3.施しと覚悟
「未来ってほんとに星が好きだよね」
「うん、ずっと見てたいくらい」
未来と姫華は、夜の公園にいた。
「でも、やっぱりキャンプの時山で見る星が一番きれいなんだ、一生見てたって飽きないくらいだよ」
「へー……」
姫華がなにやら顔を俯かせながら口元をもにゅもにゅさせている。
「? どうしたの姫華?」
「私も…」
姫華は頬を赤らめながら口を開く。
「私も、未来と一緒に山に行きたいなぁー…なんて」
顔を俯かせながらもちらちらと未来のほうに視線を送る。
「あ、いいね!一緒に行こうよ!」
すると、姫華は花が咲くかのような笑顔を未来に向ける。
「週末に橘先輩と山に行く約束してたんだ!ちょうどいいから一緒に行こう!」
姫華の花が枯れた。俯いて地面をいじいじし始めた。
「いやー友達と星を見に行けるなんて楽しみだな~……ん?姫華どうしたの?」
「なんでもない!未来のバカ!」
ほっぺを膨らませた姫華は、立ち上がって公園から出て行ってしまった。
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「……あれ?ここは…?」
未来は体を起こし、あたりをきょろきょろ見回した。
(あぁ、そっか、僕異世界にいるんだった)
昨晩、王女様と話したあと、少しだけ元の世界のことを思い出していた。そのせいだろうか。夢にまであの頃の景色が出てきた。
(そういえばあの時の姫華すごい怒ってたな……なんでだろ)
そんなことを考えていると、コンコンッとドアをノックする音と声が聞こえた。
「未来様、入ってもよろしいでしょうか」
「あ、はーい!」
ガチャとドアを開けて入ってきたのは、この城の使用人らしき人物だった。
「国王様が呼ばれております。準備ができ次第、謁見の間まで来てもらいたいとのことです。」
「...わかりました。ありがとうございます」
すると使用人は美しい所作でペコリと頭を下げて未来の部屋を出て行った。
「国王様の呼び出し………処刑……は流石に急すぎるかな…」
未来は、内心不安で潰れてしまいそうだったが手早く、用意されていた着替えを着て、これまた用意されていた水で顔を洗い部屋を出た。
謁見の間につくとそこには、国王と横にいる男、それと少し普通の兵士とは違う雰囲気の兵士が一人の計3人がいた。
国王の前に膝まづく、そこであることに気づいた。
(なんか......国王様、顔色悪くない?)
昨日の鑑定後もなかなかだったが、今日はクマがプラスされて顔も青白く、目がキマっている。夜中に出くわしたら漏らしてたところだ。
「未来よ、お前の扱いについて話し合った」
国王が生気のない表情で口を開いた。
「”3日”かかった。死ぬかと思った」
「...え?3日?」
未来が召喚されたのは昨晩なので3日かかったなんておかしな話である。
「あぁそうか、未来は知らんかったな」
国王様が横にいる男を指でちょいちょいと呼んだ。
「我が国の宰相でな、こやつのスキルでちょいと自分の感じる時間を伸ばしたのだ」
「ミロエル=ロードルフと申します」
ペコリと頭を下げて宰相が自己紹介をした。それに対して未来も深々頭を下げる。
(〇神と〇の部屋的な感じかな?)
「それとこの兵士が、我が国の近衛騎士団 団長の...」
「ユーグリス=ベルナンデだ」
と騎士団長が白い歯を見せながら自己紹介した。それに対して未来も深々頭を下げる。
(...2人とも国王様と3徹したんだな......顔こわい)
宰相も騎士団長もそれはそれは立派なクマが出来ていて、顔も青白い。未来が深々お辞儀をしたまんまなのは決してゾンビみたいな3人の顔から目を逸らしたかったからでは無い。きっと。
「それで未来よ、お主の処遇だが......」
(......ッ)
未来はギュッと目を瞑った。
「この城に住んでもらうことになった」
「............ぇ?」
予想してなかった訳ではなかった。だが呆気にとられてしまった。未来を城に置いておくメリットを全く感じなかったからである。当の未来自身も。
「...あの......なぜですか?」
正直、処刑とか島流しとか言われたらどうにか隙を見て逃げ出そうと思っていたのだが......
「? なぜとは?」
「...だって僕がお城にいても......できることは...」
「何を言ってるのだ?」
未来の腕は震えていた。それは恐怖からなのか、それとも自分自身への怒りからなのか。
「この世界に召喚したのはこちらの意思、つまり我儘なのだ。君が望んだ力を持っていなかったからと言って、君の身を保護しないのは王として、いや人としてあってはならないことだろう」
「......」
「すまない。本来は元の世界に未来を送り返して然るべきなのだろうが......この世界から元の世界へは送り返せぬのだ。.........すまない」
未来は安堵していた。明日も生きていけそうで。情けなかった。安堵している自分が。悲しかった。もう元の世界の友達にも、家族にも会えないことが。
「……」
この世界で、勇者として呼ばれたはずの自分はただ保護されるだけの存在であることに、この国の人たちの期待に応えられなかったことに、ただただ不甲斐なかった。色々な感情が入り混じって、今にも泣き出してしまいそうだった。
「未来よ、せめてこの城で、好きなように生きてくれ」
「...............はい。」
「では、部屋に戻ってよいぞ」
部屋に戻って、未来は泣いていた。できるだけ声を出さないように、声を出したらこの現実に、この世界にいる事実に押しつぶされてしまいそうだったから。
ずっと一緒にいた幼なじみに殺され、召喚された世界からは無能だと言われ、そのさまにこの世界の人からは同情され施しを与えられ、おまけにもう元の世界には帰れない。
「.........クソッ......」
どんなに嘆いたって何も変わらないことは未来にもわかっていた。
「...僕は......どうしたいんだ...」
このままこのお城に居たって生きていける。でもそんな生き方は望んでいない。
「...僕は...どうすべきなんだ」
この国で召喚が行われることの意味、城の空気、皆の表情。
「...この国は.........もう悪魔に対抗出来ない......?」
国王の目は、諦めていた。宰相は、時間を稼いでまで結論を出した。騎士団長は、歯を見せて笑っていたが、目は笑ってなかった。……召喚が失敗したことで、誰もが『絶望』を感じているのではないか。
"勇者召喚"はこの国にとっての切り札だったのでは?つまり、この国の皆にとっての最後の希望だったのではないか。そんな考えが浮かぶ。
「.........」
未来の腕は震えている。見えてしまったから、この国の未来が、この国で言葉を交わした人達の未来が。
(......死。)
「......なにかしないと.........。」
──ドクンッ。
あの時、姫華に刺された時の感情が蘇る。
痛い、苦しい、熱い、寒い、怖い、悲しい。そして何よりも姫華にあんなことを、あんな表情をさせた自分が許せない。悔しい。
「......もう、二度と繰り返さない」
涙を拭った未来は、ベッドから起き上がる。
「...せめて......僕にできることを...精一杯......!」
拳を握りしめながら、この気持ちを刻み付けるように、強く、胸に誓った。
──ゴオォン。
「なっ、なんだ!?」
急に、未来の頭の中に鐘のなるような音が響いた。同時に脳内に、ある3つの文章が浮かんできたのだった。




