。ベッドの上にあった。床に血だらけの男女が転がっていたから、まあ、女性のほうの衣装だったんだろうね」


 きっとその女の人、それに着替えて、十八禁な休憩をとるつもりだったんだろうな。


「下着はもらわなかったんだ」


「死体から脱がせてまで、他人の使用済を着用するのもね……」


 ああ、確かにやだなそれ。

 俺がおっさんの死体からパンツ脱がせて穿くようなもんか……うわ、想像しちまった。やめろ、俺の頭から消えろ汚いブリーフ!


「忘れろ忘れろ、忘れろビーム発射発射」


「……なにやってるんだい、ヨッシー。自分の頭に指鉄砲突きつけて」





 かくして。


 無いよりマシとサイズが小さめのネグリジェを着たゆららさんは、侵入者が入ってきた裏口からではなく、正面入口から、悠々と脱出することに成功したそうだ。

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