第5話 ~人生って楽しい~
キーンコーンカーンコーン。
昼休みを告げるチャイムが鳴る。僕はドキドキしながら勉強道具を片付け、母さんが作ってくれた弁当箱を出した。
そして……。
「失礼しやーす」
来た……!
「あっ、ええと……ええと……」
ヤバい……名前が出てこない……。これは無礼過ぎる……。
彼は側にあった椅子を僕の正面に置いて、ドカリと座った。
「島木」
彼はそれだけ言う。
「え?」
「名前。大勢いるとわけわからねぇよな」
どうやら彼……島木くんはいろいろと察してくれた様だ。とてもありがたい。
島木くんは焼きそばパンを机の上に置いた。
「じゃ、食べるか」
「う、うん……」
緊張する……。ご飯を食べるだけなのに……。いやでもこういうのって話しながら食べるものだよな……。
なんて頭の中でぐるぐるしていると、島木くんが話しかけて来た。
「それ、手作り?」
僕の弁当箱を指して言う。
「あ、う、うん……。母さんが張り切って作ってくれた……」
島木くんは笑う。
「良いじゃん、そういうの」
僕も嬉しくなって笑う。
「うん」
それから僕らはいろんなことを話した。
島木くんは焼きそばパンが好きで毎日食べていること。栄養が偏らないかと聞くと、細かいことは気にすんなと言われた。
お互いの趣味のこと。島木くんはゲームが好きで、何時間もやってると勉強しろと親に怒られること。僕は音楽と教会のことを話すと「普通にすげぇ」と尊敬され、照れくさかった。
楽しい時間はあっという間で、すぐに昼休みは終わった。島木くんは焼きそばパンの包装をくしゃりと握って言った。
「また明日」
「え」
島木くんは後ろを向いて手を振る。「また明日」ってことは明日も一緒に……。僕は島木くんに返した。
「また明日!」
こんなに……こんなに明日が待ち遠しいのは初めてだった。
「お友達ができた感想は?」
家に帰るとネオンは右手をグーにして聞いてくる。マイクのつもりだろう。
「楽しい」
「良かったね!」
「ネオン、ありがとう」
ネオンの助言があったから、島木くんと仲良くなれた。今までだってそうだ。ネオンがいたから……。
「ウチはなんもしてませんて~。奏が頑張ったんだよ。いくらウチがなんか言ったって、奏がやってなきゃなにも変わらないよ」
「ネオン……」
ネオンは笑って言う。
「奏は立派だよ! 自信持って!」
ネオンの言葉に顔が綻ぶ。
「うん」
島木くんとは毎日昼ご飯を食べる仲になった。そんなある日。
「なあ、岡田。ちょっと教室行く気ねぇ?」
「え?」
島木くんは突然言った。
「いやさ、無理強いはしねぇけど、ちょっと覗くだけさ」
確かに……保健室にも通い慣れたし、教室にも顔を出してみたい。けど……。
「緊張する……。何か言われたらどうしよう……。変な目で見られたら……」
島木くんは僕の肩に手を乗せた。
「そん時は俺がシメてやるよ。まあ、そんな心配しなくても人間ってな、良くも悪くもそんな他人に興味ねぇから」
島木くんの言っていることは良いことなのか悪いことなのか……。でも、ということは。
「島木くんは僕に興味持ってくれたの?」
島木くんは照れくさそうに頭を掻く。
「そういう事」
にやけてしまうじゃないか。じゃあ、そんな島木くんの提案には……。
「行ってみる」
乗ってみなくちゃ。
昼ご飯を早めに食べ終わり、僕達は教室に向かう為廊下を歩いていた。緊張はする。けど、島木くんもネオンもいるから、きっと大丈夫。
教室の前に着いて島木くんは「入るぞ」と言う。僕はこくりとうなずいた。
島木くんが先に入って、僕も後から続く。教室の敷居を跨ぐ。ざわざわと休み時間の喧騒が聞こえる。
まあ、なんていうか、たったそれだけ。たまにチラチラ見てくる人達はいたけど、すぐに自分達のお喋りに戻る。
「な? なんでもねぇだろ?」
島木くんの言う通りだった。僕はおかしくなってくすりと笑った。
「うん」
ネオンも嬉しそうに笑ってた。
人間って成長するもので。一度教室に入れば後は簡単。僕は昼休みを教室で過ごす様になった。
島木くんの友達とも一緒にご飯を食べる様になった。初めはそりゃ緊張したけど、今は楽しい。
だからかな。教室で授業を受けようって気になったのは。それを島木くん達に言ったら「すげぇじゃん」なんて褒められて、嬉しかった。
最初は一時間だけ。保健室登校と同じ様に、二時間、三時間と増やして、ついには一日いられる様になった。先生にも褒められた。
休み時間は島木くん達と話して、いつかお前の曲聴いてみてぇ、なんて言われて誇らしかった。家か教会に来たら聴けるよ、って言ったら遊ぶ約束を取りつけられた。嬉しかった。とても、とっても。
人生がこんなに楽しいなんて、知らなかった。ネオンに取り憑かれてからだ、それを知ったのは。でもネオンは言うだろう。
「奏が頑張ったからだよ」
君はそういう人だ。




