第十三話・数日後
波乱の一日が終わった。
ホームレス美女を見なかったことにしようとして失敗したり。
人を超えるか人のまま死ぬかの賭けを強制的にやらされたり。
死体を甦らせたり。
異様に午後からのイベントが豊富だった、この一日。
(やることが……やることが多い……!)
一言で言うとまさにこれ。
でも面白かったのもまた事実。
これからもこんな日々が続いたりするのかなと、不安もありつつ楽しみも抱きながら、俺は布団に潜って目を閉じる。
ゆららさんの寝息が聞こえてきた。
もう眠りについたらしい。早い。
不思議なことに、ゆららさんの足は全く汚れていなかった。
サンダルすら履かず、靴下すらないまま、ずっと裸足だったのにもかかわらず、廊下も階段も俺の部屋の床も、足跡ひとつついてない。
足の裏を見せてもらったりもしたが、やはり真っ白。
ついさっき洗ったばかりみたいだった。
不自然なほどの清潔さ。
これも、ゆららさんが特別な存在だからなんだろうか。汚れというものを寄せ付けない存在なのか。
それとも。
地に足がついてるように見えて、実はわずかに浮いてる……とか? 二足ホバー?
ゆららさん。
押し入れですやすやと眠っているこのお媛さまは、本当に謎が多い──いや、多すぎる。
で。
それから、三日ほど経過した。
その間に何があったのかというと……やはりというべきか。
西高で警察や救急車が駆けつける騒ぎが起きた。
俺がこの世にカムバックさせた、あのキレイなお兄さんが通っている高校だ。
──そこで、教師の死体が見つかった。
場所は生徒指導室。
まだ若い、二十代半ばの女性教師。
目立った外傷はなく、血痕や、争った形跡もなし。おそらく死因は脳出血か心筋梗塞によるものだろうと見なされた。
詳しく調べたら死因もはっきりわかりそうなもんだけど……そこはまあ、遺族が、遺体を解剖されるの嫌がったんだろうね。何が致命的だったかわかったところで生き返るわけでもないなら、切り刻むこともないと。
事件性もなさそうなので全国的なニュースにはならなかったものの、今回の一件はうちの地元を駆け巡り、いくつかの無責任な憶測を生み出してるみたいだ。
生徒や同僚からも慕われていた先生の、突然の死。
事態がだいたい落ち着いてから、明日あたりにでも通夜が執り行われるようだ。
「やっちゃったんだろうね、マヒルさん。もむっ」
「だから、私の言った通りだったろう? どうやったのかは不明だが……あむっ、異能を用いて見事に返り討ちにしたのは間違いないさ。もぐもぐ……やはり、あの少年は目覚めていたんだよ」
ゆららさんが言う。
この三日間、この人は外に出ることなく、ずっとこの部屋でゴロゴロしている。
出る必要がないからだ。
仲間探しも済んだのだから、わけもなく外をぶらついて、もしかしたらいるかもしれない追っ手に見つかるなんてリスクを無駄に負うこともない。
たまに母さんが入ってきて、脱ぎ散らかした衣服を持っていったり、洗って乾いた衣服を持ってきたりするそうなので、そういうときは気配を隠して部屋の隅で座ってるらしい。ガチのパラサイトだ。
食事はどうしてるかというと、実はそんなに必要としないらしく、しばらく飲まず食わずでも平気なんだとか。
ただ、食べれるなら食べたいようだ。
お米系と甘いものが好みなんだってさ。
ちなみに今は餅食ってる。焼いた餅に醤油塗ったやつ。俺も自分のぶん食べてる。
「てことは、その女先生が交際相手で、そして犯人だったのか……」
「それ以外あるかい?」
「ないね」
まさか殺した相手が特殊能力持ちになって舞い戻ってくるなんて、夢にも思わなかっただろうな、その先生。
「なら、これで一件落着?」
「フフ、元凶が死んだわけだからね。これ以上事態が動きようがない。もし、仮にあの少年に殺人の容疑が向いたとしたって、殺害を立証できる術なんかないと私は思うよ。ところでヨッシー、それ、食べないのかい? 食べないなら私が処分してあげてもいいよ」
「特殊な力を使って殺した可能性があるなんて言い出したら、黙って今すぐ頭か精神の病院に行けって言われるだけだろうしな。これなら大丈夫。責任持って自分でカタつけるんで、ゆららさんのお手はわずらわせません。悪しからず」
それが、たとえ事実だとしても。
オカルトによる殺人は法で裁くなんてことはできない。
異能バトル系の漫画とかで見る話だ。現代風のやつ。
有罪にすることが無理な悪に対して、主人公がどう決着をつけるのかを焦点にすえたりする回とかあるよね。
俺だったら……どうするかな。
自分の皿に残った餅。
最後の一個を、つまみあげる。
そーだな…………とりあえず、一旦殺してから考えるとしようか。
殺したのは間違いだった、やり過ぎたって結論になったら、そのときは生き返らせればいいんだから。
……なんだろう。
もしかして俺こそが許されざる悪のような気がしてきたけど、そんなこと、ないよな……ないよな?
よし、やめやめ。
終わり終わり。
馬鹿げた疑問を頭の外へと追いやり、気にするのをやめて、つまんでる餅を──
「スキあり♪」
「あっ」
考え込んでたら、知らん間にゆららさんに近づかれていた。
一瞬の出来事だった。
いつものハスキーボイスとは真逆の可愛らしい掛け声から、すかさず歯並びのよい口でパクリと噛みつき、そのまま顔をひるがえして餅を奪い取っていく。
もぐもぐする。
強奪された餅は、すぐに跡形もなくゆららさんの胃袋に収まってしまった。
まさしく、トンビに油揚げを奪われるというやつだった。
「また下品なことを。手段選ばずかよ」
「んふふ、勝てば官軍なんだよ坊や。教訓にするんだね」
食い意地の張った美人が、唇を舌でべろりと舐め回しながらそう言った。奪い取った餅を食べたあとの仕草とは思えないエロさだった。




