第4話 ~友達~
学校が近づくにつれ、周りに生徒達が増える。緊張で呼吸が荒くなって頭がくらくらする。このまま倒れるんじゃないか、やっぱり僕には無理だったんじゃないか。
そんなことを考えているとネオンが僕の顔を覗き込んできた。「うわっ!」と驚きそうになるが、今ここでそういうリアクションをとると変人扱い確定だ。僕はギリギリ耐えた。
ネオンに小声で話しかける。
「なんだよ……」
「緊張してる?」
「そりゃもちろん……」
僕にとっては一大イベントなんだから……。
けれどネオンは、にっと笑う。
「ウチがついてるから大丈夫!」
……なんだそれ。
でも……悔しいけど、その通りだ。ネオンがいるなら……きっと大丈夫だ。僕は一人じゃない。
そう思ったら、なんだか息がしやすかった。
昇降口で靴を履き替えて、保健室へ向かう。
保健室に着き、扉の前で何度か深呼吸する。そしてそっと扉を開けた。
「し、失礼します~……」
保健室の中では白衣を着た保険医の先生がいた。
「あの、今日から保健室登校する岡田 奏です……」
ドキドキする。でも、ネオンがいるから、僕は頑張る……!
保険医の先生は僕に歩み寄る。そしてこう言った。
「よく来たね、頑張った。花丸だよ」
「え……あ……」
僕は張り詰めていたものが解けて涙が溢れてきた。先生はティッシュを持ってきてくれて、背中をさすってくれた。
僕、頑張れそうだよ、ネオン。みんなのおかげでまた一歩、踏み出せた。
ネオンは保健室内を飛び回り「頑張った! 頑張った!」と騒いでいた。
保健室登校を続けてしばらく経った。一時間が二時間、二時間が三時間。順調に僕は学校にいる時間を増やし、一日いれるまでになった。教会へ行く時間は減ったけど、シスターは喜んでくれた。もちろん、他のみんなも。
けれど、人間って強欲だ。欲しいものが手に入ったら次のものが欲しくなる。
「日曜日カラオケ行かね?」
「おっけ、おっけ~」
「で? で? 噂の彼とはどーなった?」
「いや~もう、いや~言えねぇわ~」
下校中に聞こえてくる会話。とても楽しそうだ。僕は人知れずため息をついた。
そう、友達が欲しい。羨ましい。人間とは強欲だ。
「ね~、なんか最近テンション下がり気味?」
「えっ」
自分の部屋で勉強していると、ネオンがそう言ってきた。
「ネオンさんはズバリ当てます。友達が欲しいんでしょ?」
ネオンは、にししと笑う。流石と言うべきか。僕は観念して話し始めた。
「……自分が恵まれてるのはわかってる。これ以上望むことなんて強欲だ。でも……」
憧れるんだ。眩しいんだ。酷く寂しく思うんだ。
「ウチは友達になり得ぬか~」
「ネッネオンは友達っていうか……!」
とても大事な奴で……。友達……とか言われるとモヤモヤする……。
ネオンは笑って言う。
「ジョーダン! ジョーダン! 奏は幽霊なんかよりも生身の人間の友達作りな! 強欲結構! それが人間だ!」
ネオンの言葉に僕の胸はチクリと痛んだ。『幽霊なんか』なんて言うなよ……。
それと同時に強欲でいいと自分が認められた様で……安心した。
「ウチが友達の作り方伝授してあげる!」
気になる……。
「あのね~……」
僕はドキドキワクワクしながらネオンの言葉を待った。
「『おはよう』って毎日言えばいいの」
……おはよう?
「それだけ?」
「そんだけ」
拍子抜けというか疑わしい。本当にそれで友達なんかできるのか。
「疑ってるね?」
ギクリ。
「まあ、やるだけタダだから試してみんさい」
確かにそれはそうだ。明日からやってみようかな……。
そうして朝はやって来る。僕は心臓をバクバクさせながら登校する。
そして昇降口。靴を履き替える同じクラスであろう男子。その一瞬の隙を突いて僕は言った。
「お、お、お、おはよう!」
かなり不審者じみてるのは自分でもわかってる。でもこれくらい許してよ。勇気出したんだ……。
男子は目をぱちくりとさせていた。
「……」
「……」
いや、なんにも起こらないじゃん! なんにも言われないじゃん! こんなのただの不審者で終わるじゃん! ネオンの嘘つき!
そう心の中で暴れまわっていると。
「はよ」
それだけ言って男子は去っていった。
挨拶……返してくれた? たった二文字。でもその二文字が僕にはどうしようもなく……嬉しかった。
ネオンを見るとウィンクしていた。……嘘つきとか言ってごめん。
そうして僕は毎日、いろんな人におはようと言った。特に通学時間が被る例の男子には毎朝昇降口で挨拶を交わす仲になった。僕の一方通行かもしれないけど、それでも嬉しかった。
ある時、いつもの様に彼におはようと言った。彼は挨拶を返す。それで終わり、のはずだった。しかし、今日は違った。続きがあった。
「なあ」
「え?」
話しかけられるとは思わず、すっとんきょうな声が出た。変に思われたらどうしよう、なんて心の中は大忙しだ。
そんな僕の内心を露知らず、彼は言う。
「お前、岡田だろ? しばらく来てなかった。去年も同じクラスだったから」
「え、あ、うん」
彼は僕を知ってくれていた。けど、僕の記憶には彼はいない。申し訳なかった。
「い、今は保健室登校してて……」
その代わりと言ってはなんだが自分の情報を提示した。彼は「ふーん」と言ってから、次の言葉を告げた。
「あのさ、昼飯、一緒に食べね? 教室行きづらいなら保健室行くし」
「え」
今度は間抜けた声が出た。
「な、なんで……?」
声が震える。どうして僕と? 気になって仕方がない。彼は、んーと空を見てから言った。
「なんとなく。毎日挨拶する仲だし、ちょっとお前のこと気になった」
ネオン……これって……これって……。
「友達一号ー!」
ネオンは左腕を上げてはしゃいでいる。
期待……してもいいのかな……?




