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ラスボスのオマケになりまして~極東に聖邪は集う・外伝~  作者: まんぼうしおから


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第三話・帰宅部の帰宅

 自宅。


 そこそこの年期の一軒家だ。


 父さんが建てたものではない。

 既にここにあったものを購入したらしい。

 昔からの友人が不動産屋の息子だったらしく、結構な値引きをしてもらえたとか。

 詳しい金額までは聞いてないからわからないけど、まさか事故物件ってことはないだろう。

 もしそうだとしても住み慣れた今となっては関係ないけどさ。塩でも盛るくらいはするかもしれないが。



 いつものように玄関を開け、中へ。

 いつものように靴を脱ぎ、いつものように自分の部屋に行く。


 確か、今日は母さんがいるはずだ。

 パートの日じゃないからね。


「あら、おかえりなさい。今日は早いのね」


 居間のドアが開いて、母さんが出てきた。

 やっぱりいた。


「……あ、ああ、そうだね。ただいま。やることないし、なんか友達と暇潰す気にもならなくてさ」


「そう」


「もういいだろ。んじゃ、上行くよ」


 俺の部屋は二階にある。

 だから階段に向かう。


「待ちなさい」


 一段目に足を乗せたところで、呼び止められた。

 思わず、()()()()()()()()()()()、ビクッとしてしまった。


「ぷっ、なにビックリしてるの。大げさねえ。台所にドーナツあるって教えたかっただけよ。バスドのやつ。適当に何個かつまんで持ってきなさい」


「そっか。わ、わかったよ」


「ちゃんと手を洗いなさいよ。あと麦茶あるから」


 そう言うと、母さんは何事もなく居間に戻っていった。

 ドアが閉まる。

 結局母さんは、驚いたりもしなければ、興味深く観察してきたりということもなく、怪しげな眼を向けたりもせずに、普段通りのまま、普段通りのママだった。


「え~と、コップコップ、コップ二つ」


 台所に行くと、テーブルの上に、あのお馴染みの紙箱が置かれていた。

 紙箱には『バスタードーナツ』のロゴが描かれている。


 ドーナツを四つほど取り出し、皿に。

 その皿と、麦茶を入れたコップを二つお盆に乗せ、二階へと上がっていく。

 今度は、母さんも何も言ってこなかった。ドラマでも見てるのかな。


 で、俺たちはそのまま二階の部屋へ。


「到着」


 俺の部屋。

 昔から使っている俺の陣地であり、俺が人目を気にせず自由にくつろげる神聖な領域だ。


「ふぅん、もっと散らかり放題かと思ったけど、案外整頓されてるね。その歳にしては珍しい」


 感心したようなハスキーボイス。


「別にキレイ好きってわけでもないんですけどね。足の踏み場もないとか、そんな部屋で生活したくないってだけのことで。あ、これ座布団」


「ん、ありがとう。なかなか気が利くじゃないか」


「どういたしまして」


 部屋の真ん中にあるテーブルにお盆を置き、座る。いつもの場所だ。

 その反対側に、謎の美女が腰を下ろした。

 今回は体育座りではなく、ぺたんと腰を落とした女の子座りだった。


「まあゆっくりしてください」


 本音を言うと、してほしくない。

 しかしこう言うしかなかった。





 俺は逃げられなかった。


 適当に話を切り上げ、あの場を離れようとしたが駄目だった。

 恐ろしいスピードによるものか、それともマジの瞬間移動なのか。

 即座に回り込まれ、退路を断たれる。


 力も強い。

 発育のいい部類に入る中二の俺なら、鍛えてない体格の女性に腕力で負けることなんかあり得ないはずなのに、腕を掴む手を引き剥がすことができない。

 びくともしない。

 万力で固定されてるといった表現がピッタリ当てはまるくらいのパワー。

 あり得ないことだらけだ。


 力でも速さでも勝てない。

 あちらのほうがずっとレベルが上。


 無理やり打開するのは諦めるしかなかった。

 話し合いで解決するしかない。


『一体、何が目的なんですか』


 そう訊くと、謎の美女は、


『それを話すには、ここではムードもなさすぎるし、落ち着けないね。場所を移そう。仲良く会話に花を咲かせるには、そこのダンボールの絨毯じゃどうにも風情がない』


 そこで死んだように動かず探し人が来るのを待ち伏せてたくせに、よく言う。

 しかし、俺としても、外でこんな薄布一枚の女性(やっぱり下着はつけていなかった)と長々と話なんかしたくなかった。


 もし知り合いが通りがかったら大変なことになる。

 「岸辺さんちの息子さんがいやらしい格好の凄い美女と一緒だった」なんて噂が町中を駆け巡ったりしたら大変だ。

 父さんや母さんに何て言われるか。

 そうなればしらばっくれるしかない。

 しかも、登校したらしたでクラスメイトからも追及されまくるだろう。問答無用で変態の烙印を押されるかもしれない。

 だから俺も場所は変えたいわけ。


 じゃあどこで話をするかだけど。


『キミの自宅でよくないか?』


『自宅って、俺の家のことですか?』


『そりゃそうだろう。他にあるかい?』


『いや、でもね』


『?』


 俺は眼をそらしながら美女を指差し、そんな姿の女性を連れて人前なんか歩けませんよ、と伝えた。

 するとこの女性は、


『それなら心配いらないよ。考えてもみたらどうだい。私がなぜ注目を集めることなく、ここまで来れたのか』


 自信満々にそう言ったのである。





(……言うだけのことはあったなぁ)


 で、その結果だけど。


 誰にも指を差されることもなく。

 お巡りさんに止められることもなく。

 すれ違いざまの二度見とか、スマホで撮影されたりとか、いかにもガラの悪そうな人に絡まれたりとかもなく。

 目の前でドーナツにかぶりついてるこの美女が、透明人間にでもなっていたかのごとく。

 自宅への帰り道、一人もこちらに意識を向けてこなかった。


 そして。

 信じられないことに、何のトラブルも起こることなく、我が家に到着したんだ。


 全く、本当に信じられない、おかしなことばっかりだ。俺の常識壊れちゃう。


「ひとつ、聴いてもいいですか」


「いいけどね、でもその前に」


「なんです?」


 彼女は、指についた生クリームを舐めながら、


「私たちの間に、そんなに丁寧な言葉遣いはいらないよ。同胞なんだから敬語は不要さ。どうしてもそうしたい……というなら仕方ないけどね」


 同胞。

 それはどういうことを意味するのか。


「えっと、それってどういう意味な……のかな」


「何が?」


「その……同胞って、言ったよね。それが何を意味するのかわからなくて」


「ハハッ、そんな深く考えなくてもいいよ。そのまんまの意味さ。偶然のような必然によって出会った、同じ存在だよ」


「必然って言われても、何のことだか」


「さっきの路地裏のことさ」


「あれが? いやだって、そんなこと言われてもたまたまあの道を──」



「たまたまだとしてもだ、キミは私を見過ごさなかった。私の存在に気づいた。気づくことができる者が、たまたま通りがかった。そこまで偶然が重なるとでも? いいや違うね。これはやはり──必然だったのさ。引き合ったんだよ」

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