表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/7

第5話 ~人生って楽しい~

 キーンコーンカーンコーン。

 昼休みを告げるチャイムが鳴る。僕はドキドキしながら勉強道具を片付け、母さんが作ってくれた弁当箱を出した。

 そして……。

「失礼しやーす」

 来た……!

「あっ、ええと……ええと……」

 ヤバい……名前が出てこない……。これは無礼過ぎる……。

 彼は側にあった椅子を僕の正面に置いて、ドカリと座った。

「島木」

 彼はそれだけ言う。

「え?」

「名前。大勢いるとわけわからねぇよな」

 どうやら彼……島木くんはいろいろと察してくれた様だ。とてもありがたい。

 島木くんは焼きそばパンを机の上に置いた。

「じゃ、食べるか」

「う、うん……」

 緊張する……。ご飯を食べるだけなのに……。いやでもこういうのって話しながら食べるものだよな……。

 なんて頭の中でぐるぐるしていると、島木くんが話しかけて来た。

「それ、手作り?」

 僕の弁当箱を指して言う。

「あ、う、うん……。母さんが張り切って作ってくれた……」

 島木くんは笑う。

「良いじゃん、そういうの」

 僕も嬉しくなって笑う。

「うん」

 それから僕らはいろんなことを話した。

 島木くんは焼きそばパンが好きで毎日食べていること。栄養が偏らないかと聞くと、細かいことは気にすんなと言われた。

 お互いの趣味のこと。島木くんはゲームが好きで、何時間もやってると勉強しろと親に怒られること。僕は音楽と教会のことを話すと「普通にすげぇ」と尊敬され、照れくさかった。

 楽しい時間はあっという間で、すぐに昼休みは終わった。島木くんは焼きそばパンの包装をくしゃりと握って言った。

「また明日」

「え」

 島木くんは後ろを向いて手を振る。「また明日」ってことは明日も一緒に……。僕は島木くんに返した。

「また明日!」

 こんなに……こんなに明日が待ち遠しいのは初めてだった。


「お友達ができた感想は?」

 家に帰るとネオンは右手をグーにして聞いてくる。マイクのつもりだろう。

「楽しい」

「良かったね!」

「ネオン、ありがとう」

 ネオンの助言があったから、島木くんと仲良くなれた。今までだってそうだ。ネオンがいたから……。

「ウチはなんもしてませんて~。奏が頑張ったんだよ。いくらウチがなんか言ったって、奏がやってなきゃなにも変わらないよ」

「ネオン……」

 ネオンは笑って言う。

「奏は立派だよ! 自信持って!」

 ネオンの言葉に顔が綻ぶ。

「うん」


 島木くんとは毎日昼ご飯を食べる仲になった。そんなある日。

「なあ、岡田。ちょっと教室行く気ねぇ?」

「え?」

 島木くんは突然言った。

「いやさ、無理強いはしねぇけど、ちょっと覗くだけさ」

 確かに……保健室にも通い慣れたし、教室にも顔を出してみたい。けど……。

「緊張する……。何か言われたらどうしよう……。変な目で見られたら……」

 島木くんは僕の肩に手を乗せた。

「そん時は俺がシメてやるよ。まあ、そんな心配しなくても人間ってな、良くも悪くもそんな他人に興味ねぇから」

 島木くんの言っていることは良いことなのか悪いことなのか……。でも、ということは。

「島木くんは僕に興味持ってくれたの?」

 島木くんは照れくさそうに頭を掻く。

「そういう事」

 にやけてしまうじゃないか。じゃあ、そんな島木くんの提案には……。

「行ってみる」

 乗ってみなくちゃ。


 昼ご飯を早めに食べ終わり、僕達は教室に向かう為廊下を歩いていた。緊張はする。けど、島木くんもネオンもいるから、きっと大丈夫。

 教室の前に着いて島木くんは「入るぞ」と言う。僕はこくりとうなずいた。

 島木くんが先に入って、僕も後から続く。教室の敷居を跨ぐ。ざわざわと休み時間の喧騒が聞こえる。

 まあ、なんていうか、たったそれだけ。たまにチラチラ見てくる人達はいたけど、すぐに自分達のお喋りに戻る。

「な? なんでもねぇだろ?」

 島木くんの言う通りだった。僕はおかしくなってくすりと笑った。

「うん」

 ネオンも嬉しそうに笑ってた。


 人間って成長するもので。一度教室に入れば後は簡単。僕は昼休みを教室で過ごす様になった。

 島木くんの友達とも一緒にご飯を食べる様になった。初めはそりゃ緊張したけど、今は楽しい。

 だからかな。教室で授業を受けようって気になったのは。それを島木くん達に言ったら「すげぇじゃん」なんて褒められて、嬉しかった。

 最初は一時間だけ。保健室登校と同じ様に、二時間、三時間と増やして、ついには一日いられる様になった。先生にも褒められた。

 休み時間は島木くん達と話して、いつかお前の曲聴いてみてぇ、なんて言われて誇らしかった。家か教会に来たら聴けるよ、って言ったら遊ぶ約束を取りつけられた。嬉しかった。とても、とっても。

 人生がこんなに楽しいなんて、知らなかった。ネオンに取り憑かれてからだ、それを知ったのは。でもネオンは言うだろう。

「奏が頑張ったからだよ」

 君はそういう人だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ