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「ちょっとレオン、何で分かったの? ホントに名古屋港であってるの?」
券売機に550円を投入しながら、レオンは話す。
「何で7だけ色が無かったと思う?」
「何でって、知らないわよ」
「変わった色だからだよ。7の色を教えてやろうか。きっと……あずき色だよ」
あずき色? と、シオンは眉をひそめた。
「そして9の色は……黄色の帯だ」
シオンの目が大きく見開いた。
「ビリヤード……!」
「その通り。そしてdodici(12)の玉の色は、紫の帯。平面図にすると、紫の2重線に見えなくもない。
その上、3区で所要時間は凡そ17分。栄から名港まで乗り換え無しの電車は10分に一本。次は2分半後だ。しかし……」
「しかし、何なのよ?」
出てきた名古屋港行きの切符を、ひったくるようにして取り出したシオンは、小人用の切符をリオンに渡しながら尋ねた。
「いや、今はとにかくホームへ急ごう」
そうして3人は、名港線の乗降ホームへと駆けていった。
残されたアリアドネの女占い師は、はぁっとため息を吐く。
「ったく、何なのよあいつら。死ぬかと思ったじゃない……ん?」
占い師の前に、走っていったはずのリオンが佇んでいた。
「どうしたの、可愛いお嬢さん。まだこの私に用があるの?」
お団子2つ頭のリオンは、自分が危険な立場にあるのを知っているにも関わらず、占い師に向かって、にぱ〜っと明るい笑顔を見せた。
「おばさん、どうもありがとう」
「はっ、はい……どう致しまして」
フワリと振り返って、シオン達の下へ駆けていく女の子を眺めながら、女占い師はガラにもなく小さく手を振っていた。
「ありがとう、か。どうしちゃったのかね、私。
……幸運のアリアドネが、貴女を守ってくれる事をささやかながら祈っているわ。がんばってね」
「当たり前だけどやっぱりいないわね、アイツら」
「あ、電車来たよ」
無邪気なリオンの声。彼女自身にはカウントダウンが見えないというのが、せめてもの救いか。そう思いつつも、シオンは先程のレオンの言葉の続きに気付き、震えてしまいそうな身体を必死に抑えていた。
「しかし……」の続き。それは、リオンの首枷のタイムリミットが、名港駅に着いた時点で殆ど残っていないという事だ。
電車がホームに停まった現時点で、デジタルは【18:45】。20秒程の停車時間を経て出発した電車は、17分かけて名港駅に直通する。
すなわち、目的地に着いた時点の残り時間は、1分半もないのだ。推理が外れていたなら勿論、よしんば的中していたとしても。
10分も前に到着しているオーバーオールの2人の持つ、リモコンの半径20Mに入らなければならないのだ。
殆ど絶望的。この電車が、死出の棺桶にも思えてくる。だが乗らないわけにはいかない。重い足どりで車内に乗り込み、シオンは壁にもたれかかった。
「こんなのがゲームなの……?」
声に出したつもりはなかったのだが、シオンは自分でも気付かない内に呟いていた。
シオンの心情に思い至ったレオンは、ガタゴトと揺れる、電車の騒音に掻き消えない程度の声量で、彼女に話しかけた。
「俺がヤツらなら。……いいか、これは大事な物の考え方だ。自分が相手だったらどうするか。相手の立場に立って考えるんだ。
俺がヤツらなら、到着駅に何かを仕掛ける」
「何かって?」
「例えばリモコンと共に次の謎を同梱したバッグとか……とにかく、だ。
ここまでやってこれで終わりだなんて、そんな意味のないゲームはしないはず。
ビリヤードしかり、遊びの好きな奴なら絶対駅に何かを残す筈。1分でそれを探すんだ、いいな」
リオンの首枷のデジタル表示は、どんどん減っていく。自分の事のように苦悶の表情を浮かべるシオンは、握り返してくる小さな手に想いをのせる。
必ず助ける。そのための努力なら惜しまない。私の全てを懸けて、リオンの未来を……勝ち取る!




