2.星の下で
「あなたは……お父様が召喚した勇者様……ですわよね?」
そう話しかけてきたのは、腰まで届く銀髪に赤目の綺麗な女の子だった。
「えっと、そうですね、召喚されたのは違いないですよ……」
(...ん?というか国王様をお父様と呼ぶということは…」)
「あ、私ったら名前も申し上げずに。失礼しました。わたくしはこの国の第一王女 ユミエール=ブリギッド と申します。以後お見知りおきを、勇者様。」
ニコッと微笑んだ王女は、流れるような美しい所作で自己紹介をした。
やはり未来の予想通り、ユミエールは王女だった。外見に関しては、国王もまた銀髪であり赤い目をしていたため確かに似ていた。...まあ額のあたりは少し肌色が目立っていたが。
「あ、僕は瀬田未来といいます。それと、申し訳ないのですが王女様、僕は勇者ではないと思いますよ。」
「え、しかしお父様によって異界より召喚されたのですよね?」
「はい、ですがどうやら僕にはスキルが備わっていないようでして…」
「あら、それは......」
未来は不安だった。スキルを持っていないことについて「呆れられるかも...」「馬鹿にされるかも...」と。
「不安...ですよね......。」
「......え?」
予想外の言葉だった。未来は、正直この国におけるスキルを持つ者の価値をしっかりと掴めていなかった。しかし、あの場で鑑定結果が判明した時の空気で感じてしまっていた。「この国で今、僕には価値がないんだ...」と。
「何も...思わないのですか......?」
「ですから、不安ですよね?と」
「いや...そうではなく......!」
「...?」
未来は俯き、なにか言おうとして、やめた。
「もしかして......」
ユミエールが顔を少し近づけてくる。
「慰めて欲しいんですの??」
「...ッ!!ち、違います!//そんな無礼なこと!」
「ふふふっ」
少し挑発的な顔でそんなことを言うユミエールに、未来は恥ずかしくて顔を赤くした。その様子にユミエールはコロコロと笑う。
「こ、こんな召喚者を見て王女様も呆れられるのでは...と思いまして...」
ユミエールはキョトンとして、すぐ微笑んだ。
「そんなことで呆れたりなんてしませんわ。......自分では、どうにも出来ないことでしょう......」
優しい微笑みだった。けれど未来には少し悲しそうにも見えた。
「ところで、王女様はこんな時間に何故ベランダに?」
日は落ち、城の灯りも消え、廊下には誰もいない、ただの散歩でベランダまで?と未来は考えていた。
「よく来るんです。...少し、1人で考えたい時などに。」
「...悩み事でもあるんですか?」
「......まあ、そんなところですわ」
でも、なぜわざわざベランダに来るのだろうか。
(もしや......王女様も星空を......!)
「素敵ですよね。このお城から見える景色。」
「ええ、本当に。この景色を見ていたら小さな悩みなんて忘れてしまいます。」
(この人......僕と同じだ.........!)
「そうなんですよ!自分自身の在り方を思い出せますよね!」
「はい。この景色を、壊したくありませんもの。」
(ん?何か凄い壮大なこと言ってない?)
「それにしても、瀬田様はよく魔法なしでこの景色が見えますわね?」
召喚者様は夜目を使えますの?とユミエールが続けて言っている。
「え?星は光ってるから見えますよ?」
「?」
「?」
未来と王女は思った、「……あれ?おかしくない?」と。
「す、すみません!てっきり星空のことを言ってるのかと思いまして...」
「わ、私こそ!瀬田様の考えが上手く拾えず...」
一拍。
「......ふふっ」
「......ははっ」
「あははっ、もう!こんなに綺麗にお話がズレたの初めてですわ!」
「はははっ、すみません、僕の伝え方が悪かったですよね。」
と、星空の下、2人とも大きな声を出して笑った。
「ふ〜......これだけ笑うと不安も忘れちゃいそうです。」
「ふふっ、ええ。本当に」
ユミエールはふぅ〜と息を吸いつつ、笑い涙を拭き、ニコッと微笑んだ。すると何やらユミエールの手が光り出した。
「付与 聖なる光」
ユミエールは、凛とした声でそう言いながら光り輝く右手を未来の目の前にかざした。すると......
「...え!なにこれ!」
夜のはずなのに灯りの届かないところの物まではっきりと見えるようになっていた。
「ふふっ、これは私のスキルの力を使った擬似的な夜目ですの。」
初めて自分の身に起きた不思議な体験に、未来が少しはしゃいでいると、ユミエールが視線を星空のすぐ下に向けた。
「私は、この景色が好きなんです。」
「うわぁ......すごいなぁ......」
未来が視線を追って目にしたのは、城の下に広がる城下町の景色だった。
「この街に広がる全ての家に、人がいて、家族がいる。そう考えると、なんだか自分がちっぽけに感じてきますの。」
「確かに、なんだか不思議な気持ちになってきます。」
ユミエールは、ふふっと笑いながら「しかし...」と続ける。
「わたくしは王族、王族には、この城下に住まう人々を守り抜くという責務があるのです。」
その時、未来は確かに感じていた。この自分と同じくらいの年の女の子から、計り知れない思いと、覚悟を。
「だから、うじうじといつまでも悩んでる暇があったらこの景色を見て勇気を貰うのです!」
ユミエールはふんす!と鼻を鳴らしている。
「王女様は立派ですね!」
そういうとユミエールは、微笑みながら少し悲しそうに口を開いた。
「......そうみえますか?」
「はい!僕と変わらないくらいの歳なのにもう王族の責務を果たすために覚悟を決めているのは凄く立派だと思います!」
「......」
ユミエールが少し俯く。 未来は「それに...」と続ける。
「1人の人間としても尊敬します」
ユミエールは落としていた視線を再び未来へと向けた。
「...え?」
「自分の悩み事を他の人の生活や人生を考えて吹き飛ばすなんて!凄くかっこいいです!僕にはとても出来ないです」
未来はさらに言葉を続ける。
「王女様は悩み事があったからここにきた、そうですよね?それなのに僕の事を心配して気持ちに寄り添ってくれた」
「そんなの...きっと誰だって...」
「できませんよ!」
未来の大きめな声に、ユミエールは少し驚いた顔で未来をみた。
「一人で考えたくなるような悩みを抱えながら他の人の気持ちに寄りそうなんて、普通はできませんよ!」
未来は、ユミエールを真っ直ぐ見つめる。ユミエールの瞳が少し潤んでいる。
「......ふふっ...変わったお人ですね。」
ユミエールが微笑んだ。その顔に未来も微笑む。
「まさか王女が意見を言い終わる前に否定してくるなんて」
「...はっ!」
未来の顔がサーっと青くなっていく。
「も、申し訳ありませんんん!」
未来は流れるような土下座をした。するとユミエールが「ふふっ♪」といたずらっぽい笑みを浮かべながら口を開く。
「冗談ですよ。さっきは沢山褒められて少し恥ずかしかったのでちょっとしたお返しです」
ペロッと舌を出しながらそう言うと、ユミエールはベランダの扉を開けた。
「それでは、私はこの辺りでおいとまいたしますわ。お話に付き合っていただきありがとうございました」
「あ、はい!こちらこそありがとうございました!それと、申し訳ありませんでした。」
「ふふっ、別に怒っていませんよ」
未来は、ホッと胸を撫で下ろした。
「では、またお会いしましょうね。未来様」
そう言い終わるとユミエールは、ベランダを後にした。
(すごく、いい人だったなぁ)
未来はそんなことを思いながら、再び星空に視線を向ける。
あんな風に楽しく話したのは前の世界の友達との会話以来だった。
(みんな、元気かなぁ)
星空を眺めながら、未来は元の世界に残してきた友人たちを思い出していた。




